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第1章
第7話:アンデット
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ガニラス王国歴二七三年五月五日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
俺達は急いで鐘がならされている防壁長屋の方に向かった。
パッタージ騎士家の人達は、今回は俺を案内する義務がないので、とんでもない速さで行ってしまった。
俺が老人だから遅れるのではなく、神の祝福による体力差だろう。
異世界に転移できる場所を探しあてるまでに、随分と色んな場所に行った。
神隠しや天狗隠しの伝承がある場所は、基本的に人里から離れた場所にある。
何度も荷物を持って山頂などに登っていたので、自分の体力は分かっている。
還暦前にふさわしい体力しかなかったのに、驚くほど速く走れている。
領主一族の足元にも及ばないが、自分としては感動に打ち震えるほど速い。
ヴィオレッタの話では、五回は祝福を受けるくらいの狼を殺しているそうだ。
「どのような状況なのですか?」
自分では十分満足できる速さで防壁長屋の上に来られたが、領主一族よりは遅れてしまっていたので、ルイジャイアンに状況を教えてもらう事にした。
「最悪だ、アンデットが襲って来た」
「アンデットというのは、死んだモノが蘇ったモンスターですか?」
「そうだ、普通は骨まで喰われるからアンデットにはならない。
アンデットが発生するのは、ネクロマンサーが意識的に創った場合が多い。
次に多いのが、火葬して骨を砕くという常識を守らない奴がいた場合だ」
うっわ、アンデットが発生する世界では、葬り方の常識が怖い!
だが、確かに、土葬した家族がゾンビになって襲ってきたら嫌だよな。
焼いただけだとスケルトンになってしまうから、骨を砕くしかないか……
「今回は、滅多にない事だが、最悪の状態だ」
「何がどう最悪なのですか?」
「さっきも言ったが、魔境で死んだモノは骨まで喰われるのが普通だ」
「今そう言われていましたね」
「魔境で食べられずにアンデットになるモノは、どんなモノだと思う?」
「皮がとんでもなく硬くて食べられない魔獣。
皮や肉は食べられたけれど、骨が硬すぎて食べられなかった魔獣。
皮や肉に強い毒があって食べられなかった魔獣。
あまりにも巨大すぎて、食べ切られる前にアンデットになるような魔獣。
パッと思いつくのはそれくらいですが……」
「ミノル殿が思いついた魔獣がアンデットとなって襲って来たのだ。
魔境の魔獣でも食べられないような連中を、何とかして撃退しなければならん」
「この世界には、アンデットを斃す魔術はないのですか?」
「以前は有ったそうなのだが、今は使えなくなった」
「この世界は、神々の加護を得られるから魔術が使えるのですね?」
「……そうだ」
「もしかして、光の神と癒しの神が人族を見捨てられたのですか?」
「はっきりとした事は分からないが、その可能性は高い」
「この世界には数多くの神がおられて、同じ効果の魔術でも、加護を与えて下さる神々によって威力が違うのですね?」
「神々の祝福の多さによる違いも大きいが、その考えで間違っていない」
「それでは、光を司る神様たちと癒しを司る神様たち、その全員から人族が見捨てられた事になりますが?」
「認めたくないが、その通りだ」
この世界、結構とんでもないことになっている。
「ないモノはしかたありません、他に撃退する方法はあるのですか?」
「アンデットは陽の光に弱い。
強大なアンデットを滅するのは時間がかかるが、耐え忍べば何とかなる」
「あんな強大なアンデットを防げるのですか?」
動きは早くないが、とんでもなく巨大なモノが近づいてくる。
老眼と近眼なので、眼鏡と双眼鏡を使ってようやく見ているが、でかすぎる!
アフリカゾウを二回りも三回りも大きくしたような猪が近づいてくる。
あんな巨大な猪に突撃されたら、木製の防壁など紙のように破られるぞ!
それだけでも時間稼ぎが不可能に思えるのに、猪と同じくらい巨大な熊までいる。
ヒグマやホッキョクグマでも五百キロくらいだぞ!
象より三回りも大きいなら、十トンはあるぞ!
「馬に乗れる者は我に続け!」
「「「「「おう!」」」」」
命懸けの決意が伝わってくるルイジャイアンが命じ、周りの兵士が答える。
決死の突撃をする気なのは聞かなくても分かる、分かるが、聞かずにはおれない。
「ちょっと待ってくれ、何をする気だ?」
「見たらわかるだろう?!
アンデットを挑発して村とは違う方向に誘導するのだ!」
「ちょっとだけ待ってくれ、試したい事がある!」
「別世界の客人の言葉でも聞けない事はある。
試したい事があるなら好きに試してくれ。
私は領主としてなすべき事をやる!」
ルイジャイアンはそう言うと防壁長屋から下りて行った。
急いでやらないと、出さなくてもいい死傷者を出す事になってしまう。
「遠く黄泉国にて死者を統べる黄泉津大神よ
ここに御身の支配から逃れた者がいます。
どうかお迎えください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、魂送」
とっさの事で、日本の神で光や癒しを司る方を思い浮かべられなかった。
焦っていたからだが、ちょっと恥ずかしい。
だが、その代わりに思い浮かべた神は、我ながらタイムリーだと思う。
アンデットが、天国にも地獄にも行けない魂が操るモンスターなら、この世界の天国でも地獄でもない、日本の黄泉国に送ってやればいい。
これで効果がなければ……そうだ、天照大御神なら光を司っている。
癒しの神は……少彦名大神、大己貴大神、足手荒神だった。
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
俺達は急いで鐘がならされている防壁長屋の方に向かった。
パッタージ騎士家の人達は、今回は俺を案内する義務がないので、とんでもない速さで行ってしまった。
俺が老人だから遅れるのではなく、神の祝福による体力差だろう。
異世界に転移できる場所を探しあてるまでに、随分と色んな場所に行った。
神隠しや天狗隠しの伝承がある場所は、基本的に人里から離れた場所にある。
何度も荷物を持って山頂などに登っていたので、自分の体力は分かっている。
還暦前にふさわしい体力しかなかったのに、驚くほど速く走れている。
領主一族の足元にも及ばないが、自分としては感動に打ち震えるほど速い。
ヴィオレッタの話では、五回は祝福を受けるくらいの狼を殺しているそうだ。
「どのような状況なのですか?」
自分では十分満足できる速さで防壁長屋の上に来られたが、領主一族よりは遅れてしまっていたので、ルイジャイアンに状況を教えてもらう事にした。
「最悪だ、アンデットが襲って来た」
「アンデットというのは、死んだモノが蘇ったモンスターですか?」
「そうだ、普通は骨まで喰われるからアンデットにはならない。
アンデットが発生するのは、ネクロマンサーが意識的に創った場合が多い。
次に多いのが、火葬して骨を砕くという常識を守らない奴がいた場合だ」
うっわ、アンデットが発生する世界では、葬り方の常識が怖い!
だが、確かに、土葬した家族がゾンビになって襲ってきたら嫌だよな。
焼いただけだとスケルトンになってしまうから、骨を砕くしかないか……
「今回は、滅多にない事だが、最悪の状態だ」
「何がどう最悪なのですか?」
「さっきも言ったが、魔境で死んだモノは骨まで喰われるのが普通だ」
「今そう言われていましたね」
「魔境で食べられずにアンデットになるモノは、どんなモノだと思う?」
「皮がとんでもなく硬くて食べられない魔獣。
皮や肉は食べられたけれど、骨が硬すぎて食べられなかった魔獣。
皮や肉に強い毒があって食べられなかった魔獣。
あまりにも巨大すぎて、食べ切られる前にアンデットになるような魔獣。
パッと思いつくのはそれくらいですが……」
「ミノル殿が思いついた魔獣がアンデットとなって襲って来たのだ。
魔境の魔獣でも食べられないような連中を、何とかして撃退しなければならん」
「この世界には、アンデットを斃す魔術はないのですか?」
「以前は有ったそうなのだが、今は使えなくなった」
「この世界は、神々の加護を得られるから魔術が使えるのですね?」
「……そうだ」
「もしかして、光の神と癒しの神が人族を見捨てられたのですか?」
「はっきりとした事は分からないが、その可能性は高い」
「この世界には数多くの神がおられて、同じ効果の魔術でも、加護を与えて下さる神々によって威力が違うのですね?」
「神々の祝福の多さによる違いも大きいが、その考えで間違っていない」
「それでは、光を司る神様たちと癒しを司る神様たち、その全員から人族が見捨てられた事になりますが?」
「認めたくないが、その通りだ」
この世界、結構とんでもないことになっている。
「ないモノはしかたありません、他に撃退する方法はあるのですか?」
「アンデットは陽の光に弱い。
強大なアンデットを滅するのは時間がかかるが、耐え忍べば何とかなる」
「あんな強大なアンデットを防げるのですか?」
動きは早くないが、とんでもなく巨大なモノが近づいてくる。
老眼と近眼なので、眼鏡と双眼鏡を使ってようやく見ているが、でかすぎる!
アフリカゾウを二回りも三回りも大きくしたような猪が近づいてくる。
あんな巨大な猪に突撃されたら、木製の防壁など紙のように破られるぞ!
それだけでも時間稼ぎが不可能に思えるのに、猪と同じくらい巨大な熊までいる。
ヒグマやホッキョクグマでも五百キロくらいだぞ!
象より三回りも大きいなら、十トンはあるぞ!
「馬に乗れる者は我に続け!」
「「「「「おう!」」」」」
命懸けの決意が伝わってくるルイジャイアンが命じ、周りの兵士が答える。
決死の突撃をする気なのは聞かなくても分かる、分かるが、聞かずにはおれない。
「ちょっと待ってくれ、何をする気だ?」
「見たらわかるだろう?!
アンデットを挑発して村とは違う方向に誘導するのだ!」
「ちょっとだけ待ってくれ、試したい事がある!」
「別世界の客人の言葉でも聞けない事はある。
試したい事があるなら好きに試してくれ。
私は領主としてなすべき事をやる!」
ルイジャイアンはそう言うと防壁長屋から下りて行った。
急いでやらないと、出さなくてもいい死傷者を出す事になってしまう。
「遠く黄泉国にて死者を統べる黄泉津大神よ
ここに御身の支配から逃れた者がいます。
どうかお迎えください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、魂送」
とっさの事で、日本の神で光や癒しを司る方を思い浮かべられなかった。
焦っていたからだが、ちょっと恥ずかしい。
だが、その代わりに思い浮かべた神は、我ながらタイムリーだと思う。
アンデットが、天国にも地獄にも行けない魂が操るモンスターなら、この世界の天国でも地獄でもない、日本の黄泉国に送ってやればいい。
これで効果がなければ……そうだ、天照大御神なら光を司っている。
癒しの神は……少彦名大神、大己貴大神、足手荒神だった。
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