上 下
3 / 7
第一章

第3話:刺客

しおりを挟む
「ブラストン、カトリーヌは無事か?」

 俺の側で敵を待ち構えていた父のところに、外で迎撃指揮を執っていた祖父がやって来たが、もう大丈夫なのだろうか?
 まあ、まだ外には曽祖父もいれば家老もいる、祖父がここにきてもそれほどの影響はないのだろう。
 それにしても、僅か一歳の幼児に刺客を送るとは、この国の王侯貴族は血も涙もない鬼畜だな。

「はい、父上、父上のお陰でここまでたどり着く刺客は居ませんでした。
 それにしても、こう度々刺客が送られてくると、家臣の補充が間に合いません。
 このままではジリ貧になってしまいます」

 父の言う事はもっともで、刺客が送られてくるたびに皇都駐屯の家臣が死傷する。
 領地から増援を呼んではいるが、このままではいずれ腕利きの兵士を新規採用しなければいけなくなるが、そいつらの中に刺客が紛れ込む可能性もある。
 俺ならば、領地に後退して持久戦に持ち込むか、いっそ戦略後退を決断して皇太子との婚約を辞退するかだ。
 これは純粋に戦略戦術を検討した結果で、男と結婚するのが嫌だからではない!

「そうだな、確かにこのままやられっぱなしでは追い込まれてしまうな。
 だがこれは好機でもあるのだよ、ブラストン。
 敵は皇太子殿下の婚約者を殺そうとして、執拗に刺客を送って来た。
 これは皇室皇国に何度も刃を向けたのと同じなのだよ。
 まあ、これは御爺様から学んだ事だが、お前にも覚えてもらうぞ。
 単に戦場で戦うだけが領主の仕事ではないぞ」

 父が怒られているだけには聞こえず、俺まで怒られているようだ。
 どうせ俺は二佐どまりの落ちこぼれ自衛官だよ。
 海千山千の貴族社交界で、妖怪とまで呼ばれる曽祖父の足元にも及ばない。
 魔王領主と綽名される祖父には負けないと思っていたが、着々と二代目妖怪就任に向けて地力をつけているな。
 父も戦場の悪魔と呼ばれるほどの将軍だが、比較されるのが魔王や妖怪ではたいへんだな、頑張れよ親父。

「鋭意努力いたしますが、今はまず報復が先、戦場の悪魔という綽名が嘘偽りではない事、我が家に逆らった者共に思い知らせてやります」

「分かっているとは思うが、もう陣頭指揮をする立場ではないぞ。
 一族一門家臣団を上手く使って、自分は絶対に安全な場所に居る。 
 それが貴族家当主の戦い方だ。
 お前はもう十分腕前を見せつけ名を売った、次は指揮官能力を見せつけるのだ」

 確かに祖父の言う通りだ、少人数の喧嘩ならば、一番強い者が先頭に立って戦うのが一番だが、戦術を駆使する騙し合いの戦場では、大将を討ち取るのが一番だ。
 父にそれが理解できるだけの頭と、戦場の名声を捨てるだけの胆力があるかどうか、なければ俺は早々に最大の保護者を失ってしまうかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?

リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。 5話完結。 念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

婚約破棄、処刑されるなら透明スキルで壊します

朱音 アキ
恋愛
オートリア王国の第二王子クレセント・フォン・オートリア様に婚約破棄されました。 国に両親も処刑されたので。 透明スキルで壊しちゃいます。 四話で完結します。 お気に入りや感想をくださると幸いです

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

処理中です...