上 下
13 / 14

12話

しおりを挟む
 私達はシーモア公爵領に急いで戻ろうとした。
 だがその歩みは遅々として進まなかった。 
 あまりにも多くの領民がついてきたからだ。
 彼らは着の身着のままだった。
 その日の食事にも事欠く有様だった。
 私は正直焦り苛立っていたが、ディラン様の慈愛の心はビクともしない。
 分かっていた事ですが、正直ため息が出てしまうと同時に、変わらぬ慈愛に心から安堵します。

「護衛の騎士達は民を護れ。
 グレイスは私と一緒に狩りに行ってもらう。
 心配するな。
 私とグレイスが一緒で、危険な事などあるものか」

 ヒロクス子爵領にいる間に、できるだけ多くの食料を確保しなければいけません。
 他の領地では、麦ひとつ薪一つも領主のモノなのです。
 領主から貸し与えられた土地の所有者のモノなのです。
 私達が勝手に狩る事などできません。
 私達が勝手にできるのは、私達が領主とその一族を皆殺しにした、ヒロクス子爵領だけなのです。

 ディラン様と私には魔法袋があります。
 二人の魔法袋一杯に魔獣や獣を狩れば、五千人の難民を、シーモア公爵領まで飢えさせることなく移動させることが可能です。
 本来子爵家の領地には、最低でも一万人の領民がいます。
 力のある子爵家なら、四万人の領民がいてもおかしくないのです。
 ヒロクス子爵領の広さなら、三万人いてもおかしくないはずです。
 それが領民の大半がついてきているのに、五千人しかいないのです。
 いかに酷い統治が行われていたか分かるというものです。

「魔石や素材の値段は無視してくれ。
 できるだけ多くの食料を確保することを優先してくれ」

「分かりました。
 では手あたり次第狩りましょう。
 義兄上も好き嫌いなされず、魔蟲も狩ってくださいね」

「魔蟲かぁ。
 あんなモノ食べたい人がいるのか?
 私には理解できないのだがなぁ。
 いや、グレイスの好みをどうこう言っているわけではないよ。
 グレイスの生い立ちを考えれば、好き嫌いができる状況ではなかったからね。
 ただ王侯貴族の料理は、魔蟲がでる事がないのでね」

「分かっております義兄上。
 でも本当に美味しいのですよ。
 魔蟲の中には、海老や蟹より濃厚で美味しいモノもいるのです。
 義兄上に無理に食べていただこうとは思いませんが、あれほど飢えている民です。
 好き嫌いなどしないはずです」

「そうか、そうだね。
 では手あたり次第、近くににいるモノは全て狩って、魔法袋に入れよう」

 ディラン様も腹を括ってくださったので、初級下の範囲攻撃魔法で、弱い獣や魔獣を狩りまくりました。
 素材として売る気など全くないので、毛皮や外骨格に大きな傷がつく事など考えないですむので、狙いを絞る必要がないのです。
 あっという間に大量の魔蟲と魔獣と獣が狩れました。
 難民達が獣よりも魔蟲を好んで食べたことは言うまでもありません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

貧乏で地味ないじめられ男爵令嬢、魔法の才で最強魔法使いに成り上がります! ~魔法を極めていたら王子様に見初められました!?~

柴野
恋愛
貧乏で地味なことを理由で学園でいじめを受けていた男爵令嬢フィルミー・ラボリ。 婚約者の子爵令息にはろくに相手にされない上同性の友人は一人もおらず、毎日孤独な思いをしていた。 彼女はある日、「君の魔法、すごいじゃん」と謎の男性に言われ、学生でありながら魔術師団にスカウトされることに。 そして、仕事を通じてそれまで自覚していなかった魔法の才を開花させ国の最前線で活躍していく。 今まで蔑んできた者たちを見返してスッキリし、最強を目指してさらに腕を磨くフィルミーだったが、なんと第二王子に見初められてしまって……? 貧乏男爵令嬢が幸せを掴む、シンデレラストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

処理中です...