上 下
59 / 63
第一章

第59話:半神

しおりを挟む
 氏子代表衆が落胆しているのは、石姫皇女や俺を崇め続けるよりも、半分自分達の血が流れた半神を崇めたかったのだろう。
 いや、半神の力を使って、この国を征服したかったのかもしれない。
 だがそんな事は断じてやらせない。
 愛おしい我が子に危険が及ぶような真似は絶対にやらせない。

「はっきり言っておくぞ、俺の子供に危険が及ぶような事をしたら、氏子衆を皆殺しにして、この氏子村を滅ぼしてやるからな。
 ライラと子供をこの境内で育てて、他の者は皆殺しだ」

 俺は完全に本気だった、本気で怒っていた。
 こんなに怒ったのは十数年ぶりだ。
 日本では諦めた、愛する妻と子供を異世界で手に入れることができたのだ。
 その大切な妻子を危険に晒すようなモノは、絶対に許さない。
 そのモノが愛する妻の父親や兄だろうと、問答無用で殺す。

「これこれ、わらわを無視して話を進めるでない。
 主祭神はわらわで、広志は配祀神でしかないのじゃ。
 生れてくる子供は配祀神の半神でしかないのじゃ。
 過度な期待をしておると、他の神々に殺されてしまうぞ。
 わらわや広志が降臨したように、他の村の信じる神が降臨する事もある。
 その神が戦の神なら、半神など簡単に殺されてしまうのだぞ」

 石姫皇女の厳しい言葉を聞いて、氏子代表衆が真っ青な顔になった。
 特に村長の顔色は死人に近い色になっている。
 半神だと言っても自分の孫なのだ。
 その孫が他の神に殺される想像をしたのだろう。
 それにこの世界に来た当初から、石姫皇女も俺も戦いの苦手な神だと繰り返して言ってきたから、それを思い出したのだろう。

「申し訳ありませんでした、不遜な事を考えてしまっておりました。
 どうかこれまで通り我らを御守りください、伏してお願い奉ります」

 村長がそう言って土下座したら、周りの氏子代表衆も一斉に土下座した。
 冗談ではなく本気で俺の子を担いで国を支配しようとしていたのか。
 ここでどれだけ謝られても、もう信じるわけにはいかない。
 氏子衆全員を敵に回すことになっても、ライラと子供は護って見せる。
 最悪異世界から連れ出して日本に住ませる事も覚悟する。

 ライラは異世界人で言葉が話せないから戸籍をとるのは難しい。
 だが生まれていた子供は、俺の子供として出生届を出す事は可能だ。
 母親がいない状態で出生届を出すためには、捨て子を拾った事にするしかないか。
 俺が女なら、レイプされ父親の分からない子を、自分一人で自宅出産したと言い張って出生届を出すことができるが、男なので不可能だ。
 最悪の状況を考えて事前に調べておかなければいけないない。

「広志、日本に戻るのなら、今回のお礼としてフルーツと生クリームにカスタードプリンを買ってくるのじゃ、チョコレートも忘れるんじゃないぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死にたくない、若返りたい、人生やり直したい、還暦親父の異世界チート無双冒険譚

克全
ファンタジー
田中実は60歳を前にして少し心を病んでいた。父親と祖母を60歳で亡くした田中実は、自分も60歳で死ぬのだと思ってしまった。死にたくない、死ぬのが怖い、永遠に生きたいと思った田中実は、異世界行く方法を真剣に探した。過去に神隠しが起ったと言われている場所を巡り続け、ついに異世界に行ける場所を探し当てた。異世界に行って不老不死になる方法があるかと聞いたら、あると言われたが、莫大なお金が必要だとも言われた。田中実は異世界と現世を行き来して金儲けをしようとした。ところが、金儲け以前に現世の神の力が異世界で使える事が分かり、異世界でとんでもない力を発揮するのだった。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...