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9話

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「分かった、俺も手伝おう。
 馬車の周囲に呪いを跳ね返す魔法陣を描く。
 ハリー殿は周囲を警戒してくれ。
 エスメ殿はオリビア嬢の護衛を頼む」

 俺はこのように心正しい貴族令嬢に会ったことがない!
 家臣のために命をかける貴族令嬢には初めて会った!
 最初は女神のように容姿が整い奇麗なのに驚き魅かれたが、そんな事は些細な事だと思う。
 表面上の美しさなど、人間の本当の価値ではない!

 王家に生まれたとはいえ、八男では王位継承などありえない。
 分家するのか養子に行くのか分からないが、分家すれば王家の直轄領が減り、王家の戦闘力が減少してしまう。
 望まれて養子に行くのならいいが、王家が押し付けるような形だと、養家の家臣から憎しみの目で見られる。

 そんな事は嫌だから、恵まれた体格と腕力をさらに鍛えて、冒険者として身を立てようと考えたのだ。
 冒険者として名を売ることができれば、自由戦士や自由騎士になって名声を手に入れることも可能だ。
 そうなれば、貴族も喜んで養子に迎えてくれるかもしれない。

 そう父上と兄上にも相談してみた。
 父上も兄上もとても喜んでくださった。
 よろこんでくださっただけではなく、よき師をつけてくださり、選び抜かれた騎士や徒士を近習につけてくださった。
 彼らの補佐を受けて魔境やダンジョンで実戦経験を積む事ができた。

 俺は名声を得ることができた。
 王国でも指折りの戦士と褒め称えられるようになった。
 すすんで養子に迎えると言ってくれる貴族も現れた。
 だが、その頃には、俺の気持ちが代わってしまっていた。
 冒険の生活がたまらなく楽しくなってしまっていたのだ。

 その時も正直に父上と兄上に相談した。
 沸き上がる冒険への想いを切々と訴えた。
 父上も兄上も俺の気持ちを理解してくださった。
 いつ帰ってきてもいいように、臣籍降下させてくださったうえで、屋敷と領地と伯爵の位をくださったのだ。

 しかもその上に、王家に伝わる宝具の中でもかなり力の強い武具を下賜してくださったのだ。
 その宝具の一つが今回の呪術に反応したのだ。
 俺の修行の旅は間違っていなかった。
 全てはオリビア嬢に出会うための道だったのだ。
 劣情で女性を求めたことは数知れずあった。
 だが、オリビア嬢のように、全てを捨てて、命を捨ててでも助けてあげたいと思う女性に会ったのは初めてだ!

 護りの魔法陣だけではすまさない。
 オリビア嬢を害そうとする者は殺す!
 相手が王であろうと神であろうと関係ない。
 断じて殺す!
 そのためには手段は択ばない。
 魔血晶を使ってでも呪い返しを成功させる!
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