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鎮守府大将軍

決戦前

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『信濃・諏訪城』

 鷹司義信は決戦を覚悟していた、本当は完全に東国を平定してから畿内に手を伸ばす心算だった、だが情勢がそれを許さなかった、即座に打った手は御所の死守だった。今上帝と後奈良院は何があっても守らなければならない。移動が可能な間に近江に駐屯していた近衛府6色兵団を御所に移動させた、一時的に北近江を奪われてでも皇室を護り切る覚悟だった。

「御所・近衛府6色兵団」
近衛足軽鉄砲隊   8000兵
近衛足軽弓隊    8000兵
近衛足軽槍隊    8000兵
計       2万4000兵

 その上で移動可能な全軍を近江に動員する指示を出した。

 そして最後の切り札も動員することにした、動員するだけで使わないで済むならそれが1番なのだ、使えばもう切り札ではなくなってしまう。


 『六角義賢苦悩』

 苦境に立っていた六角義賢に三好の軍門に降る大義名分が手に入った、それは正室と継室が2人とも能登畠山家・畠山義総(はたけやまよしふさ)の娘と言う事だ。義弟・畠山義続を武田信繁が殺した事で、三好と組んで鷹司・武田と戦う事が出来るようになった。

 北からは鷹司・武田に武力で圧迫され銭で家臣を調略される、南からは将軍家・三好に武力で直接攻撃され侵食されているため、もはや昔日の勢いはなく多くの国衆・地侍が離反してしまっていた、全ては愚かな細川晴元と足利義輝に肩入れした所為だった。

 ここで大きく方針を変更して、細川晴元と足利義輝の弟・義秋を追放した、鷹司に降るか足利に降るか迷いに迷った、当初は細川晴元と三条夫人の間に産まれた2人の娘を人質として、娘の1人を六角義治の正室に迎える策もあった。

 だが畠山義続を武田信繁が殺した事でその策は採り難くなってしまったのだ、臣下の礼をとる相手を武田家とかんがえるか鷹司家と考えるかで雲泥の差がある。同時に三好と考えるか足利と考えるかでも雲泥の差が出る。

 六角義賢の父・六角定頼は娘を周辺守護に嫁がせる婚姻政策をとっていた、その為どの婚家に軸足をとるかで六角家の浮沈が掛かっていた。

 「婚姻政策で見る六角家・六角義賢視点」
 細川晴元 姉妹の嫁家 鷹司の義伯父だが今は敵
 土岐頼芸 姉妹の嫁家 鷹司に保護されている
 北畠具教 姉妹の嫁家 鷹司と友好的
 武田信豊 姉妹の嫁家 武田一門
 畠山義続 正室継室の実家 鷹司の敵

 「晴元殿、率直に申し上げる、近江から出て行ってもらう。」

 「どう言う事だ、今更武田や三好の軍門に降ると言うのか?!」

 「晴元殿と義輝公の愚かな行いが今の状態を引き起こしたのだ、これ以上それに付き合えば六角まで滅亡してしまう。」

 「近江源氏六角家も落ちたものよ、下賤な者共に頭を下げると言うか!」

 「鷹司義信殿は五摂家当主で鎮守府大将軍、指揮下に入ってもおかしくはない、足利義維公は14代将軍に就任された、その指揮下に入っても何もおかしくはあるまい。」

 「義賢殿、考え直されてはどうだ、六角家なら若狭武田・丹波波多野・丹後一色と組み、義秋公を奉じて幕府に対抗できるではないか。」

 「晴元殿や義輝公が全てを狂わせたのではないか! あれほど支援してくれていた義信殿に刺客を送り兵を差し向けるなど、見捨てられて当然だ、義信殿との縁を大切にしておれば、今頃三好を滅ぼし畿内を制圧して西国に攻め込んでいたわ!」

 「何を言う、義信は将軍家より朝廷を重く見ていたのだ、捨て置けば足利を滅ぼして武田が幕府を開いておったわ!」

 「ならば義維公が将軍就任したのは何故だ、義信殿が足利を滅ぼす心算なら自ら将軍に就任していたはずだぞ、義信殿なら東国など捨て置いて京を占拠して征夷大将軍に就任するのは容易いことだった、それを鎮守府大将軍に止めて東国に兵を送っている、足利を滅ぼす気などなかったのだ。」

 「それは義賢殿を恐れての事だ、義賢殿や三好がいなければ義信は足利を滅ぼしている。」

 「持ち上げても無駄だ、己の力量くらい分かっている、今の六角に鷹司や三好に抗する力などない、早々に近江を出て行かれよ。誰かある、晴元殿が御帰りだ!」

 冷静に勢力を考えた結果、武田とは考えず摂関家の鷹司の軍門に降る事にした、妻の実家は武田に滅ぼされたが、姉妹4人の婚家中3人が友好関係を保っている、鷹司鎮守府大将軍と成られた事とで六角家が頭を下げても恥にはならない、なにより三好・足利将軍家は鷹司騎馬鉄砲隊に対抗できると思えなかった。


 『若狭・武田信豊・信高兄弟』

 一方追放された細川晴元と足利義秋は行き場を無くしてしまった、京・大和は足利義冬・三好長慶の勢力下にある、北近江は鷹司義信の支配下に有る、伊勢は鷹司・武田と友好的だ、唯一中立地帯である近江高島・朽木領を通って若狭武田家を頼って落ちて行った。

 だが若狭武田家は3つに割れていた。

 若狭武田家・第7代当主・武田信豊は六角定頼の娘を正室に迎えている、この関係もあり六角義賢と歩調を合わせて甲斐武田家・鷹司家の庇護を受ける心算だった。

 だが嫡男・武田義統は野心もあり納得しなかった、1つは父を追い落とし若狭武田家の当主になると言う野心だった。2つ目は執権代として室町幕府を影から牛耳る事だ、12代将軍・足利義晴の娘を正室に迎えており、13代将軍・足利義藤と義兄弟でもあり足利義秋を若狭に迎えて鷹司・三好の両軍に対抗しようとしていた、愚かな事だ。

 もう1つは若狭武田家の第5代当主・武田元信の3男・武田信孝の勢力だ、天文7年(1538年)重臣粟屋元隆に擁立され甥・信豊と若狭武田の家督を争い、遠敷郡の戦いで敗北した後、朝倉孝景(朝倉家10代当主)を頼り越前へ逃亡しているのだ。

 「兄上、どうなされますか?」

 「義統は廃嫡する、あのような愚か者が当主になれば若狭武田家は滅んでしまう。」

 「跡目をどうなされるのですか?」

 「次男・信方に甲斐武田家から妻を迎えて跡目を継がす、そうすれば若狭武田家は安泰だ。」

 「しかし甲斐武田家は、養嗣子を送り込んだり、朝倉家が庇護している信孝を跡目に継がそうとするのではないでしょうか?」

 「その恐れはある、特に養嗣子を送り込む手はよく使っている、だからこちらから先手を打って正室を貰い受けるのだ、特に晴元殿の娘・尚殿と顕殿を、若狭武田家と六角家で正室に御迎えしたいと申し込むのだ。」

 「確かに晴元殿の娘の母は三条公頼卿の娘でしたな?」

 「そうだ、今は鷹司公頼卿だがな、義信殿の母も三条公頼卿の娘なのだ、尚殿と顕殿は義信殿の従妹に当たられるのだ。」

 「しかし兄上、父方の晴元殿の血から見れば敵では御座いませんか、しかも従妹程度では縁としては薄いのではありませんか?」

 「確かに義信殿の妹御を正室に迎える事が出来ればそれに勝る事はない、だが年の合う妹御はもっと有力な大名家や公卿家に嫁ぐだろう、従姉妹の中では尚殿と顕殿を随分可愛がっているようだ。」

 「それは義信殿自身が、尚殿と顕殿を側室に迎えると言う事では無いのですね?」

 「そうではないようだ、母亡くした上に度重なる負け戦に苦労する2人を不憫に思い、莫大な身代金を支払って晴元殿から引き取ったようだ。」

 「身代金ですか?」

 「晴元殿は、尚殿と顕殿を義信殿に引き渡す代わりに金を寄越せと言われたそうだ。」

 「なんと下劣な!」

 「まあそれだけでも誰に付くべきか分かろうものを、義統の愚か者が!」

 「兄上・・・・・」

 「まあ義信殿にしても、尚殿と顕殿は側室にするより何所かに嫁がせた方が家の為だ、側室をもらうなら他家からもらった方が縁が広がるからな。」

 「そうですな、周辺大名や家臣も側室を送り込みたいでしょう。」

 「そういうことだ。」

 『越前・朝倉家』

 朝倉宗滴が亡くなり朝倉義景は去就に揺れていた、当初は宗滴との一緒に整えた親鷹司・武田政策を堅持する心算だった、だが側近や一門衆が宗滴亡き後の権力を争ったのだ。特に宗滴の養子・景紀と大野郡司・景鏡が熾烈に争った、加賀の一向宗・若狭武田が力を失い、近江口が鷹司によって支配されたのが大きかった、周辺に敵対できる勢力が無くなり内争に現(うつつ)を抜かす事が出来てしまったのだ。

 朝倉景鏡・大野郡司・亥山城主
 朝倉景紀・敦賀郡司・朝倉宗滴の養子・子に景垙・景恒 
 朝倉景隆・安居城主・大野郡司、敦賀郡司に次ぐ家柄
 朝倉景連・朝倉山城主
 朝倉景富・7番目の家柄

 「義景様、どうか私を若狭武田家の当主にして下さい。」

 「御屋形様、それがようございます、信孝殿が若狭武田家の当主になられれば、朝倉家は安泰でございます。」

 「またれよ景鏡殿! 鷹司義信卿の意向は確かめられたのか?」

 「何を言う景紀殿、鷹司卿の意向など関係あるまい、今は朝倉家の方針を論じているのだ。」

 「馬鹿な事を言うな! 鷹司卿は殿の後見人ではないか、意向を確かめないでどうするのだ。」

 「殿は立派に成人なされておられる、鷹司卿の後見など必要ない。」

 「殿! 殿は亡き義父・宗滴と一緒に鷹司卿の後見を自ら望まれたではありませんか、今更それを反故にするなら、鷹司家を敵に回すと言う事ですぞ!」

 「殿に無礼ではないか景紀殿! 朝倉家は独立した守護家だ、鷹司卿に後見してもらう必要などない。鷹司と申して元々は武田ではないか、武田に朝倉家の事を口出しされる謂れはない。」

 「ならば朝倉が若狭武田家の事に嘴を挟む事もおかしいではないか! 若狭武田は甲斐武田の分家、後見人の鷹司卿に相談もなく、分家の家督争いに兵を出したと有れば、鷹司卿の怒りは尋常ではないぞ、能登畠山家と同じ末路をたどりたいのか!」

 「我が朝倉家は畠山家とは違う! それに武田といえども公方様の御威光は無視できん、公方様が信孝殿を若狭守護に望まれているのだ、朝倉家は公方様の忠実な臣下であって武田の配下ではない!」

 「景鏡殿は三好に通じられたか!」

 「無礼な事を申すな! 儂は公方様の内意を受けて話しておるのだ、三好ごときに通じたわけではないわ!」

 『近江・大津』

 「黒影、越前の動向はどうなっている。」

 「越中の姉小路信綱様が2万兵を率いて加賀に侵攻されました、そのまま越前まで攻め込む勢いに朝倉は狼狽しているようでございます。」

 「土岐頼芸殿の美濃軍団が備えている六角の動きはどうだ?」

 「甲賀方面や瀬田方面で公方様と三好に備えてります、本気で御味方する心算のようです。土岐頼芸様は関ヶ原に陣どられ、若殿が御命じになられた北国街道の確保に専念される御心算のようです。」

 「後詰として余呉方面を任せている信龍叔父上はどうだ?」

 「最悪時に若殿を御救いするための城の強化と、朝倉の侵攻への備えも抜かりなく物見を派遣されておられます、我ら影衆も朝倉の近江侵攻には十分注意を払っております。」

 「北畠殿の動きはどうだ?」

 「伊賀を抜けて笠置をへて木津に向かわれておりますが、三好の抵抗が激しく思うに進めないようでございます。」

 「三好が動いたぞ!」

 いよいよ決戦だ!


『近江決戦前の各方面軍』

 「近江軍第1軍団」
 大将  一条信龍
 副将  原昌胤
 遊撃  相良友和 

 騎馬鉄砲隊   2000騎 相良友和
 近衛武士団   1000兵 
 甲斐兵     1000兵 原昌胤
 大弩砲隊    1000兵
 足軽鉄砲隊   2000兵
 足軽弓隊    1000兵
 足軽盾隊    4000兵
 足軽槍隊    3000兵
 計   1万3000兵 2000騎

 「近江第2軍団」
 大将 猿渡飛影
 副将 飯富源四郎(山県昌景)
 近衛武士団     3000兵
 近衛足軽鉄砲隊   1000兵
 近衛足軽弓隊    1000兵
 近衛足軽槍隊    1000兵
 近衛黒鍬輜重    9000兵
 信濃衆       3000兵
 駿河国衆      3000兵
 計       2万1000兵

「義信本陣・近江第3軍団と同行」
総大将 鷹司義信
軍師  織田信長・真田幸隆
近衛騎馬鉄砲隊   2000騎
秘密部隊      5000兵

 「近江第3軍団」
 大将 狗賓善狼
 軍師 八柏道為
 近衛騎馬鉄砲隊   4000騎 井伊直親・真田綱吉・常田隆永・鎌原幸定
 僧兵鉄砲隊     4000兵 狗賓善狼・川部時貞
 僧騎馬弓隊     3000騎
 出羽兵       3000兵・下条信俊
 遠江国衆      5000兵
 三河国衆      1000兵
 尾張国衆      2000兵
 計         7000騎 1万2000兵

「御所・近衛府6色兵団」
 近衛足軽鉄砲隊   8000兵
 近衛足軽弓隊    8000兵
 近衛足軽槍隊    8000兵
 計       2万4000兵

 「越中国」
 総大将       姉小路信綱
 副将        甘利信忠
 近衛武士団     2400兵
 近衛足軽鉄砲隊   1000兵
 近衛足軽弓隊    1000兵
 近衛槍足軽隊    3000兵
 飛騨・木曽・諏訪衆 2200兵
 出羽兵       5000兵
 越中国衆      7000兵 
 計       2万1600兵

「美濃駐屯軍」
 大将  土岐頼芸  
 副将  馬場信春  1100兵  220騎  
 近衛槍足軽隊    3000兵 
 近衛弓足軽隊    1000兵
 美濃国衆    1万2000兵

 「関東方面軍」
 大将 佐竹義頼(武田勝頼)
 副将 武田信繁・滝川一益
 軍師 八柏道為
 近衛騎馬鉄砲隊   4000騎 滝川一益
 近衛騎馬弓隊    5000騎 矢沢頼綱・八柏道為・跡部昌秀
 近衛黒鍬輜重    5000兵 平手政秀・丹羽長秀・長坂勝繁
 出羽兵       3000兵・下条信俊
 計         9000騎 8000兵

 「鷹司太平洋艦隊・遠江浜名湖」
 間宮武兵衛 関船    10隻
 間宮造酒丞 関船     5隻
その他   関船    20隻 小早船30隻
 岡部貞綱  安宅船    2隻
       関船    20隻
       ジャンク船 72隻

「尾張軍」
 大将 楠浦虎常
 近衛武士団    1000兵 
 近衛槍足軽団   5000兵
 信濃国衆     2000兵

 「三河軍」
 大将 加津野昌世
 出羽兵      1000兵
 三河国衆     1000兵

 「遠江軍」
 大将 米倉重継
 出羽兵      1000兵
 遠江国衆     1000兵

「鷹司日本海艦隊・加賀・内灘」

 安宅船    0隻
 関船    50隻
 小早船   80隻
ジャンク船 72隻

 「躑躅城」
 大将 武田信玄 
 副将 三条公之
 甲斐国衆 5000兵
 越後国衆 3000兵
 鉄砲   4000丁

 「信濃・青崩城砦群」
 元の難民の生産衆

 「信濃・諏訪城」
 大将        鷹司実信
 陣代        於曾信安
 近衛武士団     1200兵
 嬢子軍       5000騎

 「信濃国・妻籠城」  
 元の難民の生産衆

「出羽」
 小野寺家目付    漆戸虎光
 近衛槍足軽隊    2000兵 
 近衛弓足軽隊    1000兵
 出羽国衆      7000兵

 「出羽・山形」
 山形城代      飯富虎昌・鮎川善繁
 近衛武士団     1000兵
 信濃武士団     1500兵
 近衛足軽弓隊    1000兵
 出羽国衆      9000兵

 「陸奥」
 山之内一族援軍   曽根昌世
 近衛槍足軽隊    2000兵 
 近衛弓足軽隊    1000兵
 陸奥国衆      8000兵

 「越後」
 総大将       武田信廉
 近衛武士団     2400兵
 近衛槍足軽隊    3000兵
 越後国衆      4000兵
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