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武田義信
私的軍議
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6月『信濃・諏訪城・奥殿』
「各地の戦況が思わしくないね。」
桔梗ちゃんが言いにくいことをあっけらかんと言ってくれる。
「敵も必死なのだからそういうこともあるわ。」
茜ちゃんが俺の心情を慮慮って窘めてくれるが、俺の将軍家と今川家への対策不備の所為だから、ここは正面から受け止めなければいけない。
「いや俺が手筋を誤った所為だ、ここはじっくり修正して不敗の体制を築き直さないといけない。」
「ここははっきりと各地の攻守を決めておきましょう。」
楓ちゃんは各地の戦況と兵力配備、さらには敵味方将兵の能力と性格を頭の中でで描きながら、俺に決断を催してきた。確かに今はすべての場所で勝ちに行くには戦力不足だ、切り捨てる場所を決めなければいけない。」
「そうだね、三河・遠江の海岸線は放棄しよう。」
「調略して招いた佐治水軍をお見捨てになるのですか? それでは今後の調略に悪影響を及ぼすのではありませんか?」
茜ちゃんが痛いところを突いてきた。
「若殿、 兵器の出し惜しみはいけません。」
楓ちゃんが俺の顔を窺いながら窘めるように確かめるように言ってくる、
「わかっているよ、浜名湖は放棄しないで佐治水軍を湖内に招いて増強訓練するよ。湖の入り口の両端に大砲部隊を配備して今川水軍の侵入を防ぐよ。」
「いっそ今川水軍を浜名湖に誘い込んで殲滅いたしませんか?」
楓ちゃんが真剣な表情で突っ込んだ策を提案してきた、確かに秘密兵器の大砲を表に出す以上は戦況をひっくり返すような戦果を期待したい。
「今川水軍を誘い込めるような餌になるものがあった?」
「確実に浜名湖に誘い込めるとは限りませんが、我らが高天神城を囲めば今川は必ず背後に兵を上陸させようとするでしょう。素直に高天神城に援軍を送り込んでも、何時ものように攻め滅ぼされるのは判っておりましょう。」
確かに今川も遠江に残っている国衆を見捨てることはできないだろうな。
「銭を使って百姓集を動員する。浜名湖岸以外の支配域海岸線に土塁を築かせ、信智叔父上には高天神城の支城群を堅実確実に攻め落として貰う。」
「それならば大丈夫ですね。」
茜ちゃんがほっとしたように話を終わらそうとした。
「大浦為則(おおうらためのり)て病弱だったよね?」
また桔梗ちゃんの中で何かが閃いたのか?
「何が言いたいの?」
楓ちゃんも真剣に聞き返している、彼女も桔梗ちゃんの閃きには一目置いているからな。
「お腹がすいたり病気になったりすると弱気になるからさ~」
桔梗ちゃんが昔を思い出すようにしんみりと話し出した、確かにその通りだ。
「調略をかけるべきかな? 条件はいつもより優遇すべきか?」
「南部を滅ぼせるなら一門に加えられてもいいのではありませんか?」
楓ちゃんは婿を送ることを考えているようだ、ここまで行くと御屋形様の許可がいるな。
「解った、御屋形様と相談してみよう。南部を滅ぼせて領地を武田の一門で押さえられるなら、それが一番いいだろう。」
「塩松城主・石橋尚義が家臣に幽閉されております。助け出して味方に取り込みましょう。」
楓ちゃんが次々と策を提案してくる。彼女には俺が手緩く見えるのかもしれない。
「石橋四天王が主家を横領してるんだったね?」
「塩松城と周辺の少領を安堵して、家臣たちの城地は攻め取りましょう。」
確かにそうだが、それを安全に為すには二本松を避けては通れない、楓ちゃんは二本松を滅ぼす心算なのか?
「石橋四天王」
小浜城主・大内義綱
宮森城主・大河内備中
百目木城主・石川有信
寺坂城主・寺坂信濃
「二本松城主・二本松義国をどうする心算だい?」
「義国は田村・蘆名に圧迫され著しく領地を減らしております。半知安堵・半知扶持化で半知分近衛府出仕なら家名と血脈を残せる道が増えますし、既に元の城地以上の知行を給付されている信濃衆や越後衆もおりますから、その事を例に説得すれば旗下に入りましょう。」
まあ楓ちゃんも俺が不利になれば陸奥衆が離反することは承知で積極策を提案してるのだろう、出羽陸奥は攻勢防御を仕掛けて今支配下にある領地に敵軍を入れない心算なのだろう。
「そうだな、昌世にはそのように指示しよう。」
「加賀の一向衆は信繁様にお任せすれば間違いございませんが、王直のジャンク船団に遠江に兵糧輸送を依頼するように連絡していただけませんか?」
目の奥を光らせるほど真剣に楓ちゃんが提案してくるが流石だね、俺が秘かに叔父上にお願いしていたことを提案してくる。少々輸送料は高くついてでも、今川水軍を粉砕して兵糧を遠江に運び入れて貰えれば最高だからね、何も新造ジャンク船が完成するまで待つ必要などない。
「それは大丈夫だよ、叔父上にはお願いしてあるから。」
「差し出がましいことを申しました。」
恥ずかしいような悔しいような表情で謝ってくるけど、楓ちゃんがいなければ失念することも多いからね、ここは褒めておかないとね。
「そんなことはないよ、楓ちゃんのお陰で失念していた事を補うことができているよ、これからも積極的に提案してくれたら助かるよ。」
「そうよ、若殿は何時も精一杯頑張られておられるから、ついつい失念されることもあるは、私たちで支えて差し上げないといけないわ。」
茜ちゃんが俺と楓ちゃんを同時に労わってくれる、有り難いな。
「ねぇねぇ信長味方にしないの?」
また桔梗ちゃんがとんでもない事をぶち込んできたな。
「なんでそう思うの?」
「だって昔から若殿は信長警戒してたでしょ? それほど才能があるんだったら味方にしたら好いんじゃないの?」
目から鱗が落ちるな! 生まれ変わってこの方、信玄・信長・謙信を最大の障壁として警戒していたからな。信玄を殺すとか信長・謙信を味方にする発想は一切なかったな。
「桔梗ちゃんはどう思う?」
「若殿が名を汚す覚悟が御有りかどうかにかかっております。」
随分と真剣な表情だな、後々信長を暗殺することすら考えているな。
「必要かな?」
「信長が若様の旗下で一生を終える事が出来るかで決まります、謀反を起こさせてから鎮圧するより、事前に処理したほうが家臣領民の死人が少なく出来ます!」
あぁまた驕り高ぶっていたか、己の名誉を重んじ家臣領民の死傷を軽視していたようだな、信長と一時的に同盟してから暗殺したほうが、敵味方の死傷者数が少なくなるなら暗殺すべきだな。
「判った考慮しよう、いや必要ならやってのけよう。」
「そのお覚悟がお有りなら、北条・浅井との一時的な同盟も考慮されてください。」
そうだよな、最終的に家康のような絶対的な権力を得て、300年の太平を手に入れる為なら途中の汚名は甘んじて受けるべきだな、北条も攻め滅ぼす心算だったから、後々謗(そし)られないように同盟に消極的だったけど、ここは御屋形様に提案すべきだな、少数でも伊豆方面から攻め込んで貰えば助かるし、伊豆水軍を投入してもらえれば戦局を大きく覆せる。
「判った、北条・浅井も御屋形様に話してみる。しかし浅井久政は嫡男と妻を観音寺城に人質として差し出していたよな? 」
「浅井家の家臣団は六角家の横暴に不満を募らせております、一時は浅井亮政の嗣養子に選ばれていた田屋明政(たやあきまさ)や亮政の実子で久政の弟である政弘・高政・秀政を支援して家臣団を切り崩すこともできますし、直接家臣団に調略を仕掛けてみてもいいでしょう。また元々の主家である京極高延・高吉を支援することもできます。」
「判った、その手で行こう。」
「ねぇねぇねぇ、本気出そうよ。」
桔梗ちゃんが茜ちゃんと楓ちゃんを交互に見て意味ありげに言い出した、恐ろしい。
7月『三河・遠江』
義元と一向衆がやらかしてくれた、俺たちの策を読んで上手を行ったのか偶然か判らないが、事もあろうに水軍をつかって大量の一向衆を西遠江に上陸させやがった。浜名湖より東の海岸や豊川左岸には土塁を設けて守備力を高めていたが、西遠江海岸線までは手が回らなかった。
一向衆は他宗派の人たちを殺し略奪する事が正義だと思ってやがる、西遠江の海岸線に多くの拠点を築いて乱暴狼藉の限りを尽くしている。唯一の救いは殆どの農民が家族を連れて足軽に志願していたことだ、農閑期で本当によかった。
一益率いる騎馬鉄砲隊が豊川防衛を離れて迎撃に専念してくれている。豊川左岸の土塁が完成して、柵や屋根付き塀も完成していたのが大きい。この状況なら志願足軽家族の投石でも戦力になるだろう。しっかり練習してもらわないといけない。
信智叔父上は馬伏塚城・岡崎城・頭陀寺城などを次々と落城させ、情け容赦のない火責めと銭の攻勢を連日連夜仕掛けていった。配下の兵を3交代制にして自分達は十分休憩しつつ、敵軍には一睡もさせない攻撃を続けられている。
7月『出羽・陸奥・漆戸虎光・浅利勘兵衛』
「買い占めは進んでいますか?」
「はい、浪岡中将も積極的に協力してくださり多くの牛馬が集まっております。」
「我が味方の国力戦力が減っては意味がないから、敵方から買い占めて貰わねばならぬのだが、その点は大丈夫ですか?」
「その点は十分話してありますから大丈夫でしょう。」
「まあ暫く我らは討って出ることはないでしょうから、少々の事は問題ないでしょうが、敵が攻め込んできた時に軍役通りの騎馬が集まらないと処分されること、周知徹底しておいてください。」
「承りました。鷹司卿から直々に牛馬の買い占めが指示されるとは思いませんでした。馬料の問題で騎馬隊を諏訪から分散されていると噂を聞いていたのですが?」
「何か秘策があるのかもしれません。5000騎以上の訓練済みの軍馬を敵から買い集めろと鳩が来たのには、流石に私も驚きましたが、多くの鉄砲を管領軍から鹵獲したとも聞きます。尾張・三河・遠江に投入するお心算なのかもしれません。」
「まあ武田銅貨は出羽諸国で人気ですからな、市で薬草や焼酎を買うにはどうしても不可欠ですから。」
申し訳ない事だが仕方がない、若殿の支配下にある商人は徐々に武田銅貨でしか物を売らなくなっている。ほかの商人からでも買えるものは精銭・永楽銭・鐚銭でも売るが、独占商品は武田銅貨でしか売らない政策を始めている。これは商業からの武田支配体制の確立かもしれない。
「各地の戦況が思わしくないね。」
桔梗ちゃんが言いにくいことをあっけらかんと言ってくれる。
「敵も必死なのだからそういうこともあるわ。」
茜ちゃんが俺の心情を慮慮って窘めてくれるが、俺の将軍家と今川家への対策不備の所為だから、ここは正面から受け止めなければいけない。
「いや俺が手筋を誤った所為だ、ここはじっくり修正して不敗の体制を築き直さないといけない。」
「ここははっきりと各地の攻守を決めておきましょう。」
楓ちゃんは各地の戦況と兵力配備、さらには敵味方将兵の能力と性格を頭の中でで描きながら、俺に決断を催してきた。確かに今はすべての場所で勝ちに行くには戦力不足だ、切り捨てる場所を決めなければいけない。」
「そうだね、三河・遠江の海岸線は放棄しよう。」
「調略して招いた佐治水軍をお見捨てになるのですか? それでは今後の調略に悪影響を及ぼすのではありませんか?」
茜ちゃんが痛いところを突いてきた。
「若殿、 兵器の出し惜しみはいけません。」
楓ちゃんが俺の顔を窺いながら窘めるように確かめるように言ってくる、
「わかっているよ、浜名湖は放棄しないで佐治水軍を湖内に招いて増強訓練するよ。湖の入り口の両端に大砲部隊を配備して今川水軍の侵入を防ぐよ。」
「いっそ今川水軍を浜名湖に誘い込んで殲滅いたしませんか?」
楓ちゃんが真剣な表情で突っ込んだ策を提案してきた、確かに秘密兵器の大砲を表に出す以上は戦況をひっくり返すような戦果を期待したい。
「今川水軍を誘い込めるような餌になるものがあった?」
「確実に浜名湖に誘い込めるとは限りませんが、我らが高天神城を囲めば今川は必ず背後に兵を上陸させようとするでしょう。素直に高天神城に援軍を送り込んでも、何時ものように攻め滅ぼされるのは判っておりましょう。」
確かに今川も遠江に残っている国衆を見捨てることはできないだろうな。
「銭を使って百姓集を動員する。浜名湖岸以外の支配域海岸線に土塁を築かせ、信智叔父上には高天神城の支城群を堅実確実に攻め落として貰う。」
「それならば大丈夫ですね。」
茜ちゃんがほっとしたように話を終わらそうとした。
「大浦為則(おおうらためのり)て病弱だったよね?」
また桔梗ちゃんの中で何かが閃いたのか?
「何が言いたいの?」
楓ちゃんも真剣に聞き返している、彼女も桔梗ちゃんの閃きには一目置いているからな。
「お腹がすいたり病気になったりすると弱気になるからさ~」
桔梗ちゃんが昔を思い出すようにしんみりと話し出した、確かにその通りだ。
「調略をかけるべきかな? 条件はいつもより優遇すべきか?」
「南部を滅ぼせるなら一門に加えられてもいいのではありませんか?」
楓ちゃんは婿を送ることを考えているようだ、ここまで行くと御屋形様の許可がいるな。
「解った、御屋形様と相談してみよう。南部を滅ぼせて領地を武田の一門で押さえられるなら、それが一番いいだろう。」
「塩松城主・石橋尚義が家臣に幽閉されております。助け出して味方に取り込みましょう。」
楓ちゃんが次々と策を提案してくる。彼女には俺が手緩く見えるのかもしれない。
「石橋四天王が主家を横領してるんだったね?」
「塩松城と周辺の少領を安堵して、家臣たちの城地は攻め取りましょう。」
確かにそうだが、それを安全に為すには二本松を避けては通れない、楓ちゃんは二本松を滅ぼす心算なのか?
「石橋四天王」
小浜城主・大内義綱
宮森城主・大河内備中
百目木城主・石川有信
寺坂城主・寺坂信濃
「二本松城主・二本松義国をどうする心算だい?」
「義国は田村・蘆名に圧迫され著しく領地を減らしております。半知安堵・半知扶持化で半知分近衛府出仕なら家名と血脈を残せる道が増えますし、既に元の城地以上の知行を給付されている信濃衆や越後衆もおりますから、その事を例に説得すれば旗下に入りましょう。」
まあ楓ちゃんも俺が不利になれば陸奥衆が離反することは承知で積極策を提案してるのだろう、出羽陸奥は攻勢防御を仕掛けて今支配下にある領地に敵軍を入れない心算なのだろう。
「そうだな、昌世にはそのように指示しよう。」
「加賀の一向衆は信繁様にお任せすれば間違いございませんが、王直のジャンク船団に遠江に兵糧輸送を依頼するように連絡していただけませんか?」
目の奥を光らせるほど真剣に楓ちゃんが提案してくるが流石だね、俺が秘かに叔父上にお願いしていたことを提案してくる。少々輸送料は高くついてでも、今川水軍を粉砕して兵糧を遠江に運び入れて貰えれば最高だからね、何も新造ジャンク船が完成するまで待つ必要などない。
「それは大丈夫だよ、叔父上にはお願いしてあるから。」
「差し出がましいことを申しました。」
恥ずかしいような悔しいような表情で謝ってくるけど、楓ちゃんがいなければ失念することも多いからね、ここは褒めておかないとね。
「そんなことはないよ、楓ちゃんのお陰で失念していた事を補うことができているよ、これからも積極的に提案してくれたら助かるよ。」
「そうよ、若殿は何時も精一杯頑張られておられるから、ついつい失念されることもあるは、私たちで支えて差し上げないといけないわ。」
茜ちゃんが俺と楓ちゃんを同時に労わってくれる、有り難いな。
「ねぇねぇ信長味方にしないの?」
また桔梗ちゃんがとんでもない事をぶち込んできたな。
「なんでそう思うの?」
「だって昔から若殿は信長警戒してたでしょ? それほど才能があるんだったら味方にしたら好いんじゃないの?」
目から鱗が落ちるな! 生まれ変わってこの方、信玄・信長・謙信を最大の障壁として警戒していたからな。信玄を殺すとか信長・謙信を味方にする発想は一切なかったな。
「桔梗ちゃんはどう思う?」
「若殿が名を汚す覚悟が御有りかどうかにかかっております。」
随分と真剣な表情だな、後々信長を暗殺することすら考えているな。
「必要かな?」
「信長が若様の旗下で一生を終える事が出来るかで決まります、謀反を起こさせてから鎮圧するより、事前に処理したほうが家臣領民の死人が少なく出来ます!」
あぁまた驕り高ぶっていたか、己の名誉を重んじ家臣領民の死傷を軽視していたようだな、信長と一時的に同盟してから暗殺したほうが、敵味方の死傷者数が少なくなるなら暗殺すべきだな。
「判った考慮しよう、いや必要ならやってのけよう。」
「そのお覚悟がお有りなら、北条・浅井との一時的な同盟も考慮されてください。」
そうだよな、最終的に家康のような絶対的な権力を得て、300年の太平を手に入れる為なら途中の汚名は甘んじて受けるべきだな、北条も攻め滅ぼす心算だったから、後々謗(そし)られないように同盟に消極的だったけど、ここは御屋形様に提案すべきだな、少数でも伊豆方面から攻め込んで貰えば助かるし、伊豆水軍を投入してもらえれば戦局を大きく覆せる。
「判った、北条・浅井も御屋形様に話してみる。しかし浅井久政は嫡男と妻を観音寺城に人質として差し出していたよな? 」
「浅井家の家臣団は六角家の横暴に不満を募らせております、一時は浅井亮政の嗣養子に選ばれていた田屋明政(たやあきまさ)や亮政の実子で久政の弟である政弘・高政・秀政を支援して家臣団を切り崩すこともできますし、直接家臣団に調略を仕掛けてみてもいいでしょう。また元々の主家である京極高延・高吉を支援することもできます。」
「判った、その手で行こう。」
「ねぇねぇねぇ、本気出そうよ。」
桔梗ちゃんが茜ちゃんと楓ちゃんを交互に見て意味ありげに言い出した、恐ろしい。
7月『三河・遠江』
義元と一向衆がやらかしてくれた、俺たちの策を読んで上手を行ったのか偶然か判らないが、事もあろうに水軍をつかって大量の一向衆を西遠江に上陸させやがった。浜名湖より東の海岸や豊川左岸には土塁を設けて守備力を高めていたが、西遠江海岸線までは手が回らなかった。
一向衆は他宗派の人たちを殺し略奪する事が正義だと思ってやがる、西遠江の海岸線に多くの拠点を築いて乱暴狼藉の限りを尽くしている。唯一の救いは殆どの農民が家族を連れて足軽に志願していたことだ、農閑期で本当によかった。
一益率いる騎馬鉄砲隊が豊川防衛を離れて迎撃に専念してくれている。豊川左岸の土塁が完成して、柵や屋根付き塀も完成していたのが大きい。この状況なら志願足軽家族の投石でも戦力になるだろう。しっかり練習してもらわないといけない。
信智叔父上は馬伏塚城・岡崎城・頭陀寺城などを次々と落城させ、情け容赦のない火責めと銭の攻勢を連日連夜仕掛けていった。配下の兵を3交代制にして自分達は十分休憩しつつ、敵軍には一睡もさせない攻撃を続けられている。
7月『出羽・陸奥・漆戸虎光・浅利勘兵衛』
「買い占めは進んでいますか?」
「はい、浪岡中将も積極的に協力してくださり多くの牛馬が集まっております。」
「我が味方の国力戦力が減っては意味がないから、敵方から買い占めて貰わねばならぬのだが、その点は大丈夫ですか?」
「その点は十分話してありますから大丈夫でしょう。」
「まあ暫く我らは討って出ることはないでしょうから、少々の事は問題ないでしょうが、敵が攻め込んできた時に軍役通りの騎馬が集まらないと処分されること、周知徹底しておいてください。」
「承りました。鷹司卿から直々に牛馬の買い占めが指示されるとは思いませんでした。馬料の問題で騎馬隊を諏訪から分散されていると噂を聞いていたのですが?」
「何か秘策があるのかもしれません。5000騎以上の訓練済みの軍馬を敵から買い集めろと鳩が来たのには、流石に私も驚きましたが、多くの鉄砲を管領軍から鹵獲したとも聞きます。尾張・三河・遠江に投入するお心算なのかもしれません。」
「まあ武田銅貨は出羽諸国で人気ですからな、市で薬草や焼酎を買うにはどうしても不可欠ですから。」
申し訳ない事だが仕方がない、若殿の支配下にある商人は徐々に武田銅貨でしか物を売らなくなっている。ほかの商人からでも買えるものは精銭・永楽銭・鐚銭でも売るが、独占商品は武田銅貨でしか売らない政策を始めている。これは商業からの武田支配体制の確立かもしれない。
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