上 下
84 / 246
武田義信

美濃攻略中に内部改革

しおりを挟む
 11月『美濃・関城』

 関城が燃え上がっている、大竹矢の先に付けた肥松を燃やし大弩砲で撃ち込んだのだ。大竹矢も燃えているのだろう、パンパンと竹が焼ける独特の音がする。

 今回も長井一族は皆殺しにした、確か此奴が史実で義龍に弟殺し・父殺しをそそのかしたはずだ、生かして置いたらろくな事にならないだろう。だが降伏して来た将兵は傘下に組み入れ、実戦で実力を見た上で配置を決めると、上司予定の古参近衛兵に言わせた。そろそろ指揮権継承順位を導入していかないといけない。

 戦国末期の日本とヨーロッパ諸国の軍を比べた本を読んだ事が有る。日本は鉄砲保有率が著しく高く圧倒的に強いが、指揮権継承の考えが無いのと国衆単位の結束の為、国衆大将が戦死すると部隊が潰走すると言う事だった。だから、近衛府で国家単位の軍とした上で、階級を設けて指揮権継承を普段から徹底し、大将が戦死しても継戦出来る体制を築いておく!

 同時に諸兵科連携も考えておかないといけない。戦国時代の日本軍最強説に対抗するのが、ヨーロッパは既に騎士時代から近代に移行しており、鉄砲隊で戦を左右するのでなく、大砲兵・騎兵・鉄砲兵・歩兵を効率よく組み合わせる、諸兵科連携戦術に移行していたので、無暗に鉄砲を増やす必要が無かったと言う説だ。

 確かにこの時代のヨーロッパは大航海時代に突入しており、日本に南蛮船が来るくらいだった。鉄砲だってそもそも南蛮人が持ち込んだ物だ。後30年程度で、スペインとイギリスで制海権を掛けた大海戦が行われるはずだ。史実ではイギリスが勝ったはずだが、俺のバタフライ効果はヨーロッパまで影響していないよな? 

 事実が何方なのかはわからない、だが戦国時代で使える軍事技術を全て出してしまった後で出来る事は、運用術で差を付ける事しかない。史実を知る有利さで大戦略を考え、忍を活用して情報を収集して戦略を決める、そして各部隊を上手く組み合わせる戦術を駆使する。そうしないとどんな落とし穴にはまるか判かったものじゃない。

 「一益、御苦労であった。」

 「お褒めの言葉を賜り、恐悦至極にございます。若殿の策を真似させて頂けたので、簡単に諸城砦を攻略することが出来ました。」

 「いやいやよくやってくれたよ、どれほど策を授けても勝手をして負ける愚か者もおる。他者のよき所を取り入れ、己が力とする事の出来る者は多くない。一益は一軍の将としての才が有る、これからも奢る事なく精進いたせ、期待しておるぞ!」

 「あ、有難き御言葉、感謝の言葉もございません!」

 おいおい泣くんじゃないよ、一益の才能は史実で知っていたから特に目を掛けていただけで、俺に人物鑑定眼が有る訳じゃない。知る限りの戦術や戦略を軍略会議にかけて皆で討論して来ただけだ。その知識も、史実を知った上でシミュレーション小説の策を皆に提案して、この時代に合わせる様に練り直して貰えたからの成果だ。

 「今後は展開によって、一益に別働部隊の大将を任せることも有る、皆もその心算で居る様に。」

 『は!』

 さてこれで飛騨川上流は完全に支配下に入った。城砦にいた将兵の家族は、美濃でも雪の少ない平城に移動させて、人質兼守備兵とした。雪の多い山城には黒鍬輜重か信濃衆を入れた、困った事にまた手元から信用できる兵が減る。仕方ない事だか少し不安になる。

 俺が長良川を越えて跡部城に迫ると、城主・跡部将監頼利と一族は逃げ出した。ここで長良川上流の城砦群の攻略に狗賓善狼を別働部隊大将に抜擢する事にした。もうこれ以上近衛兵を手元から失いたくない俺は、僧兵8000で部隊編成する事にした。そうなると飛影などの修験道出身者が指揮官に適任だが、飛影は既に別働部隊の総指揮官経験が有る、今後の事を考えると方面軍司令官育成は急務だ、そこで飯綱使い出身の狗賓善狼の抜擢だった。身辺警護に欠かせない犬狼部隊は俺自身で指揮できるし、近習衆も十分育っている。


 11月『常陸 小笠原長時』

 「情けなき事ながら致し方ございません。」

 「だがな将監、小笠原弓馬礼法宗家たる儂がこのようなことを遣る訳にはいかんのだ。」

 「殿! そのような事では戦国の世を生きていけませんぞ。まして信濃を取り返すなど夢物語となりますぞ。殿は新たな弓馬礼法術を創設する小笠原家中興の祖と御成りに成るのです!

 「そうとしか思わねばこのような事やれぬわ!」

 殿には申し訳無い所も有るが、義信の戦振りを見れば真似るしかない。越中・信濃・出羽での騎馬鉄砲隊の破壊力は絶大だった。我が小笠原馬廻り衆でも取り入れなければならん、出来ねば滅んでしまうだけ、この戦国の世で古きに囚われるは悪なのだ。我が小笠原馬廻り衆400騎と、佐竹から預かった600騎を鍛えに鍛える。そうでなければ、苦労して集めた鉄砲が塵に成ってしまう。


 11月『尾張 那古野城』

 「坊主どもの返事は?」

 「は! 加賀の支援が有る為、尾張への援軍は難しいとの事でございましたが、雑賀・根来・長嶋に話はつけるとの事でございました。」

 「国友から買い入れた1000の鉄砲と、雑賀・根来・長嶋から雇入れた鉄砲1000でどれくらい対抗できるかだな。」

 「されど殿様、これでは勝手方が銭の遣り繰りに苦労いたしますぞ。」

 「政秀! 義信の戦振りは聞き及んでおろう、これからは鉄砲が無ければ戦にならん。我の持つ1000だけでは苦しいが、2000となればどうにかなろう、銭は義信に勝って奪えばよい。美濃で湯水の如く使っておるのだ、本陣には呻るほどの銭を蓄えておろう。

 「確かにそうでございますな、ならばそれはよいとして、信友様・信安様・信勝様はどうなさいますか?」

 「愚かな奴らよ! 尾張が攻め取られようとする時に一族で争うとは、このままでは織田一門が滅んでしまう。」

 「されど信勝様は、我は鷹司様に認められた弾正忠家の正当な当主と、家中の者に触れ廻っておるとの事ですが?」

 「奴が愚か者だから義信は支援しておるのだ、もし我の方が愚かであれば、義信は我を支援しておるわ! 全ては尾張を、いや織田一門を相争わせるためよ! 家中の者はそんな簡単な事も判っておらぬ、いや成り上がるために判って煽っておる者もおるようだがな!」

 「その事を家中の者に話されれば宜しいでは有りませぬか。」

 「愚か者には何を言っても無駄じゃ! 言いたければ政秀が言えばよかろう。」

 「承りました、政秀が命懸で家中一門を纏めてみせます。」

 「命は懸けずともよい、愚か者どもが理解せぬからと死んでおっては命がいくらあっても足らぬわ!」

 「有り難き御言葉、ならば命は懸けずに誠心誠意説得してまいります。」

 「ふん! その程度でよい、愚か者どもが義信に付いた場合でも勝てる策を考えねばならん、政秀も考えておくのじゃ、死んだ者など役に立たん、生きて我の役に立つのじゃ。」

 「有り難き御言葉。」

 
 11月『美濃・大桑城』

 俺が長良川を渡った時点で、大桑城を抑えていた兵どもは逃げ散るか降伏して来た。それによって大桑城を守っていた、信頼できる近衛槍足軽隊3000兵・近衛弓足軽隊1000兵と馬場信春の寄騎子飼220騎1100兵が加わった。

 「頼芸大叔父殿、御無事で何より出でございます。信龍叔父上も御無事で何よりです、信春もよく叔父上を助けて城を守り切ってくれた。」

 「鷹司卿の御助勢感謝の言葉もござらぬ、御蔭を持ちまして土岐家を保つ事が出来ました。」

 「いえいえ、既に鷹司家と土岐家は親類、何が有っても御助勢いたしますぞ。」

 うち揃ってやって来た土岐家の譜代衆の表情に安堵感が見えるな、仕方ないだろうな。大軍に囲まれての籠城は心身に堪えるだろう。まして何度も家臣に裏切られて美濃から逃げ出す事も有ったのだ。後援者の織田信秀に見捨てられた後は、主従共に生きた心地が無かっただろう。そうでなければ土岐頼芸主従も武田から嗣養子など迎えなかっただろう。まあ鷹司の家名を得てなければ、上手くいかなかった可能性も有る、矢張り体面は大切だな。

 「若殿も壮健そうで何よりでございます、これでやっと一息つきました、守り切れると分かっていても、城から一歩も出れぬのは気が滅入りますな。」

 信龍叔父上も俺と同年だからまだまだ元気が有り余っているだろう、籠城戦では発散する所が限られるからな、だが確か土岐一門から年頃の姫を頼芸の養女とした上で正室に迎えていたはず。閨で発散してたら激しかっただろうな。

 「左様でございますな、水も兵糧も豊かに有るとはいえ、兵どもの士気を保つのは骨が折れました。」

 そうだな、信春の言う通り兵の士気は大切だ。万が一俺が籠城する羽目になって、どこかの城に逃げ込むにしても、手持ちの兵力に合わせた公衆衛生と兵糧が整った城に逃げ込まねばならん。そうでなければ士気が保てず、今まで使ってきた策を敵に使われ、味方だった兵に殺されるかもしれない。常にその事も考えながら進軍経路と補給拠点を決めていこう。まあ今なら飯富虎昌と猿渡飛影には安心して方面軍を預けられる、徐々に滝川一益と狗賓善狼にも実績を作らせていこう、そうすれば危険な前線に俺が出張る機会も減るだろう。いかんいかん、又悪い癖で思考の世界に入ってしまった、今は土岐家の人たちをねぎらわねばな。

 「美濃の河川で新鮮な魚を捕って持って来ておる、早速料理させよう。」

 『お~~』

 土岐主従が喜色満面の表情を浮かべている、新鮮な食料に餓えていたのだろうな。

 「若殿、焼酎は御座いませんか?」

 信春が冗談めかして場を和ませながら酒を催促して来る、流石に籠城中は酩酊出来るほど酒も飲めんだろうしな、今回の遠征に当たり、極限まで濃縮したアルコール80度以上の麦焼酎を持ち込んでいる、少しでもかさを減らして酒を輸送する為だが。現地で煮沸消毒した湯や湯冷ましで割って飲むのだが。俺は下戸で不要なのだが、酒が有ると士気を保つのに役立つことも有るようだ、全く理解できないが現実に合わせるしかない。

 「どびっきり強烈な酒を作って持って来ておる、湯で割って梅干を入れれば美味いそうだ。近隣の百姓から果物も買い入れおるから、それの汁を絞って入れても美味いそうだ。」

 『うぉ~~~~~!』

 「城の守りは我らに任されよ、安心して酔われるがよかろう。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,130pt お気に入り:69

魔法武士・種子島時堯

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:239

アウトサイダー

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

笑うヘンデルと二重奏

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:2,823

私はあなたの婚約者ではないんです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:6,171

処理中です...