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武田義信

美濃攻略

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 10月『美濃・御嵩城近く・中山道沿い鷹司野陣』

 以前から物価上昇に悩みながらも投資して来た道普請が役立った。吉岡城から駒場城に移動し、美濃に入って両属姿勢であった丸山城・霧ケ城を接収、本領に相当する銭をその場で与えて一族家臣の家族を木曽妻籠城に送った。

 翌日は霧ケ城・丸山城に直属の守備兵を残し、霧ケ城・丸山城の専業武士を全て配下に加えて落合城・苗木城に入城し遠山直廉を完全に家臣化する。ここでも下野砦・広恵寺城・大井城の藤井宗常など各城砦に詰めていた兵が臣従に集まった、そしてまた苗木遠山家一族家臣の家族に本領相当の銭を与えて妻籠城に送った。

 翌日も下野砦・広恵寺城・苗木城に直属の守備兵を残し、遠山家の専業武士を配下に加えて大井城に移動、伊那・木曽・飛騨への安全な道を確保する為、木曽川の右岸城砦と左岸の大井城・阿寺城・丸山城・霧ケ城を直轄化した。ここに遠山三家とか遠山七頭と呼ばれる遠山一族が全て臣従にやって来た。これで遠山十八子城を傘下に加えることになったが、必要な城を直轄化するにあたって必要な銭は惜しまずばら撒いた。

 岩村城主・遠山景前
 苗木城主・遠山直廉
 明知城主・遠山景行
 高山城主・平井頼母
 小原城主・平井頼母

 遠山三家は岩村遠山家・苗木遠山家・明知遠山家
 遠山七頭は岩村・阿照・明知・串原・苗木・安木・明知
 遠山十八子城は明知城・苗木城・阿寺城・阿木城・千旦林城・串原城・飯羽間城・信城・高山城など

 この時同時に、斎藤道三の美濃支配を快く思っていなかった土岐末流が臣従にやって来た、鶴ヶ城(神篦城・国府城・高野城)の延友信光、明知城主・遠山景行の娘を嫡子・光次の嫁に迎えていた小里光忠などだ。

 鶴ヶ城主・延友信光・土岐氏庶流
 小里城主・小里光忠・土岐氏庶流

 だが流石は斎藤道三だ、俺が今川を攻めると見せて美濃に討ち入る可能性も考慮していたのだろう。素早く軍を集めて迎撃に出陣して来た。この時鷹司方の大桑城・土岐頼芸勢が討って出てこないように、城門前には幾重にも砦を設けて、弓で十字射を浴びせる構えを構築していた。この為に大桑城の5500兵は身動きが取れなく成ったが、斎藤勢も弓兵を多数含む2000兵を使えなくなった。

 美濃は50万石を超える豊かな国では有るが、農繁期の上に土岐頼芸を慕う国衆・遠山氏の様に鷹司(武田では無い)に臣従した国衆・日和見国衆がでて迎撃に金山城に集まったのは1万余の兵だけだった。久々利城・御嵩城・顔戸城・明知長山城には、周辺の民を避難させ不足する守備兵を補い、御嵩城の少し後方中山道沿いに本陣を構えた。これにより何時でも補給と休養を取れる態勢を整えた。

 久々利城主・久々利頼興
 顔戸城 
 御嵩城主・小栗教久
 明知長山城主・明智光安の妹が斎藤道三の継室で濃姫の母。
 明智秀満・明智光秀
 烏峰城(金山城)


 10月『美濃・御嵩城外』

 「殿、義信は越中・奥羽の戦いで鉄砲をよく使ったと聞きます、野戦での決戦は御控え下さい。」

 「光秀、その事は儂も知っており以前から手を打っておる、足軽共には竹で作った大盾を持たせておる、騎馬に対抗すべく柵も築かせておる心配いたすな。」

 「織田殿の後詰はまだでございますか?」

 「婿殿も尾張統一に苦労しておるようじゃ、援軍を寄越す余裕は有るまい。」

 「しかしそれでは濃姫に嫁いでいただいた意味がございません。」

 「それは違うぞ光秀、当てにしていて来なければ戦術戦略に齟齬をきたす、来てくれれば儲けもの思っておれば、来なくても慌てることが無くなる。」

 「愚かなことを申しました、御許し下さい。」

 「貪欲に文武を修めよ。」

 「殿、光秀の愚かな問いに答えて下さり、有り難き幸せにございます。されど武田の攻勢にどう対応致しましょう?」

 「中山道を土塁と柵で防ぎ、間に合わぬ所は大竹盾で封鎖する。近づく武田には弓鉄砲を馳走してやればよい。確かに武田は圧倒的な鉄砲を持っておるが、馬を降り地に足を付けて迎え討てばさほど怖いものでは無いのだ光安。」

 「3万余の兵力は侮れぬのでは無いでしょうか?」

 「今までの忍びの報告では、武田勢の3割弱は荷駄兵だ、3万余と言うが1万は戦いには加わらぬのだ、野戦で適当に武田勢を削って雪を待つ、必要なら繰り引きしつつ烏峰城に籠って雪を待つ、武田は常に冬には諏訪に帰っておる、野陣で冬を越すなど無理な話じゃ。」

 「左様でございましたな、雪まで大桑城が持たぬと判断して、我らの囲みを解くのが目的でございますな。されど遠山の城で冬を越す事は有りませぬか?」

 「その可能性はあるだろうが、そうなれば今川が黙っておるまい。勅命で和睦したとは言え、元々今川が将軍に御内書を書かせて攻め込んだのだ、武田が伊那に戻れぬと知れば又攻め込む、伊達・南部の陸奥勢も攻め込む、さすれば武田勢3万は帰る家なき子になろう。」
 

 10月『小田原城』

 「御本城様ごほんじょうさま、義信殿が和睦に応じられたようでございます。」

 「義信は応じても晴信が応じるとは限るまい、晴信が義信の兵を指揮して駿河に攻め込むと幻庵殿は思われぬか?」

 「その手も有るだろうが、そうすると鷹司の名にも傷が付く、近衛大将として朝廷を敬う姿勢を押し立てて、越中・越後・出羽の国衆を従えたのじゃ、ここで勅命を蔑ろにするのは後々不利となろう、寧ろ土岐頼芸を助ける建前で美濃に入るだろうよ、六角や細川管領に圧力を掛けることもできるだろうしな。」

 「なるほど、美濃なら土岐家支援の大義名分も立つし、何時でも近江に討ち入れる拠点を手に入れる事が出来る。義信から長年に渡り多額の支援を受けながら、それを踏み躙った細川管領も、管領に継室を送り込んだ六角も心穏やかではおられまい。」

 「それ故に、細川・六角・浅井が美濃に援軍を送る可能性も有るが、同時に朝倉に近い浅井がこれを好機と義信に近づく事も有り得る。最早近隣諸国の動静を考えるだけでは、北条の舵取りは出来ぬのではないか、御本城様。」

 「そうだな幻庵殿、義信が負ければ北条は安泰じゃ、武田と手を組んで今川・佐竹・関東管領上杉と対峙すればよい。美濃で負けても武田は甲斐・信濃・飛騨・越中・越後を確保するだろうが、威勢は衰え北条との同盟を必要とするだろう。だが勝った場合は問題だ、その威勢で出羽勢は義信の下を離れる事は無く、陸奥・上野・武蔵の国衆の多くも鷹司の下に集うであろう。越前の朝倉宗滴殿は一向宗と対峙する為に鷹司の下に付くかもしれん、そうなれば北条との同盟など必要としなくなる事も有り得る。」

 「ならば御本城様、義信の勝ちが定まる前に晴信に同盟を申し込んではどうじゃ?」

 「義信が勝てば儂としても強気には出れぬな、長女の早を義信の側室に送り込むか、武田五郎は5歳で有ったな、ならば浄・林・曲の誰度も好い、正室に送ればよい。此方は武田の姫を氏政の正室に迎えればよかろう。」

 「随分と家に不利な婚姻じゃがよいのか、御本城様。」

 「格は大切じゃが、それに拘って北条を滅ぼす訳にはいかん、義信が負けたら改めればいい、今直ぐ嫁ぐ訳では無いからな。義信には帝の為にも上洛を急ぐように勧めればいい、斎藤・細川管領・六角・三好と戦えば、その隙に今川が再度伊那に攻め込もう、その時こそ新九郎の敵を討つときじゃ、運が好ければ北条が伊那を盗れるやもしれん。」

 「その為にも今は関東平定に力を注がねばならんぞ、御本城様」


 10月『美濃・御嵩城近く・中山道沿い鷹司野陣』

 準備が整った俺は、新たに傘下に加わった美濃勢に先陣を命じ、大竹盾を持たせて斉藤勢ににじり寄らせた。先陣が斉藤勢の弓鉄砲の攻撃を受けだした頃合いに、僧兵に守らせ黒鍬輜重兵に操らせた移動大弩砲を一気に近づけ、敵に大量損害を与える様に横棒を付けた大竹矢を、斉藤勢が密集する辺りに撃ち込んだ。

 竹を十字に組んだだけの大矢は安価で、しかも着地してから跳ね回るため、1本で複数の敵を縦横の竹で打ち据え戦力を削ってくれる。敵が即死する事は無くても、骨折や重度の打撲を与えてくれれば十分だ。珠に直撃してくれれば敵を串刺しにしてくれるから、移動さえ容易になれば重宝する武器だ。

 黒鍬輜重の荷馬に分解した大弩砲を運ばせ、持久戦に持ち込もうとした斎藤勢に合わせて、大弩砲と大矢を万全の準備で整えてから攻め寄せたのだ。もし斉藤勢が短期決戦に持ち込もうと攻め寄せたら、鉄砲騎馬隊8段・各1000騎の合計8000丁の鉄砲で迎え撃つ心算だった。

 斉藤勢の弓鉄砲の反撃が絶えた頃合いに、先陣に盾を持ったまま距離を詰めさせた。そして盾に守らせて、初めて実戦に加わる新人鉄砲兵1000と、全軍から選抜した弓兵も斉藤勢に近づけた。そして斉藤勢を射程距離に収めた弓鉄砲は面制圧攻撃を行った。

 圧倒的な遠距離攻撃戦力にただただ圧倒され、手も足も出ない斉藤勢の後ろ備えから逃げ出す農兵・雑兵が出た、これで斉藤勢は終わった、次々と国衆が逃げ出し全面潰走となったが。斎藤孫四郎龍重・斎藤喜平次龍定が殿を引き受け、御嵩城主の小栗教久も城を討って出て横槍を入れて来た。

 しかし最初から御嵩城の横槍には備えの兵を置いていた為、簡単に撃退する事が出来たし、殿の斉藤兄弟も、鷹司家での生き残りを懸ける遠山勢の必死の攻撃に討ち取られた。

 斉藤勢は中山道を必至で逃げ、顔戸城の脇を通り勝手知った木曽川の浅瀬を渡っていった。しかし俺達は顔戸城・烏峰城(金山城)・明知長山城・久々利城からの横槍や、黒鍬輜重への攻撃を警戒する必要も有り木曽川手前で一旦追撃を中止した。そしていつもの降伏3か条を籠城している斉藤方城砦に射込む事にした。今回はどれくらいの出費で美濃の城砦群を降伏させることが出来るだろう? 斉藤親子に5000貫文の賞金を懸けるのは、確実に稲葉山城を囲んだ後でいい、今は冬を越える為の予備兵糧を銭にあかせて高値で買い漁る! 大量の兵糧は運んで来ているが、高値で買い漁れば斉藤方の裏切り者が、籠城用兵糧を此方に売りに逃げて来るかもしれない。そうすれば容易く城を落とせるかもしれない。
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