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武田義信
苦戦1
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『若狭・後瀬山城』
「信高、如何にすべきか?」
「難しい決断にございます。将軍家・管領殿・六角殿の連名出兵要請を断る事などできませぬ。しかしながら、三好長慶・一色義幸に背を向けて全軍を越前との国境に向ける事も難しゅうございます。」
「さようだな、それに越前と戦にでもなれば独力で勝つのは難しい。」
「六角殿も御出陣とは言われておられますが、三好に対抗する兵は残されましょう。それに何よりもこの出兵要請は甲斐武田に向けての事、本宗家との戦になるやもしれません。」
「甲斐武田との戦は避けたいのが本音じゃ、折角交易で莫大な利益が出ておる、越前朝倉と越中・越後・出羽の湊を支配する甲斐武田と事を構えると言う事は、交易が途絶えることになる。」
「その通りでございます、されど将軍家の兵が1万余、六角殿の兵が浅井を加えて3万余となりましょう、その全てが我が家に向けられる事も有り得ます。」
「将軍家の兵は甲斐武田の銭で雇われていると評判だ、事が起これば銭が止まり散り散りになるは必定、それを防ぐには領地の切り取りが不可欠となるだろう。それが若狭になる恐れもある、何よりも義統は六角家の血を引き、将軍家の妹君を妻としておる。」
「殿は若殿が代替わりを迫ると思っておられますのか?」
「この出兵要請を断れば、将軍家と六角に都合の好い義続を守護にしようとする。有り得る話ではないか?」
「ならば受けるしかありますまい。」
「では、どれくらい出す?」
「三好・一色にも備えるとなれば、白井光胤殿に一色との国境を守らせましょう。越前との国境には我が2000の兵を率いますゆえ、殿は城で三好に備えてください。」
「うむ。」
『近江・観音寺城』
「宗滴殿にも困ったものよ、何も一向宗と一緒に越中に攻め込んでくれと言っている訳では無いのだ、ただ一向宗が越中を攻めるのを黙認してくれと言っているだけなのだがな。」
「されど御屋形様、朝倉家にとって一向宗は不倶戴天の敵、黙認した後で一向宗が越中越後を手に入れ、越前にも攻め寄せて来たら困りましょう。」
「その時は我らも朝倉殿の味方をすると約束しておるではないか。」
「今の世で約束程当てにならない物はございますまい。」
「それはそうだがな、越中は畠山殿、越後は長尾殿を守護にすると将軍家と管領殿が話を進めておる。」
「しかしながら、三好に身を寄せている景虎殿は色よい返事をなされておられぬとか。」
「馬鹿な奴よ! 怨敵武田と戦えると言うに、越後守護を武田に与えた将軍家は認めぬ、平島公方こそ真の将軍家と申してきおったわ! 三好を離れるは義に反するとも申してきおったわ! 主殺しが義とは片腹痛いわ!」
「御屋形様、三好と武田が通じている事はございませんか?」
「定持、大丈夫なのだな?」
「はい、京・堺には多数の武田忍びがおりますが、三好と手を結ぶ様子はございません。」
「定持殿の甲賀衆が調べて何もないなら大丈夫でございますな。」
「だが三好単独で攻めてくる事は有ろう、越前との国境には浅井と将軍家の兵2万を送ればよい、攻め込む訳では無い、あくまでも牽制じゃ。賢豊、戦目付として浅井が朝倉と通じぬ様に差配いたせ。」
「承りました。」
『越前・一乗谷』
朝倉宗滴は苦悩していた、将軍家・細川晴元管領・六角殿から直前に夫々の使者が来た。加賀の一向宗が越中に侵攻するので黙認するようにと言う勝手極まりない内容だ。将軍家達は何も分かっていない! 一向宗が力を持つことの恐ろしさを。あの三好義元や畠山義堯は一向宗に攻められ自害に追い込まれてるのだ。老齢の宗滴亡き後の朝倉家の行く末が案じられるのだ。無視して加賀に攻め込む決意をしたら、国境に2万余の兵が集結して来た。
将軍家も管領も愚か極まりない、どれほど家臣を裏切っても、家臣は自分達に忠義を尽くして当たり前と思い上がっている。集めた兵は全て武田殿が支援してくれた銭で集め養っているのだ、このような愚挙を行えば、今後将軍家や管領に忠義を尽くす者は無くなろう。いや、だからこそ兵を自ら養う領地を欲しているともいえる。この越前を本気で切り取ろうとするかもしれない。ならばどうする? 加賀国境には警戒の兵を置き、若狭国境に主力を置くしかないか? せめて一向宗から逃げてくる船を保護してやる位しかできそうにないな。
『越中・放生津城』
俺は海岸沿いの親不知を越えて越中に入り、信繁叔父上が守る放生津城に急いだ。途中で襲ってくる一向宗を鉄砲で撃破しつつ進軍した。特に魚津城を囲んでいた一揆勢を背後から急襲、鉄砲の火薬を温存する為に太刀で撫で斬りにした。
一向宗の主力10万は放生津城を包囲していた。信繁叔父上は湊を確保する為に不利と知りつつ放生津城に籠られていた。本来なら堅固な山城・守山城に引くべきなのだが、一向宗が攻め寄せる直前まで民を船で逃がす為に湊を守られたのだ。
だが城には弩が大量の矢と共に配備されていた為、逃げ込んだ民にも貸し与えて必死の防戦を指揮されていた。近衛足軽槍隊も一向宗が近づくまでは弩を撃ち、近づけば槍衾で付け入る隙を与えなかった。
「構え! 放て!」
俺の号令で横一線に並んでいた4000騎が鉄砲の一斉斉射を放った。城攻めに夢中だった一向宗はその轟音と撃ち倒された味方に数に驚いていた。
「固定! 抜刀! 掛かれ~!」
俺の号令で鉄砲を鞍に固定し、腰の太刀を抜いた騎馬隊は馬を操り突撃を開始した。決して馬を止めて戦うことは無い、あくまでも馬の勢いで一向宗を圧倒し、その勢いを太刀に加えて一向宗を切り裂いていく。太刀は元々自らの膂力だけで切るのではなく、馬の勢いを利用して戦うものだからだ。
「下がれ!」
雲霞の如く城を囲んでいた一向宗を切り倒していたが、馬に疲れが見えた為一旦引くことにした。一向宗から安全な距離を取ってから、火縄銃に弾薬を早合を使って装填しつつ馬に一息入れた。
『うぉ~~』
俺達が馬に一息入れている事に勇気づけられたのだろう、一向宗の一部が城の囲みを解いて向かってきた。
「四段構え!」
俺の号令一家騎馬隊が陣構えを変える。4000騎が少し一向宗から離れ四段構えを取り、狙いを定める。俺が作らせ貸与している火縄銃は全て士筒、完全武装の武士であっても50m以内なら撃ち殺せる。ましてろくな装備をしていない一向宗なら200m離れても致命傷になるだろう。だから足軽衆の盾や槍衾の防壁の無い今は危険を冒すことなく150m程度から発砲を命じた。
四段に分かれて鉄砲を繰り撃ちし、一向宗に距離を詰められたら引き、一向宗が引けば騎馬で一気に突撃して、太刀で切り倒すことを繰り返しているうちに。放生津城から信繁叔父上が討って出られた! 弓が使える武者と弩を使う民に大手門前の一向宗を射らせ、一向宗が後退した隙に騎馬武者を先頭に切り込まれたのだ。
普通なら俺と叔父上の挟撃を受けた軍は壊乱しただろう、しかし宗教への狂信は逃げることを許さず戦い続けさせ、更に10万と言う数の暴力は大きな力となった。信繁叔父上が城門から離れると一向宗は城に押し入ろうとした。叔父上は城内の民を見捨てて俺と合流して逃げるような方では無い、兵を返して城との間に割って入った一向宗を討ち果たそうとされた。しかしそれは一向宗の大軍に背を見せることでもあり、恐ろしく危険な事だった。
「突撃!」
俺は叔父上の背中を守るために、危険を承知で一向宗の奥深くに切り込むことにした。叔父上たちの軍が城内に収容されるまでは、一向宗の注意を此方に引き付けなければならない。しかも出来るだけ大手門の近くでなければ意味がない。流石に人馬で傷つく者もあらわれた。馬は仕方なく放棄して、武者は余力の有る馬に2人乗りさせ騎馬隊奥深くで守った。
馬に一息入れさせるため、外周部の騎馬は輪乗りで一向宗と戦い、中心部の騎馬は火縄銃の装填を行った。秘蔵の鉄砲騎士が傷つき倒れて行く事は戦力的に惜しいし、幼き頃より共に文武を学んだ者達を失うことは、心が切り裂かれるような痛みを伴う。だがそれでも越中の民を見殺しには出来ない。畿内や北陸での一向一揆では一向宗以外の民は奪われ・犯され・殺されて塗炭の苦しみに曝された。一向宗から越中の民を守るための犠牲は歯を食いしばって耐えねばならない。
叔父上たちを城内に収容する際に一向宗の一部が城に入り込んだ。殿を務めた者を見捨てることが出来ず、最後まで城門を開いていた為だが、民に銭を払って城を強化していたことが幸いした、馬出(うまだし)と内枡形(うちますがた)の御陰で何とか馬出を奪われるだけで済んだ。
叔父上が城を守りっ切ったのを確かめて、俺は軍を返して魚津城に補給に戻ることにした。
『越中救援時の指揮系統』
総大将 鷹司義信
大将 三条公之
陣代 飯富虎昌・猿渡飛影
軍師 鮎川善繁・滝川一益
侍大将 相良友和 今田家盛 加津野昌世 米倉重継 狗賓善狼
足軽大将 市川昌房 田上善親 田村善忠
武将 酒依昌光 板垣信廣 有賀善内 武居善政 武居堯存 金刺善悦 金刺晴長 矢崎善且 小坂善蔵 守矢頼真 松岡頼貞 座光寺為清 知久頼元 山村良利 山村良候 贄川重有 大祝豊保 沢房重 鵜飼忠和 両角重政 山中幸利 小原広勝 小原忠国 武居善種 花岡善秋 大祝右馬助勢 諏訪満隆 座光寺頼近 千野光弘 千野昌房 千野靭負尉
『越中援軍』
飛騨・木曽・諏訪衆 2200兵
信濃衆 3000兵
近衛騎馬鉄砲隊 8000騎
近衛武士団 3000兵
近衛足軽鉄砲隊 1000兵
近衛足軽弓隊 3000兵
近衛足軽槍隊 6000兵(後に5000兵を青崩れ城砦群支援に行かす)
近衛黒鍬輜重 9000兵
総計 3万5200兵
『越中援軍時の部隊配置』
「信濃諏訪城」
大将 鷹司実信
陣代 於曾信安
近衛武士団 1200兵
「美濃」
土岐頼芸援軍 一条信龍・馬場信春
子飼い兵 220騎1100兵
槍足軽 3000兵
弓足軽 1000兵
「出羽」
小野寺家目付 漆戸虎光
槍足軽 2000兵
弓足軽 1000兵
「陸奥」
山之内一族援軍 曽根昌世
槍足軽 2000兵
弓足軽 1000兵
「越後」
総大将 武田信廉
近衛武士団 2400兵
槍足軽 3000兵
越後国衆 7000兵
「越中国」
総大将 武田信繁
近衛武士団 2400兵
槍足軽 3000兵
越中国衆 7000兵
「信濃国」
妻籠城 甘利信忠 近衛武士団 1000兵
青崩城砦群 楠浦虎常 近衛武士団 1000兵
横谷入城 浅間孫太郎
三才山城 赤羽大膳
北条城等 三村勢
福応館 福山善沖(ふくやまよしおき)勢
丸山館 丸山善知(まるやまよしとも)勢
村井城(小屋館) 諏訪満隣勢
殿館 殿勢
荒井城 島立貞知
櫛木城 櫛置当主
波多山城 櫛置勢城代
淡路城 櫛置勢城代
伊深城主 後庁重常
花岡城 元難民が統治
金子城 元難民が統治
その他統治地域の城砦は元難民が統治
「信高、如何にすべきか?」
「難しい決断にございます。将軍家・管領殿・六角殿の連名出兵要請を断る事などできませぬ。しかしながら、三好長慶・一色義幸に背を向けて全軍を越前との国境に向ける事も難しゅうございます。」
「さようだな、それに越前と戦にでもなれば独力で勝つのは難しい。」
「六角殿も御出陣とは言われておられますが、三好に対抗する兵は残されましょう。それに何よりもこの出兵要請は甲斐武田に向けての事、本宗家との戦になるやもしれません。」
「甲斐武田との戦は避けたいのが本音じゃ、折角交易で莫大な利益が出ておる、越前朝倉と越中・越後・出羽の湊を支配する甲斐武田と事を構えると言う事は、交易が途絶えることになる。」
「その通りでございます、されど将軍家の兵が1万余、六角殿の兵が浅井を加えて3万余となりましょう、その全てが我が家に向けられる事も有り得ます。」
「将軍家の兵は甲斐武田の銭で雇われていると評判だ、事が起これば銭が止まり散り散りになるは必定、それを防ぐには領地の切り取りが不可欠となるだろう。それが若狭になる恐れもある、何よりも義統は六角家の血を引き、将軍家の妹君を妻としておる。」
「殿は若殿が代替わりを迫ると思っておられますのか?」
「この出兵要請を断れば、将軍家と六角に都合の好い義続を守護にしようとする。有り得る話ではないか?」
「ならば受けるしかありますまい。」
「では、どれくらい出す?」
「三好・一色にも備えるとなれば、白井光胤殿に一色との国境を守らせましょう。越前との国境には我が2000の兵を率いますゆえ、殿は城で三好に備えてください。」
「うむ。」
『近江・観音寺城』
「宗滴殿にも困ったものよ、何も一向宗と一緒に越中に攻め込んでくれと言っている訳では無いのだ、ただ一向宗が越中を攻めるのを黙認してくれと言っているだけなのだがな。」
「されど御屋形様、朝倉家にとって一向宗は不倶戴天の敵、黙認した後で一向宗が越中越後を手に入れ、越前にも攻め寄せて来たら困りましょう。」
「その時は我らも朝倉殿の味方をすると約束しておるではないか。」
「今の世で約束程当てにならない物はございますまい。」
「それはそうだがな、越中は畠山殿、越後は長尾殿を守護にすると将軍家と管領殿が話を進めておる。」
「しかしながら、三好に身を寄せている景虎殿は色よい返事をなされておられぬとか。」
「馬鹿な奴よ! 怨敵武田と戦えると言うに、越後守護を武田に与えた将軍家は認めぬ、平島公方こそ真の将軍家と申してきおったわ! 三好を離れるは義に反するとも申してきおったわ! 主殺しが義とは片腹痛いわ!」
「御屋形様、三好と武田が通じている事はございませんか?」
「定持、大丈夫なのだな?」
「はい、京・堺には多数の武田忍びがおりますが、三好と手を結ぶ様子はございません。」
「定持殿の甲賀衆が調べて何もないなら大丈夫でございますな。」
「だが三好単独で攻めてくる事は有ろう、越前との国境には浅井と将軍家の兵2万を送ればよい、攻め込む訳では無い、あくまでも牽制じゃ。賢豊、戦目付として浅井が朝倉と通じぬ様に差配いたせ。」
「承りました。」
『越前・一乗谷』
朝倉宗滴は苦悩していた、将軍家・細川晴元管領・六角殿から直前に夫々の使者が来た。加賀の一向宗が越中に侵攻するので黙認するようにと言う勝手極まりない内容だ。将軍家達は何も分かっていない! 一向宗が力を持つことの恐ろしさを。あの三好義元や畠山義堯は一向宗に攻められ自害に追い込まれてるのだ。老齢の宗滴亡き後の朝倉家の行く末が案じられるのだ。無視して加賀に攻め込む決意をしたら、国境に2万余の兵が集結して来た。
将軍家も管領も愚か極まりない、どれほど家臣を裏切っても、家臣は自分達に忠義を尽くして当たり前と思い上がっている。集めた兵は全て武田殿が支援してくれた銭で集め養っているのだ、このような愚挙を行えば、今後将軍家や管領に忠義を尽くす者は無くなろう。いや、だからこそ兵を自ら養う領地を欲しているともいえる。この越前を本気で切り取ろうとするかもしれない。ならばどうする? 加賀国境には警戒の兵を置き、若狭国境に主力を置くしかないか? せめて一向宗から逃げてくる船を保護してやる位しかできそうにないな。
『越中・放生津城』
俺は海岸沿いの親不知を越えて越中に入り、信繁叔父上が守る放生津城に急いだ。途中で襲ってくる一向宗を鉄砲で撃破しつつ進軍した。特に魚津城を囲んでいた一揆勢を背後から急襲、鉄砲の火薬を温存する為に太刀で撫で斬りにした。
一向宗の主力10万は放生津城を包囲していた。信繁叔父上は湊を確保する為に不利と知りつつ放生津城に籠られていた。本来なら堅固な山城・守山城に引くべきなのだが、一向宗が攻め寄せる直前まで民を船で逃がす為に湊を守られたのだ。
だが城には弩が大量の矢と共に配備されていた為、逃げ込んだ民にも貸し与えて必死の防戦を指揮されていた。近衛足軽槍隊も一向宗が近づくまでは弩を撃ち、近づけば槍衾で付け入る隙を与えなかった。
「構え! 放て!」
俺の号令で横一線に並んでいた4000騎が鉄砲の一斉斉射を放った。城攻めに夢中だった一向宗はその轟音と撃ち倒された味方に数に驚いていた。
「固定! 抜刀! 掛かれ~!」
俺の号令で鉄砲を鞍に固定し、腰の太刀を抜いた騎馬隊は馬を操り突撃を開始した。決して馬を止めて戦うことは無い、あくまでも馬の勢いで一向宗を圧倒し、その勢いを太刀に加えて一向宗を切り裂いていく。太刀は元々自らの膂力だけで切るのではなく、馬の勢いを利用して戦うものだからだ。
「下がれ!」
雲霞の如く城を囲んでいた一向宗を切り倒していたが、馬に疲れが見えた為一旦引くことにした。一向宗から安全な距離を取ってから、火縄銃に弾薬を早合を使って装填しつつ馬に一息入れた。
『うぉ~~』
俺達が馬に一息入れている事に勇気づけられたのだろう、一向宗の一部が城の囲みを解いて向かってきた。
「四段構え!」
俺の号令一家騎馬隊が陣構えを変える。4000騎が少し一向宗から離れ四段構えを取り、狙いを定める。俺が作らせ貸与している火縄銃は全て士筒、完全武装の武士であっても50m以内なら撃ち殺せる。ましてろくな装備をしていない一向宗なら200m離れても致命傷になるだろう。だから足軽衆の盾や槍衾の防壁の無い今は危険を冒すことなく150m程度から発砲を命じた。
四段に分かれて鉄砲を繰り撃ちし、一向宗に距離を詰められたら引き、一向宗が引けば騎馬で一気に突撃して、太刀で切り倒すことを繰り返しているうちに。放生津城から信繁叔父上が討って出られた! 弓が使える武者と弩を使う民に大手門前の一向宗を射らせ、一向宗が後退した隙に騎馬武者を先頭に切り込まれたのだ。
普通なら俺と叔父上の挟撃を受けた軍は壊乱しただろう、しかし宗教への狂信は逃げることを許さず戦い続けさせ、更に10万と言う数の暴力は大きな力となった。信繁叔父上が城門から離れると一向宗は城に押し入ろうとした。叔父上は城内の民を見捨てて俺と合流して逃げるような方では無い、兵を返して城との間に割って入った一向宗を討ち果たそうとされた。しかしそれは一向宗の大軍に背を見せることでもあり、恐ろしく危険な事だった。
「突撃!」
俺は叔父上の背中を守るために、危険を承知で一向宗の奥深くに切り込むことにした。叔父上たちの軍が城内に収容されるまでは、一向宗の注意を此方に引き付けなければならない。しかも出来るだけ大手門の近くでなければ意味がない。流石に人馬で傷つく者もあらわれた。馬は仕方なく放棄して、武者は余力の有る馬に2人乗りさせ騎馬隊奥深くで守った。
馬に一息入れさせるため、外周部の騎馬は輪乗りで一向宗と戦い、中心部の騎馬は火縄銃の装填を行った。秘蔵の鉄砲騎士が傷つき倒れて行く事は戦力的に惜しいし、幼き頃より共に文武を学んだ者達を失うことは、心が切り裂かれるような痛みを伴う。だがそれでも越中の民を見殺しには出来ない。畿内や北陸での一向一揆では一向宗以外の民は奪われ・犯され・殺されて塗炭の苦しみに曝された。一向宗から越中の民を守るための犠牲は歯を食いしばって耐えねばならない。
叔父上たちを城内に収容する際に一向宗の一部が城に入り込んだ。殿を務めた者を見捨てることが出来ず、最後まで城門を開いていた為だが、民に銭を払って城を強化していたことが幸いした、馬出(うまだし)と内枡形(うちますがた)の御陰で何とか馬出を奪われるだけで済んだ。
叔父上が城を守りっ切ったのを確かめて、俺は軍を返して魚津城に補給に戻ることにした。
『越中救援時の指揮系統』
総大将 鷹司義信
大将 三条公之
陣代 飯富虎昌・猿渡飛影
軍師 鮎川善繁・滝川一益
侍大将 相良友和 今田家盛 加津野昌世 米倉重継 狗賓善狼
足軽大将 市川昌房 田上善親 田村善忠
武将 酒依昌光 板垣信廣 有賀善内 武居善政 武居堯存 金刺善悦 金刺晴長 矢崎善且 小坂善蔵 守矢頼真 松岡頼貞 座光寺為清 知久頼元 山村良利 山村良候 贄川重有 大祝豊保 沢房重 鵜飼忠和 両角重政 山中幸利 小原広勝 小原忠国 武居善種 花岡善秋 大祝右馬助勢 諏訪満隆 座光寺頼近 千野光弘 千野昌房 千野靭負尉
『越中援軍』
飛騨・木曽・諏訪衆 2200兵
信濃衆 3000兵
近衛騎馬鉄砲隊 8000騎
近衛武士団 3000兵
近衛足軽鉄砲隊 1000兵
近衛足軽弓隊 3000兵
近衛足軽槍隊 6000兵(後に5000兵を青崩れ城砦群支援に行かす)
近衛黒鍬輜重 9000兵
総計 3万5200兵
『越中援軍時の部隊配置』
「信濃諏訪城」
大将 鷹司実信
陣代 於曾信安
近衛武士団 1200兵
「美濃」
土岐頼芸援軍 一条信龍・馬場信春
子飼い兵 220騎1100兵
槍足軽 3000兵
弓足軽 1000兵
「出羽」
小野寺家目付 漆戸虎光
槍足軽 2000兵
弓足軽 1000兵
「陸奥」
山之内一族援軍 曽根昌世
槍足軽 2000兵
弓足軽 1000兵
「越後」
総大将 武田信廉
近衛武士団 2400兵
槍足軽 3000兵
越後国衆 7000兵
「越中国」
総大将 武田信繁
近衛武士団 2400兵
槍足軽 3000兵
越中国衆 7000兵
「信濃国」
妻籠城 甘利信忠 近衛武士団 1000兵
青崩城砦群 楠浦虎常 近衛武士団 1000兵
横谷入城 浅間孫太郎
三才山城 赤羽大膳
北条城等 三村勢
福応館 福山善沖(ふくやまよしおき)勢
丸山館 丸山善知(まるやまよしとも)勢
村井城(小屋館) 諏訪満隣勢
殿館 殿勢
荒井城 島立貞知
櫛木城 櫛置当主
波多山城 櫛置勢城代
淡路城 櫛置勢城代
伊深城主 後庁重常
花岡城 元難民が統治
金子城 元難民が統治
その他統治地域の城砦は元難民が統治
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