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武田義信

最上・寒河江・ツツガムシ対応

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 7月20日『出羽・岩花城(岩鼻館)』

 さてここからどう動くべきか、連れ巡っている出羽の国衆は全く信用出来ない戦国武将たち、この状態で戦になれば何時逃げ出したり裏切らぎるか判ったものじゃない。もし戦の途中で賤ヶ岳の前田利家の様に離脱したり、関ヶ原の小早川秀秋の様に裏切ぎりやがったら、戦略配置が崩壊するだけでは済まない、友崩れや裏崩れが起こり負けてしまうだろう。

 ここから無理に南下しようとしたら、折角分裂した伊達と最上・最上八盾が反鷹司で結束してしまう可能性が有る。いやそれだけでは済まないかもしれない、二階堂や畠山・田村などの陸奥国衆が全て伊達の下に集まる危険も有り得るだろう。ここで一旦いったんほこをおさめて庄内方面に出るか?

 今回の北上で出羽の諸将も表面上は臣従を誓ったが、本当に勢力下に置くには、5年前後の威力巡回と係争地の直轄化、それに伴う国衆の一門・家臣団切り崩しが必要だろう。そうしてやっと、出羽諸将を外征にも動員できる戦力として、計算出来るようになるだろう。だが今はむしろ目付に置く兵力を取られる分、西上に使える直轄兵数は減ってしまうだろう。それでも日本海航路の安全確保は大切だ。

 蝦夷から若狭までの日本海航路を独占していた、湊安東家の海賊衆は一応勢力下に入った。後は完全に鷹司家に取り込んで直臣化することだ、そして新設中の鷹司海軍を戦力化すること。その為には今は苦しくても各湊に目付兵力を駐屯させることは必要不可欠だ。その為にも今は負けることが許されない。負ければ表面上だけ従ってる出羽の国衆はあっさり離反するだろう。

 皇室や朝廷を敬い、心底近衛府出仕を希望した武士や、餓えや戦の所為で生死の瀬戸際の貧民で、足軽や黒鍬輜重に志願した者達を戦力化すれば、目付駐屯させた戦力を補えるだろうが、最低でも1年は訓練が必要だろう。

 「若殿、寒河江兼広殿が参られておられます。」
 鮎川善信が取り次いできた。

 「直ぐに会おう、お入り頂いてくれ。」

 俺の近習衆に案内されて、二十歳過ぎの武将が入って来た。
 「御初に御目に掛かります、寒河江家17代当主・寒河江広種と申します。本日は鷹司卿の御尊顔を拝し恐悦至極に存じます。」

 「兼広殿、わざわざ訪ねてくれたこと嬉しく思う。儂は面倒な事が嫌いなので単刀直入に聞くが、今日訊ねてくれたのは、何か申したい事が有っての事かな?」

 「は、誠に勝手な願いながら、私を鷹司卿の幕下に加えて頂きたく参じました。」

 「兼広殿は独立領主として一族を纏めておられるようだが、何故我が幕下に入りたいのかな?」

 「我が寒河江家は、天文の乱の間は最上家が伊達家の内乱に加わっていた御陰で平穏でございましたが、最上家が独立を果たし以降は、最上家の圧力に苦心しております。最上義守殿・土佐林禅棟殿との間で盟約の動きも有ったのですが破談となりました、どうも義守殿は我が領地を切り取る心算のようで、枕を高くして眠ることが出来ません、一門家臣領民の為にも鷹司卿に後ろ盾になって頂きたいのです。」

 「だが儂が聞いておる話では、兼広殿の父上・広種殿は最上一門と縁を結んでおられたとの事だが?」

 「はい確かにそうではございます。父・叔父・叔母など幾重にも縁を結んでおりますが、義守殿はその程度の縁は歯牙にもかけますまい。例え親兄弟で有ろうと家の為と思えば攻め殺しましょう。」

 「ふむ、この末世では致し方ないのであろうな。判った、兼広殿を我が幕下に迎えよう。」

 シメシメ、鴨が葱背負ってやって来たよ! 影衆の報告では寒河江家の石高は8万石程度、外征に動員は出来ないが、最上家を押さえるには丁度好い。

 「重ねて鷹司卿に御願いがございます、我が寒河江家が鷹司卿の幕下に入った事を最上に知らしめるためにも、どうか我が城に滞在して頂けませんでしょうか?」

 「伺わせてもらおう。」
 
「寒河江家勢力」
寒河江城・寒河江家本拠・三重の堀を持つ連郭式平城
溝延城 ・溝延家(一門衆)
左沢楯山城 ・左沢家(一門衆)
白岩城 ・白岩家(一門衆)
小泉楯
柴橋楯 ・橋間伯耆守(一門衆)
高松楯(落衣館) ・ 高松家(一門衆)
高屋楯 ・高屋知近(一門衆)
本楯
貫見楯
新田楯 ・公平家(新田家)
長崎楯 ・中山宗朝(譜代衆)

 俺は岩花城から南下をする事を決意、全戦力を伴って移動を開始した。この時途中で宿泊したのは、最上庶流・清水義高の清水城、天童庶流の鷹巣館、太田佐仲の井手館、最上庶流で最上八盾の1家・楯岡満康の楯岡城、白鳥長久の白鳥城、天童庶流の長瀞城、寒河江家庶流の溝延城、寒河江城とゆっくり周辺諸家を威圧し、近衛府出仕を誘いながら移動した。


 8月1日『出羽・鮎貝城』

 俺は出羽・陸奥の諸将を帰国させ、元々の直轄兵と新たに近衛府出仕を希望した兵力を伴ってさらに南下した。この時に宿泊した鮎貝城主・鮎貝盛宗は、天文の乱当初は最上義守の支援を受けて伊達植宗に味方したが、伊達晴宗勢が宮村館主・片倉伊賀守を中心に力を盛り返し、野川を越え鮎貝盛宗を攻め、成田の飯沢館、五十川の諸館を攻落し、鮎貝盛宗勢を蚕桑村まで押し戻したため寝返り、所領安堵と「守護不入」の特権が伊達晴宗から認められていた。伊達植宗に調略を仕掛ける場合は要の1つになるかもしれない。

 問題はこのまま南下するには、伊達晴宗に当初から味方して鮎貝盛宗と戦っていた、小桜城の片倉景親の勢力圏を通らなければならない事だ。ここから先は伊達の影響が強く常時危険を伴う、城に招かれて毒殺などを計られても面倒だ。折角想定以上の成果が有ったのだから、欲張らずに帰国しよう。

 ここで俺は騎馬隊と歩兵部隊を分離して帰国することにした。俺は6000騎の騎馬隊だけを直卒し、歩兵部隊は鷹司実信と飯富虎昌に任せて帰国を急ぐことにした。この時影衆に対して、越後村上から朝日山地を越えて、出羽玉置郡長井の伊達勢力に攻め込める間道の整備と、拠点となる山小屋を設けるように指示した。

 「恐ろしい事が起こりました。」
 飛影が感情を押し殺して報告にやって来た。

 「何事だ?」

 「兵の中に赤虫に刺された者が数百人出ました。」

 「赤虫? なんだそれは?」

 「越後・魚沼当たりの川筋に見られる虫刺されですが、刺されると命に係わります。」

 「それが出羽でも出たのか?」

 「恐らく最上の川筋にも赤虫がいるようです。」

 「刺された者に共通点は有るのか? 症状には特徴があるのか?」

 「共通するところは、徒武者か足軽で休息時に河原で寝転がった者です。皆が高熱を発し頭痛と気怠さを訴え、発疹が出ており虫に刺された跡が見られます。以前に若殿が教えて下さった、リンパセツですが刺された近くが膨れております。」

 「刺された者はどれくらい亡くなるのだ?」

 「魚沼の信濃の川筋と阿賀野の川筋の噂ですと、半数は亡くなるようでございます。」

 「取りあえず、腋の下・後頭部・首筋を濡れた布でで冷やしてやれ、後は以前教えた塩を加えた重湯を食べさせてやれ。それと全ての兵に休憩中でも寝転がるなと厳命せよ。越後の川筋には、永田徳本先生に弟子を送って頂くように、至急伝書鳩を飛ばしてくれ、越後の民も俺の大切な領民だ、見殺しには出来ん。」

 「承りました。」

 飛影が近習衆に指示している、最近では影衆も堂々と近習に加えているからな、彼らなら医療の知識も多少は仕込んである。さて高熱による脳症と脱水症状に手を打つくらいしかできんな。甲斐の水腫と違い直ぐに症状が出たから、別の感染症か虫毒だよな? 予防するには寝転ぶのは論外にしても、糞暑くても衣服で守ることなんだが、それだけの布を確保するのは難しいな。一昨年にやっと海岸線が手に入って魚肥を作成できたところだ、肥料が大量に必要な綿花栽培が本格化出来るのは、蝦夷からの鰊肥料が大量に入手できるようになってからになるだろう。

 次善の策は何だ? 赤虫が出た所には近づかないのが一番だが、それは無理だろう。せめて脚を守る足袋かブーツを赤虫発生地域に支給するか? だがそれで他地区との不公平感が出れば、謀反を煽る輩が出るかもしれん。やはり今まで通りに開発資本を投下して、民を豊かにして自分で足袋やブーツを買えるようにするしかないか? 後は何が出来るだろう? 発生区域に入った後の入浴と衣類の洗濯か? 床几を買ったり作ったり出来る者なら、休憩時は地面に座らず床几に腰かけるように指導すればいい。

 赤虫が忌避する成分を見つけられればいいんだがな、思いつくのは除虫菊による蚊取り線香と、俺が蚤や虱よけに使ってる栴檀液、楠の葉や枝などを水蒸気蒸留してつくった結晶・樟脳くらいだが。実際には効果が有るだろうか? 試してみて無駄はないだろう、少なくとも刺される者が増えることだけはないだろう。足袋を買える位に民を豊かにして、足袋は赤虫が忌避する汁に浸してから履く。若しくは全身に塗るようにする。

 少なくとも俺や周りの者は栴檀液で洗った下着の御陰で、蚤や虱の被害が激減している。この時代に生まれ変わって最初嫌だったの事の一つが虫害だ。ならばこれも銭になる筈だ、栴檀液・樟脳・除虫菊を商品として大量生産しよう、赤虫の被害で苦しむ民が簡単に手に入れられる位に量産しよう。
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