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武田義信

下向第一陣・年末棚卸

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 9月3日『花岡城 義信私室』

 小笠原長時の北条城強襲は予想外だった、まさか陣頭指揮で全軍夜襲を仕掛けてくるとは。だがある意味好都合だ、俺が悪者にならずに寝返り組・旧小笠原勢の大物を除くことが出来た。ありがとう長時ちゃん。これで境目の国衆は俺を頼るしかなくなった。彼らは長時の恨みの深さに恐怖しているだろう、いつ長時に全軍夜襲を仕掛けられるか判らない。結果として境目の寝返り組国衆は、武田の援軍を城砦内に受け入れるしかない。

 それと、小笠原と村上の馬廻り衆による夜襲略奪は小笠原だけが続けているようだ。彼らは合戦で年貢収入と関料が激減している。軍の維持に汲々としている、略奪収入で軍を維持する以外方法が無いのだろう。

 一方関料で莫大な利益を上げたのが遠江の今川とその国衆だ、俺との正式交易の窓口は伊那口が一番関数が少なく、いわゆる関税が安く済む。だから遠江の湊に商人は船をつけ、商品を荷揚げして甲斐に陸路で持ち込む、売価で俺が開発した産物を買い込み西国に運び利益を上げる。

 次が駿河口を受け持つ穴山と相模口を受け持つ小山田だ、彼らの経済力は侮れないだろう、関料収入を正確に把握して、その分の軍役を負担させて吐き出させないと、いつ寝首を掻かれるか判った物ではない、信玄と相談して対村上戦で消耗させないといけない。

 規模は少なくなるが、美濃口の斎藤と上野口の関東管領・上杉も利益を出しているだろう。彼らが武田と友好を計って利益の安定を目指してくれれば好い。だが羨み妬んで攻め込んで来たら大変だ。国境線の警戒と兵力配備には今まで以上に資金を投入する。

 俺の経済力と甲斐信濃への国内投資は、武田支配域に好景気をもたらした、俺に産物を供給してくれる元難民も豊かに成っており、特に荷役等の歩合の有る家臣領民の購買力は飛躍的に上昇している。彼らにも6年の月日は家族をもたらした、いや俺が態と、裏切り防止の人質にもなる家庭を持たせる政策をしたのだ。それは兎も角、大切な家族に少しでも豊かな生活をさせてやりたいのは人情、美味し物を食べさせてやりたいし、暖かな着物の1つも買ってやりたくなる、だからこそ銭と物の流れが上手くいっている。この好景気サイクルを維持すれば武田に負けは無い!


9月4日『京 三条屋敷』

 甲斐下向の第1陣が整った。当初は細川晴元伯父上と足利義晴前将軍は、下向の護衛に付ける兵力抽出に難色を示された。しかし、雑兵雇用の軍資金供与を受けて納得して下さった。護衛に使う足軽2000兵用に1万貫文、晴元伯父上が独自に足軽を集め使えるよう別に1万貫文、合計2万貫文。これで納得して下さった。

 公家衆の武田への手土産も決まった。三条公頼お爺ちゃんの鷹司家の継承が認められたのだ、更に太政大臣任官が決まり京に残留することになった。これに伴い武田次郎改め三条実信の三条家当主継承も認められた。これらは表向き武田直接の褒美では無かったが、この後大盤振る舞いが有った。願い出ていた信繁叔父さんの左馬助・正六位下と、信廉叔父さんの大膳大進・従六位上就任が認められた。あとは信玄の官位が微妙に上がった、次郎との逆転現象を考慮してくれたのだろう、公家らしい配慮と言える。勿論内祝いをばらまくことになったが。

鷹司公頼 従一位  太政大臣

武田信玄 従四位上 大膳大夫兼甲斐守・足利幕府・礼式奉行 国持衆 甲斐守護        
武田義信 従五位下 大膳亮 足利幕府・准国持衆・飛騨守護

三条実信 従四位下 侍従
三条公之 従五位下 侍従に任官

武田信繁  正六位下 左馬助
武田信廉  従六位上 大膳大進
姉小路信綱 従六位下・飛騨国司 足利幕府・飛騨守護代

 秋山虎繁率いる公家衆の下向は険しい山道となった、本当は堺に出て海路で遠江に行くのが楽なのだが、将軍家の軍が護衛している為、将軍家と晴元伯父上に敵対している三好長慶の勢力圏を行くのは危険だった。仕方なく近江を通り美濃に入ってから飛騨に向かって貰った。ここでも周辺諸国の戦乱が影響している。三河を巡る織田信秀と今川義元殿の合戦だ。本当は美濃から尾張に出て海路で遠江に行くのが、信濃伊那郡吉岡城に入るのなら楽なのだが、三河で大合戦中の為不可能となった。仕方なく万が一にも戦に巻き込まれないように、美濃から飛騨川を上って飛騨桜洞城に入って頂いた。

 どうせ公家衆の足が遅いのは判っていた、正直な所は女子供を含む難民なのだから。だからついでに物資の豊富な堺から、食料や硝石などの必要物資を大量に運ばせることにした。それでなくとも合戦と好景気で物価高の武田領内だ、大量の公家衆が下向すれば物価高に拍車がかかる。物価安定の見せ物資を公家衆と共に武田領で受け入れないと不味いのだ。

公家衆には堺・近江の商人も多数随伴していた。公家衆の家人と言う体裁を整えれば、安全な上に片道の関料が免除になるのだ。公家衆に賄賂を払ってでも、武田領で物資を売買できれば、大きな利益が見込めるのだ。更に商人は下向途中に国衆相手に売買を行っている。俺としても大量の物資が持ち込まれるなら助かるから黙認だ。

 通過する近江と美濃の国衆による接待攻勢も激しかった、この好機を見逃す国衆では無い、公家衆・朝廷との縁を結ぼうと必死だった。俺も将来近江・美濃の国衆切り崩しは考慮している。秋山虎繁には調略を頑張って貰わねばならん。

 下向の公家衆は、大桑城の土岐頼芸殿の下で長めに滞在した。斎藤道三の稲葉山城よりも長めにだ。大桑城は前世の山県市大桑・青波・富永地区にあり、飛騨から長良川を下れば鷲見城・烏帽子山城・二日町城・六ツ城・阿千葉城・東氏館・木越城・東殿山城・中山城・深戸城・苅安城・高原城・鉈尾山城・小野城・跡部城を経由して直接援軍が可能になる。だがその為には、土岐家旧臣の心を繋ぎ止めておかないと無理だ。特に直接援軍経路を抑えている、東一族と跡部一族への懐柔と圧力は必須だ。その為の大桑城長逗留による土岐頼芸重視だ。

東常慶
東殿山城 東常堯
木越城  遠藤胤縁
苅安城  遠藤盛数

跡部城  跡部将監頼利
小野城  斎藤氏


12月1日『飛騨 桜洞城 三条夫人私室』

 三条の母上には、飛騨・桜洞城に入る公家衆の接待を御願いした。勿論三条実信になった次郎・三条公之になった三郎も同行している。これから公家としての勉強があるのだ。桜洞城は元々三木直頼の避寒地だった、更に飛騨攻略の為大軍を一度越冬させている。この為大人数が越冬する下地が出来ていた上に、急遽大量の人夫と銭を投入して住み易くした。春まではここで我慢してもらうしかない。

12月10日『花岡城 義信私室』

 さて、何故三河で大合戦が起きたかと言うと、3月に松平広忠が暗殺されたからだ。今川義元殿は三河を横領すべく、太原雪斎を総大将に公称2万余の軍勢を三河へ出陣させた。勿論2万の中には松平勢も含まれている。太原雪斎は今川勢の一部を岡崎城に入れて三河の横領を確保しておく。更に安祥城を孤立させるべく、尾張からの援軍遮断の為に鳴海・大高方面にも軍を分けて派遣、その上で山崎城をなどの安祥城の出城を占領、仕上げに松平竹千代との人質交換要員の織田信広確保すると、戦意を煽った上で松平勢に先方させていた。主君を暗殺されて当主不在の松平勢は被害を顧みず攻め立てた、三の丸・二の丸を次々に落とし本丸に迫ったが焦り過ぎて陣代の本多忠高(本多忠勝の父)が討ち死にしてしまった。陣代を失った松平勢の動揺は激しく、太原雪斎は一旦軍を引いたそうだ。

 9月に成って太原雪斎は再出陣した、吉良氏の一族・荒川義広の拠点であった幡豆郡荒川山に布陣して、織田信秀に協力した東条吉良家の西尾城を攻略した。これに観念した東条吉良家当主・吉良義安は織田派の重臣を処分した上で降伏した。しかしこの後に人質として駿府に送られてしまう、しかも西条吉良家の吉良義昭に東条吉良家も継がせて、両吉良家の統合を強行した。今川は本来吉良家の分家だ、分家が本家を支配下に置く、正に下克上の戦国時代だが、ここにも工作の下地が有る、チョッカイ出せる様に調べさせておこう。

 安祥城に迫る今川軍に対して、織田家は平手政秀を大将として援軍を派遣した。頑強に抵抗するものの安祥城は落城し織田信広は捕虜になった。これで松平竹千代と織田信広は交換されるのだろうが、史実通り駿府に人質として送られ、三河は属国化されるのだろうな。

 その証拠に、安祥城には天野景泰・井伊直盛が城代として送り込まれた。岡崎城にも山田景隆が城代として送り込まれた。三河の敵対的な国衆や地侍に対しては、当主を駿府に住まわせたり人質をとることで動きを封じた、友好的な国衆や地侍に家督を継がせたり領地を与えること支配力を強化していった。西三河はほぼ今川の勢力圏になったと言える。

 刈谷城は水野信近に返還さして水野一族を取り込もうとしているようだが、宗家の緒川城主・水野信元の去就は今後の合戦に掛かっているのだろう。


12月25日『花岡城 義信私室』

 伊那・木曽・諏訪郡の開発進み、兵農分離も進み直轄化がほぼ完了した、これにより生産物や銭が直接俺に入ることになった。だが境目の合戦地域は税を免除したのでその収入は無しだ。麦焼酎の価格崩壊に歯止めがかかった、豊かになった俺の直臣や領民が買ってくれたからだ。兵糧・武具甲冑・牛馬の購入にも大量に資金を投入した。下向護衛の足軽2000兵は俺の軍に組み込んだ、これからも公家下向の護衛として雑兵を畿内で集めよう。勿論工作資金は湯水の如く使った。

『義信直轄力』

甲斐水田  1100町(1万1000反)
甲斐畑    700町(7000反)
信濃伊那郡 10万石
信濃諏訪郡  3万石
信濃木曽郡  1・5万石
飛騨     3万石

取れ高
玄米     8万2000石
雑穀    15万0000石

備蓄兵糧
玄米   35万石
麦    70万石

焼酎生産力
杜氏20人
杜氏1人当たり3石甕1000個前後
20×3×1000=6万石
6万石×(1合卸値21文)=126万貫文

鉄砲   2778丁
三間槍  8000本
三間薙刀 6000本
弓    8000張
大型弩砲  500基
打刀   1万9000振
太刀   5000振
足軽具足 1万9000個

足軽弓隊  2000兵
足軽槍隊  6500兵
扶持武士団 5900兵
騎馬隊   4000兵
黒鍬輜重兵 5000兵

繁殖牝馬 1523頭
訓練育成中の軍馬
0歳馬  1422頭
1歳馬  1346頭
2歳馬   848頭
3歳馬   421頭
4歳馬   165頭

繁殖牝牛 911頭
育成中の牛
0歳牛  898頭
1歳牛  782頭
2歳牛  492頭
3歳牛  191頭
4歳牛   99頭

合戦・牛馬・武具・米麦・恩賞・裏工作費用など歳出
120万貫文

『軍資金』
使用不能な武田貨幣
金銀銅貨合計 4000万貫文(10文黄銅貨が特に使えない・半分は信玄保有)

使用可能な精銭・永楽銭
188万貫文
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