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武田義信

天文17年(1548年)10歳・ 村上義清

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  『木曽妻籠城 大広間』

 「鮎川、小笠原の動きはどうだ?」

 「妙義山城・武居城・今井館に詰める監軍からの連絡では、動きは無いようです。」

 「ならば、御屋形様の村上攻略の隙をついて諏訪を攻める動きはは無いのだな。」

 「今のところその兆候は有りません。」

 「三河の動静は判るか?」

 「峠の雪未だ深く、荷役からの連絡は有りませんが、大きな動きがあれば伝書鳩が躑躅ヶ崎館に届くと思われます。」

 「ならば我らはこのまま妻籠城に留まり、小笠原と三河の動静を探りつつ、小笠原に動きがあれば川をさかのぼり塩尻方面の出て、小笠原の後背を突く。三河で織田が勝ち、勝に奢って三河奥深くに進み遠江を望むようなら、根羽砦に移動し飯田街道を下り三河武節城を落とし、山麓の諸城を落としつつ尾張をうかがう、少なくとも三河の一部は切り取る。」

 『おぅ~~~』

 さて、大広間には配下の諸将が軍議に集まっている。だがこれはアリバイ工作だ。史実通りだと、信玄は1度村上義清に大敗したはずだ。何の理由も無く、俺が村上戦に参戦せずに大敗してしまい、多くの譜代家臣が討ち死にしたら、武田への不審不満が育まれてしまうだろう。それを防ぐには、俺が参戦しない明確な理由がいる。それが小笠原の諏訪侵攻への備えと、美濃斎藤の木曽侵攻へ備えだ、更に加えるなら今川と織田の合戦の隙をついての、三河と尾張領切り取りへの準備だ。信玄の擁立と信虎爺ちゃん追放事件から、重臣団の発言力と勢力は大きくなってる、これを削がねばならない、何より俺は真珠養殖用に諏訪湖が欲しい。信濃を横領して独立しようとしていたとの説が有る、板垣信方だけは除かないといけない。信玄と2人だけであらゆる戦況に応じるシミュレーションはしておいたが、信玄と歴史はどう動く!


『信玄・義清合戦経過』

 村上義清は猛将として知られ、葛尾城を本拠に埴科郡、高井郡、小県郡、水内郡を勢力下におさめている。信玄の信濃平定には絶対取り除かなければならない難敵だ、家臣に加えられる程度の小物では無い、倒すか倒されるかの2つ1つしかない。

 2月1日信玄は5000の兵力を率い北信濃に向けて進軍を開始した。武田軍は上原城で板垣信方の率いる諏訪衆や郡内衆と合流し、大門街道を通り大門峠を越えて小県郡南部に侵攻した。

 これに対して、村上義清は天白山の葛尾城と北東部の戸石城を拠点に一旦陣を敷き、迎撃の準備を整えた。その後、さらに岩鼻まで南下して上田平に展開し、産川を挟んで武田方と対陣した。

 2月14日になり武田軍8000兵と村上軍7000兵は激突した。真田幸綱(幸隆)が先陣を願い出るものの却下されてしまった。信玄は板垣信方を先陣を命じ、栗原左衛門尉・上原昌辰・小山田信有・武田信繁らが村上軍に攻撃をしかけた。先陣の板垣部隊は村上軍先陣を撃破して敵陣深く突進するが、元々が傲慢ごうまんな性格の板垣信方は勝ちにおごり、事もあろうに敵前で首実検を始めてしまった。

 猛将村上義清はその隙を見逃さなかった、村上軍は一気呵成に板垣部隊に突撃を仕掛けた。

 不意を突かれた板垣部隊は大混乱状態に陥ってしまった、愚かで傲慢な板垣信方は、急ぎ馬に乗ろうとしたが、突貫してきた敵兵の槍に突かれて討ち取られてしまう。主将を討ち取られた板垣部隊は壊乱してしまい、村上軍は勢いに乗って武田本陣に猛攻をしかけてきた。

 先陣を打ち破られた武田軍は、本陣まで攻め込まれそうになるも、予めあらゆる戦況を善信とシミュレーションしていた信玄は、小山田信有の郡内部隊に迎撃を命じつつ後退、左右の脇備の工藤祐長(内藤昌秀)と馬場信房(信春)に横槍を入れるように命じた。

 小山田信有・工藤祐長・馬場信房の獅子奮迅の活躍が村上軍の鋭鋒を押し止めてくれた、その御陰で武田軍は戦線を維持できたものの、板垣信方・甘利虎泰・才間河内守信綱・初鹿伝右衛門高利などが打ち取られてしまった。農閑期を選んだ所為で、極寒期の信濃へ侵攻することになった武田軍は何時もより動きが悪かった。一方土地勘のある村上軍には元々有利な状況に有ったのだ。


『妻籠城 善信私室』

 「若殿、御屋形様からの伝令が参っております。」

 「善狼か、直ぐに参る。伝令に軽食けいじきを出す準備と諸将を集めよ。」
 俺は近習の狗賓善狼に命じつつ、急ぎ伝令に会う為大広間に向かう。

 「は、台所には湯茶と雑炊の準備を命じております。諸将にも別の者が集合を伝えに行っております。」

 「うむ、好く気が付いたな、その調子で働く様に。」

 「は、有難き御言葉。」

 大広間に行くと既に諸将は集まっていた、信玄の出陣以来、何時でも打って出れるように心掛けていたのだろう、安心できるな。

 「注進大儀、御屋形様は何と言われたのだ?。」
 俺は伝令をねぎらいながら話を聞きだす。

 「は、我が軍は板垣信方殿を先陣に小県に討ち入り優勢に軍を進めるも、村上義清の反撃を受け後退、板垣信方殿・甘利虎泰殿・才間信綱殿・初鹿高利殿が討ち取られてしまいました。小山田信有殿・工藤祐長殿・馬場信房殿の御働きで村上軍を押し止めたものの、村上軍との膠着状態となってしまいました。御屋形様は善信様に援軍を送る様にとの御指示でございます。」

 「相分かった、急ぎ軍勢を整え援軍に参る、御苦労であった。友和、この者に用意の食事を与えてやれ。」
 俺は相良友和に命じた。

 「は、承りました。」

 俺は急ぎ兵を整え小県へ行くことにした。信玄との事前のシュミレーションでは、この状況に成ったら常備兵だけで応援に行く手筈になっていた。木曽川を遡り、須原城・木曽福島城を経由して塩尻に出る、諏訪の山吹城・上の段城・下の段城・山吹小城で休息し兵の英気を養ったうえで、大門街道を通り小県に出る。

 「信忠、木曽は任せる。三河の状況に気を配りつつ、美濃の斎藤への備えも怠るな。」

 「は、承りました。」
 甘利信忠に木曽の全権を与えて後背に備えさせた。

 「昌世、伊那木曽の扶持武士団の内1000兵を率いて赤木南城に入り小笠原に備えよ。」
 曽根昌世に命じる。

 「は、承りました。」

 「先陣は一益に命じる、兵500を率いて直ぐに出陣しろ。」

 「は、承りました。」

 「家盛・友和は一益を支えよ。」

 『は、承りました。』

 3人は何時でも出陣できるように準備していた槍兵500を率いるべく出て行った。

 「信是殿・虎常・虎光・長坂勝繁・昌房・鮎川勝繁・善狼・友和は我と供に出陣して貰う。」
 同じ名前の長坂と鮎川は面倒だな、鮎川には諱を与えるか?

 叔父の松尾信是、相談役の楠浦虎常と漆戸虎光、近習の長坂勝繁と市川昌房、軍師の鮎川勝繁、足軽大将の狗賓善狼を今回の出陣に同行させることにした。

 木曽討ち入りで武勇を示した叔父の信是殿は副将にすべきかな? 俺に何かあった場合に、部隊が壊乱することは許されない。次席指揮官制度や指揮官継承順位を明確にして、上級指揮官を狙い撃ちにされたとしても、部隊が壊乱しないように準備しておかないとな。

 「おぅ~~~~」

 先陣 槍500兵
 大将 滝川一益
 足軽大将 今田家盛・相良友和

 本陣 1500兵(弓1000・槍300)
 大将 武田善信
 副将 松尾信是
 相談役 楠浦虎常・漆戸虎光
 軍師 鮎川勝繁
 足軽大将 狗賓善狼・相良友和・長坂勝繁・市川昌房

 市川と長坂を足軽大将に任命した。

 2月18日、俺達は妻籠城を早朝に出陣、奇襲に備え戦う余力を残しつつ行軍をして小県を目指したが、この日は木曽の反乱を抑える為にも木曽福島城で一泊する。

 2月19日、早朝に木曽福島城を出発、前日同様奇襲に備え戦う余力を残して行軍、上ノ段城に到着し小笠原の動きを探りつつ一泊する。

 2月20日、早朝に上ノ段城を出陣、大門街道を奇襲に備え行軍、和田城・中山城・矢ヶ崎城に入城した。この位置は村上義清の葛尾城と小笠原長時の林城の両方に圧力を掛けられる絶好の位置だった。

 これを受けた信玄は、10日間陣を維持した上で、常時動員可能な専業武士だけを和田城・中山城・矢ヶ崎城の応援に残し、農兵を指揮して甲斐に帰還した。

 この為、村上と小笠原は農繁期に入っても常に兵を動員して善信に備えねばならず、国衆・地侍・農民からの不満を受ける羽目になってしまう。
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