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イスパニア本格開戦

憂慮

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1576年7月:薩摩一宇治城・本丸義信寝室:鷹司義信と正室・側室:義信視点

「若様。どうか、どうか、愚かな義近を許してやって下さい」
「緑。今回ばかりはどうにもならんよ」
「若様の御力で、どうか、どうか」
「義近は、総大将として信廉叔父上とその子供達を斬首にしているんだ。それなのに、武田諸王国を乱すような事をした」
「女に眼が眩んだだけでございます。まだ御家に迷惑をかけておりません」
「奉天伯の御息女・春奈殿を蔑ろにした。南方では、影衆が御膳立てしてくれた婚儀を無駄にして、王国に迷惑をかけたばかりではないか。その時に義近は、春奈殿との愛を貫くと言ったではないか」
「恋は盲目と申します。義近もう少し大人になれば、色恋と御政道を分けて考えられます」
「駄目だ。もう十分大人だ。元服をした以上、甘やかすことは出来ん。一度は情けをかけたが、もはや容赦出来ぬ」
「命ばかりは、命ばかりは助けてやって下さいませ」
「陛下次第だ。陛下が切腹や斬首を命じられたら、従わねばならん」
「若様の御力を持ちまして、御執成し出来ませんでしょうか」
「それは、前回行った。二度はない」
「若様。どうか、どうか、どうか御願い致します」
「九条。緑を慰めてやってくれ」
「緑殿。若様も辛いのです。陛下には我らから直接助命願を出しましょう。若様にこれ以上無理を願えば、陛下と若様の間に亀裂が入り、諸王国が瓦解してしまいます。それにこれ以上の無理は、緑殿の他の御子にまで悪影響が及ぶかもしれません」
「……九条様……」
 半狂乱になった緑を、九条と他の側室達が宥めて、俺の前から連れ出してくれた。
 緑も影衆を務めていたことがあるから、今回の件がただでは済まない事に気が付いているのだろう。
 俺も口では信玄が許さないと言う事にしているが、実際には俺も許せないのだ。
 義近の馬鹿は、俺や信玄が、好き好んで叔父上達や従兄弟達を殺したとでも思っているのか。
 諸王国の安寧の為、天下百年の平和の為、泣く泣く身内を殺したのだ。
 その直後に、女に眼が眩んで国の再興を許そうとするなど、愚かにも程がある。
 小一郎も、義近の命だけでも助けようと、貴重な伝書鳩を幾羽も使い、俺と信玄に直接指示を願い出ている。
 せめてスペインとポルトガルが、イギリスと敵対してくれていたらよかったのだが、スペイン王は我らにイギリス以上の危険を感じたようで、カソリックとプロテスタントの宗教対立を無視してでも、連合して戦う決断をしたようだ。
 義近も、頭は悪くないし勇気もあるのだが、性欲だけ抑えが利かないとは、俺には理解出来ん。
 小一郎と藤吉郎が飛影と相談して、勘助を説得してくれたようだから、命だけは助けてやれると思うのだが、問題は信繁叔父上との関係だ。
 春奈殿の処遇をどうするかで、後々の諸王国の婚姻政策にまで悪影響が出てしまう。
 悪しき前例を作るわけにはいかん。
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