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イスパニア本格開戦

無残

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1575年10月:ゴア要塞都市郊外・猿渡飛影と武田信廉:第三者視点

「最後に言っておきたい事はあるか」
「ない」

 飛影は呆れていた。
 このような謀叛が本当に成功すると思っていたのか。
 そもそも、この謀叛が本当に始まるのか、飛影は半信半疑だった。
 確かに影衆から集まる情報は、信廉が謀叛を企んでいるのが明々白々だった。
 だが、信廉は愚かではないと、飛影は思っていた。
 陛下や信繁殿には及ばないものの、今迄の合戦では、流石同腹の弟と思わせる所が有った。
 それなのに、これほど明白な誘いに乗って、自滅の道を歩んだことが解せなかった。
 信廉なら、援軍に自分の子供達が全て送られて時点で、謀叛を諦めると思ったいた。
 例え信廉が謀叛を思いとどまっても、陛下は信廉を誅そうとするだろう。
 だが王太子殿下が止めに入る事は、信廉なら理解出来た筈だと、飛影は考えていたのだ。
 そうすれば、このような惨めな思いはしなくて済んだのだ。
 信廉は幽閉されるだろうが、子供達まで皆殺しになることはない。
 一度武田諸王家に刃を向けてしまったら、王太子殿下であろうと、助命は難しい。
 現に信廉の子供達は、合戦の中で討ち死にしてしまっている。
 勘助殿は密かに信廉の軍に送り込んだ刺客の仕業だろう。

 信龍と信智も愚か過ぎた。
 影衆が常時見張っている事が、何故分からないのだろう。
 飛影から見れば、援軍に来た土岐と今川に所縁の家臣が、陛下や王太子殿下に調略されていると、分からないのが不思議だ。
 これまでの合戦で、王太子殿下が敵対する者を、調略で滅ぼしてきたことくらい、分かりそうなものなのに。
 人は追い詰められると、これほど愚かになるのかと、飛影は改めて思い知った。

 信廉の子供達は、初陣も済んでいないこともあり、信廉の言う通りに謀叛に加担した。
 だが信龍と信智の子供達は、初陣も済ませ、各地で戦っていたこともあり、必死で父親を諫め、無謀な謀叛を思いとどままらせようとした。
 だが信龍と信智は、反対する子供達を幽閉して、兵を率いて城を討って出た。
 謀叛が成功すれば、子供達も協力するだろうし、失敗しても、武田諸王家に忠誠を誓ったと言う事で、殺されないようにする策だろう。
 だが、そのような小細工が、陛下に通じるとは思えない。
 王太子殿下が助命嘆願されるだろうが、陛下が聞き届けられるかどうか、今回ばかりは分からないと飛影は心配していた。
 信廉は、二万の軍勢を率いて出陣したが、名乗りと飛影との舌戦を終え、
「かかれ」
 と号令をかけて、軍が動き始めた所で、味方から裏切り者が出た。
 土岐と今川に所縁の家臣はもちろん、信廉の重臣からも裏切り者が出た。
 これでは合戦になどならない。
「武器を捨てる者は許す」
 と飛影が言えば、ほとんどの将兵が武器を捨てて地に伏せる。
 あとは、僅かな兵を掃討するだけだった。
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