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イスパニア本格開戦

攻防③

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1575年4月:ゴア要塞都市・ドン・アントニオ・ダ・ガマと側近:ドン・アントニオ・ダ・ガマ視点

「閣下。内城に撤退してください」
「駄目だ。ここで引けば、完全に包囲されてしまう」
「逃げるのですか」
「そうだ」
「しかしそれでは、閣下の汚点になってしまいませんか」
「城を失うより、捕虜になる方が恥だ」
「しかし、逃げられるでしょうか」
「迷路になっている下町は、やつらもまだ把握していないのであろう」
「はい。しかしながら、あの一帯は危険でございます」
「心配いらん。騎馬隊で走り抜ける。敵は馬を持っていないのであろう」
「はい。今のところ馬は見かけませんが、城外に潜んでいる可能性はあります」
「なに」
「城攻めに馬は不要なので、傷つけないように、城外に退避させている可能性があります」
「そうか。その可能性はあるか」
「はい。ですので、迂闊に逃げるのも危険でございます」
「ならばどうしろというのだ」
「内城に籠城してください。こんなこともあろうかと、武器と兵糧は内城に蓄えてあります」
「余が負けると思っていたと言うのか」
「いいえ、違います。バルトロメウ閣下との戦いを考慮しておりました。バサイム要塞都市の軍が攻めてきた場合は、そう簡単に決着が付くとは思えませんでしたので」
「そうか」
 嘘だな。
 余が日本兵に負ける可能性があると考えていたのだな。
 だが、実際にこんな事になってしまった。
 アルヴァロ叔父を馬鹿にしていたが、余自身がどこかで日本兵を下に見ていたのだ。
 日本兵を見直さなければ、このまま負けてしまう。
「下町の迷路を使って、日本兵の背後を取れないか」
「それは、下町の者達の協力がなければ不可能でございます」
「ならば、下町の者達を兵士に取り立てろ」
「宜しいのでございますか」
「日本兵に負けるくらいなら、原住民を優遇した方がましだ」
「分かりました。そのように取り計らいますので、閣下は内城に御逃げ下さい」
「まだだ。まだ中城で指揮を執り、日本兵を損耗させる」
「蛮族は直ぐ近くまで迫っております。閣下に万が一の事があれば、喜ぶのはヴィディゲイラ伯爵閣下でございますぞ」
「言ってくれるな」
「真実でございます」
「分かった。だが将兵の指揮は誰が取るのだ」
「経験豊富の各部隊の指揮官が、臨機応変に対応してくれます」
「余の指揮が悪かったと申すのか」
「そんな事はございません。閣下の移動中も心配ないと申したかっただけでございます」
「ちっ。上手く言い逃れるな」
「閣下。そのような些末な事を考える前に、蛮族に勝つことを御考え下さい」
「…分かった」
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