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イスパニア本格開戦

武田知信(武田信玄)

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1575年2月:蝦夷石狩城・本丸知信私室:武田知信と山本勘助

 やれやれ。
 信廉も愚かな事よ。
 信繁や信実達に妬心を抱いたのだろうが、その心根が嫌われている事を理解していない。
 まあ、心根が変えられるのなら、もっと前に変えていただろう。
 もう少し我慢すれば、息子達が大領を得たであろうに。
 我慢しきれなかったのか。
 可哀想だが、義信に異議を唱えた以上、生かしておくわけにはいかん。
 嫡男と同じ正室の腹から生まれたら、嫡流に異論を挟めると言う前例を作るわけにはいかん。
 その辺が、信繁に大きく及ばないところなのだが、理解出来ないのか。
 いや、理解出来ても、性格的に我慢できないのか。
「勘助。分かっているな」
「はい。信廉様だけですか」
「いや。今回の件に加担した者全員だ」
「それでは、暗殺した事が露見してしまいますが、宜しいのですか」
「構わん。見せしめなのだから、明らかにした方がいい」
「王太子殿下は密かに処分されましたが、反対だったのですか」
「当然だ。明らかにしなかったせいで、いらに疑念を生み、このような仕儀になったのだ」
「王太子殿下が毅然とした態度で、表立って裏切り者を処分していれば、今回の請願騒動は起きなかったと御考えなのですね」
「勘助もそう思っているのであろう」
「はい」
「義信は甘い。日ノ本を統一してから特に甘くなった」
「‥‥‥」
「そうだ。勘助のように、余を恐れ義信を敬い、余計な事を口にしないくらいの頭があればいいのだ。それを義信に慣れ、余に憚る事もなくなった一門衆は、武田家には害毒でしかない」
「はい」
「遠慮せずにやれ」
「恐れながら、名前を挙げて頂けませんか」
「慎重だな」
「陛下の深謀遠慮を全て理解しているなどど、思い上がってはおりません」
「ふむ。慎重だな。勝手に一門衆を謀殺したと言われたくないか」
「主に無断で、勝手に家臣が親族衆を謀殺出来るようになれば、それは下克上の始まりでございます。そのように家臣が思い上がる事は許されませんし、主も家臣を思い上がらせてはいけません」
「諫言しているのか」
「試すのは御止めください」
「分を弁えたよい家臣だな」
「陛下から頂いた領地を、無事に子々孫々継がしていきたいだけでござます」
「うむ」
「それで、どなたを処分するか、書付を頂けますか」
「分かった」
 義信も、家臣にこれくらい恐れられなければいかんのだが、元の性分は治せぬか。
 まあ、これだけの大帝国を築き上げた後継者に、不服を思う方がどうかしているのだが、人の欲に際限はないからな。
        
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