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鎮守府大将軍

マンツーマン

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1562年10月小田原城本丸義信私室:義信と太郎

「父上様、よろしくお願いします」

「うむ、分からぬことがあれば、その都度聞くのだぞ」

「はい」

「太郎が総大将を務める予定の樺太討伐軍は、冬の間は雪のせいで身動き取れなくなる」

「はい」

「屯田して自給自足をしようとしても、米を作ることが出来ず、補給が滞れば麦や粟、ジャガイモを主食とせねばならん」

「はい」

「何度も申し聞かせたように、武器や防具がなくても、工夫次第で戦う事も逃げることも出来るが、兵糧がなく食うことが出来ないと、戦うどころか身動きすら満足に出来なくなる」

「はい」

「だから兵を進めるk時は、必ず十二分の兵糧を用意するのだ」

「はい」

「満足な兵糧を確保できないものに、兵を指揮する資格はないのだ」

「はい」

「ではまず今蝦夷地に派遣している兵の数と駐屯地、更には駐屯地に備蓄されている兵糧と武具弾薬の数を申してみよ」

「はい、では・・・・・」

 太郎が前日覚えておくようにと渡した資料に書き記してあった数値を答える。

 たが部下が報告して来た数値を鵜呑みにすることなく、侵攻前には目付を送り、実際に報告されてる数の兵糧や武具弾薬があるか確認する癖をつけねばならない。

 いや、ただ員数が合っているだけではだめで、食用出来ないような質の悪い食料とすり替えられていたり、発火しないような役立たずの火薬と入れ替えられていないか確認する必要がある。

 もちろん不正を行って利を得るために横流しをさせないように、常日頃から目付を送るのは当然だが、大切に仕舞い込み過ぎて、使用期限を過ぎてしまう事も防がねばならない。

「実際に戦闘に及ぶのは下策であり、戦わずして勝つことが上策である」

「はい、父上様」

「では太郎が樺太を攻め取り場合に、戦わずして勝つ上策はどういうものを考えている」

「はい、父上様。まずは背後を固めるために、蝦夷地のアイヌ族の心をつかみます」

「どのようにしてアイヌの心をつかむのだ」

「父上様の奴隷購入の策により、アイヌ族はほぼ全ての奴隷を失い、戦闘力を著しく低下させております」

「うむ、それ通りだ」

「父上が購入されたアイヌ奴隷は、各地で戦い己の身を購入するだけの報奨金を得て、今では蝦夷地に屯田兵として戻り、我が拠点とする城砦を築いております」

「うむ、それに違いない」

「彼らの父上様に対する忠誠は疑うべくもなく、元々のアイヌ族を圧倒する戦力を有しており、アイヌ族の謀叛を許しません」

「うむ、それだけか」

「いえ、更に申し上げれば、元々のアイヌ族は多くの奴隷を失って戦力を失った代わりに、養わねばならない人が減った効果があります。農耕技術がアイヌ族は、食料を狩りに依存しており、奴隷が減った分鹿や鮭を狩る量が減り、食料争奪の争いが減りました。その御蔭もあり、元々のアイヌ族も父上様に親愛の情を持っております」

「うむ、それだけか」

「いえ、今迄倭人地や出羽との交易で得ていた米を、父上様の御蔭で蝦夷地内で安価に手に入れられるようになり、元アイヌ奴隷の鷹司家屯田兵との融和が広がっております」

「うむ、よく覚えたな」

「ありがとうございます、父上様」

 今太郎が答えた内容は、太郎の傅役達が考えて教え込んだものだろう。

 太郎は表面上の内容を覚えただけで、実感を持って分かっているわけではないと思う。

 それでも今の年齢なら、そこまで出来れば上出来だとも思う。

 実際蝦夷地の状況は想定以上に順調で、屯田兵達が築いた城砦の周りは開墾されており、数年後には完全に自給自足が可能になるだろう。

 今でも扶持として屯田兵に送っている玄米を、アイヌ族と物々交換を行う事で、狩りをしなくても肉や魚が手に入るので、開拓と築城に全力を注ぐことが出来ている。

 大砲による砲撃戦が主戦闘になることが分かっているので、史実では完成しなかった五稜郭様式の城砦を、蝦夷地の各地に築城している。

 同時に高台の要衝が砲撃陣地として大切なことが分かっているので、領民を守る為に平野部に築城された五稜郭型城砦と連動する山地砲台陣地も築城し、都市・城塞防衛を十分考えた都市計画を行った。

 太郎には戦よりも調略を学んで欲しいので、沿海州にある周辺部族が集まる市場での鷹司武田の浸透作戦を見学させたい。

 現在も沿海州の市場における鷹司武田の南蛮船や合の子船の重要度は、中継貿易を左右する大きなものだ。

 各部族が持ち込んだ産物を、東南アジアや明国に持ち込み高値で売れるのも、東南アジアや明国南部の産物を、今迄よりも安価に手に入れられるのも、今迄全く来ることのなかった日本の大型船が、和船の3倍の速さで往復するからだ。

 沿海を中心に、満州・樺太・アムールの経済、いや、生活に必要不可欠なまでに社会基盤を支配すれば、戦うことなく経済征服することが出来るかもしれない。

 その後で調略を仕掛けることが出来れば、合戦をすることなく部族連合国家を建国出来るかもしれない。

 だが問題はその時間をかけることが出来るかどうかだ。

 朝廷での諸侯王就任の好機に合わせなければいけない上に、コサックによるカムチャッカ占領に先んじなければならない。

 俺の記憶が間違っていなければ、今カムチャッカで平和に暮らしているアイヌ達が、ロシア帝国の先兵と言えるコサック騎兵に隷属させられ、この過酷な搾取によって族滅に近い状況になったと思う。

 ロシア帝国のカムチャッカ領有宣言は17世紀だったはずで、コサック騎兵がカムチャッカに至るのは17世紀末期だったとは思うが、この世界でも同じとは限らないし、記録に残らないコサック騎兵の侵攻があった可能性もある。

 冷徹に考えれば、コサックの搾取に困るカムチャッカアイヌを助けるのが理想のタイミングなのだが、その前に友好的にカムチャッカアイヌを併合できれば理想的だ。

 それに史実通り17世紀末期までコサックが侵攻してこないなら、出来るだけ遠くまでシベリアの西側に侵攻しておくべきだろう。

 アラスカも確保しておきたいし、台湾・フィリピン・ボルネオも確保しておきたいから、鷹司武田の全戦力をシベリアに向けることなど出来ない。

 今とっている方面軍制がもっと極端になり、今のように臨機応変に各方面軍の兵力を移動させ、1つの戦線に投入して一点突破に計るなど不可能になる。

 シベリア戦線の兵力を、短時間にフィリピン戦線に移動させるなど、絶対に不可能だ。

 最優先方面は大慶油田一帯だが、次に優先すべきところをどこにすべきか?

 現有兵力をどれくらいにまで増強することが出来るか?

 日本本土に残す予備兵力をどれくらいにして、日本のどこを優先的に開墾開発するかで、首都の場所をどこにするかが変わってくる。

 史実における天災、地震や噴火の場所や時期も考えなければいけない。

「父上様、以上の観点から早期に沿海州に侵攻すべきと考えます」

「そうか、太郎の意見は分かった。それを纏めておけ、次の軍議で謀ろう」

「はい! 有難き幸せでございます」

 これで次の軍議までに、太郎の傅役達は細部まで軍略を考え、俺の軍師や側近達の指摘に備えようとするだろう。

 特に太郎への指摘に対応するために、徹底的に太郎に全ての意図を教え込んでくれるはずだ。

 全てを俺が太郎に教えてあげることが出来ればいいが、その時間を作るのは不可能だ。

 太郎と接する時間を優先的に作ったが、残念だがそれでも足りない。

 足りない時間は九条簾中や傅役達に補ってもらうしかない。



1562年11月二条城本丸信玄私室:信玄と秋山虎繁

「誰を殺すのだ」

「御屋形様、今しばらくお待ちください」

「その今しばらくお待ちくださいと言う言葉は聞き飽きた。儂の諸侯王就任に反対する公卿を皆殺しにして、朝議で1人の反対者も出なければ、御上も院も、儂の諸侯王就任を御認めになられるであろう」

「しかしながら御屋形様、そのような事をなされれば、歴史に御屋形様の悪名が残ってしまいます」

「義信に悪名を着せるわけにはいかぬ。儂が都にいるうちに、悪事は全て済ませておかねばならぬ」

「御屋形様」

「二条摂関家を根切りにすれば、近衛も武田を恐れて反対しなくなるか? それとも近衛も二条も1度に根切にするか?」

「それはいくら何でも遣り過ぎではありませんか?」

「我が武田家が、御上や朝廷の為にどれほど戦い一族一門の血を流してきたと、身勝手な公卿共は思っているのだ」

「それは・・・・・」

「これ以上とやかく文句をつけるのなら、義信の諫言を無視して、皇室を根絶やしにすることも厭わんぞ!」

「どうかそればかりは御待ち下さい!」

「ならば今直ぐにでも諸侯王就任の件を認めさせよ」

「ならば御屋形様、五摂家の方々にここに来ていただき、腹蔵なきところを話し合っていただけませんか」

「儂に依存などないが、ここにまで来て愚かなことを申すようなら、生きて返さんがそれでいのか!」

「何としても説得して見せますから、皇室を根絶やしにするなどと言う事は、2度と口になされませんように」

「覚悟はよいのだな、ならば任せたぞ左近大夫」

「は!」



「勘助」

「はい」

「刺客の用意は出来ているか」

「はい」

「儂の名が出るのは構わんが、義信の名は出ぬようにいたせ」

「心得ております。命を助け武士に取り立てることを条件に、一向宗の狂信者どもを手懐けております」

「決行する時は、義信を沿海州に向かわせておけ。そうすれば儂に謀られ遠方にやられていたと言う事になるだろう」

「准大臣閣下と出羽大宰様と安芸大宰殿にも、遠方に行っておいて貰う方が宜しいのではありませんか?」

「適当な場所はあるか?」

「九州に上陸していただいてもいいのではありませんか」

「刺客を放つと決断した以上、九州攻めを遅らせる必要もないと言う事だな」

「御意」

「ならば諸将に、九州と沿海州を攻め取る準備をせよと伝えよ。それと九条様と三条様にだけ、近衛と二条を根切りにするので、巻き込まれないように暫くは行き来しないように伝えよ」

「近衛と二条への最後の警告でございますな」

「そうだ」

「早速手配してまいります」
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