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第一章冒険者偏

憧れ

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「ラナさん、宜しくお願いします」

「今日は私の側から離れない事。
 投擲も私の指示があるまでしない。
 常に盾を構えて敵の奇襲に備える事。
 いいね」

「はい!」

 新人少女の憧憬の籠った眼差しが痛いです。
 私はそんな眼で見て貰えるような優秀な冒険者ではないのです。
 未だに尻に殻のついたヒヨッコでしかありません。
 ドウラさんに助けられなければ、白金級の魔獣も斃せないのです。
 そんな眼で見られると穴を掘って入りたくなります。

「他の者達は自分の役目を果たしてくれ。
 今日は新人が入っているから、見られる緊張で連携が乱れるのが普通だ。
 だがそれは恥でも何でもない。
 周りに気配りができてきた証拠だ。
 自分の力を冷静に見つめられてきた証拠だ。
 フォローは私がやる。
 一つの失敗でパニックを起こすんじゃないよ」

 イヴァンとダニエルが今の言葉を聞いていたら、吹きだすでしょうね。
 丸々ドウラさんに言ってもらった言葉をパクっています。
 表情は変えないようにしていますが、内心は苦笑いです。
 今はまだ自分の言葉で話せません。
 やり方もかける言葉も誰かの借りものです。

 いつか、自分の経験と言葉で語れるようになれるのでしょうか?
 ドウラさんも若い頃には、今の私のような経験をされたのでしょうか?
 頭では理解しているのです。
 ドウラさんにも若い駆け出しの頃があったと。
 何度も死線を超えて今のドウラさんになられたのだと。

 今私に試練を与えられているのも、ドウラさんの経験による親心なのだと。
 これを乗り越えたら、また一歩ドウラさんに近づけると。
 でも心は逃げ出したい一心です。
 自分一人の命を賭けて冒険者をしていた時とは桁外れの、身震いするような緊張と、血を吐きそうにな精神的負担です。

 ドウラさんは、こんな緊張と精神的負担を背負って、ド素人の私達を三人も同時に受け入れてくださったのですね。
 いえ、今のドウラさんだからできたことでしょうね。
 全ては一歩一歩積み重ねられて、実力と経験を養われた結果ですよね。
 私も、今その一歩を踏み出しているのです。

 表情に怯えも躊躇いも浮かべてはいけません。
 どれほど不安であろうと、震えてはいけません。
 預かっている者の命が重くても、膝をつくわけにはいかないのです。
 回数を重ねるほど重くのしかかる命の重みに、恐れおののいているのを、パーティーメンバーに気づかれてはいけないのです!
 重圧に押しつぶされるわけにはいかないのです
 私はドウラさんの直弟子なのです。
 私の評判はドウラさんの評判につながるのです!
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