持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。

克全

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第一章冒険者偏

魔甲蛇

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「いいかい、絶対に捕まるじゃないよ。
 一瞬で締め潰されるからね。
 それと一飲みにされるんじゃないよ」

「ドウラさん。
 まさかとは思いますが、いきなりリントヴルムと戦わせる気なんんですか?」

「そんな強い相手と戦わせたりしないよ。
 もっとずっと弱い相手、ただの魔甲蛇さ。
 内臓の使い道は少ないけど、生血は精力剤として高値で売れるよ。
 魔甲蛇皮紙も魔術書の材料に高値で売れるから、奇麗に斃すんだよ。
 なにより鱗が大切だからね。
 あんたらの魔甲蛇鱗鎧にするから、死なないように必ず斃しな」

 ドウラさんも無理無体を言ってくれます。
 絶対に計画的です。
 魔甲蛇がいるところを探してここまで来たのです。
 冒険者ギルドの鉤竜の話のせいです。
 鉤竜を早めに斃すために、私達の成長計画を前倒ししたんです。

「ラナの考えている通りさ。
 その分ご褒美をあげるよ
 こいつさえ斃して鎧の製作料を前金で渡したら、家の借金を清算していいよ。
 後は身体強化のために適当な魔獣を斃すだけだからね。
 こいつ一体だけで六十万小銅貨の価値があるからね。
 まあ、もっとも、今回は鎧の材料にするから金にはならいけどね」

 ドウラさんの話を聞き流しながら、魔甲蛇の殺気というか、食欲というか。
 とにかく魔甲蛇の狙いを外しながら様子を伺います。
 今までも魔蛇を狩った事は幾らもあります。
 いえ、魔硬蛇と呼ばれる小型中型の硬い魔蛇も狩ったことがあります。
 ですがこいつは格が違います。
 
 いえ、格が違い過ぎます。
 全長は二十メートルくらいでしょうか。
 体重は千五百キロはあるでしょう。
 魔甲蛇と呼ばれるくらいですから、鱗の厚みも大きさも凄くあります。
 硬度自体も魔硬蛇と桁違いなのでしょう。
 確かにこいつの鱗を使った魔甲蛇鱗鎧は丈夫そうです。

 ですが問題は、ドウラさんもエマもニカも攻撃しないという事です。
 私達だけで戦えという事でしょうか?
 実戦訓練なのでしょうね。
 鉤竜と戦わせて大丈夫かどうか、魔甲蛇と戦わせて確かめるのでしょう。

「ラナ、ダニエル。
 奴が誰かを攻撃したら、他の二人が首を狙って攻撃するぞ。
 エマとニカは少しでも多くの鱗を無傷で手に入れるために、首を狙うはずだ」

「不正解だよ。
 口から狙って脳を破壊するよ。
 ただ脳を破壊しても直ぐに死ななからね。
 油断するんじゃないよ。
 そいつの一番金になるのは鱗だ。
 次に生血と生肝と皮だ、肉はその下だからね。
 暴れて肉に血が回って臭くなろうと、鱗と皮を優先するんだよ」

 なるほどよくわかりました。
 私達は魔獣を狩って素材を売って生活するのです。
 一番高値で売れる狩り方をする必要があります。
 ですが難しい事を言ってくれます。

 でも、これがドウラさんの優しさでもあります。
 エマとニカを成長させるためだけなら、私達に囮だけさせて、さっさと魔甲蛇を狩ればいいのです。
 それを一太刀でもあびさせて、私達も成長できるようにしてくれます。
 魔甲蛇に最低一太刀あたえて、ドウラさんの優しさに応えないと!
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