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第一章

第21話:愛憎

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 サラの家族は話し合ったが、少々見苦しい内容だった。
 僕は他人だから、お爺さんと父親、サラたちの愛憎は分からない。

 ただ、サラが内心の苦しみを押し殺して弟妹を助けようとしているのだけは分かったから、助けになる口出しをした。

 僕が言い切る事で、両親組と祖父母孫組の2つに分けようとしたのだが、父親が泣いて縋りついて大変だった。

 親子の愛情を盾に、両親や孫に縋りつく大人の何と醜い事か。
 あんな父親にだけは絶対になりたくないと強く思った。

 前世と合わせて通算103年の人生経験はあるが、結婚した事も親になった事もないので、強く自分を戒めないと、サラの父親と同じ事をしてしまうかもしれない。

 1度は厳しく突き放したお爺さんとサラも、泣いて縋る情けない男には、厳しく言い続けるのが難しかったようだ。

 血のつながりと言うのは良くも悪くも法も論も超えてしまう。
 特に幼い子供を味方につけられると始末が悪い。
 下の2人がお母さん恋しさに泣き出すと、どうにもできない。

 1度は僕が強制的に決めさせたが、クズ父親のせいで振出しに戻ってしまった。
 結局、下の子供2人は両親と一緒に逃げさせないといけなくなった。
 小さな子供の不安と恐怖心を利用した、姑息な両親の勝ちだった。

 だが、お爺さんとお婆さんも情に流されてばかりではいなかった。
 教会から1番狙われているサラだけは、愚かな両親から離した方が良いと思ったのだろう、2組は全く逆の方向に逃げる事になった。

 錬金術師を信じられないと言った両親と下の子供2人は、150頭の家畜を連れて、最短距離の西街道を使ってフロスティア帝国に逃げる事になった。

 お爺さんとお婆さん、サラと上の弟ノアは、錬金術師の伝手を使って最初は東街道を進み、ミロノで北街道の道を変え、大魔山を越えてクロリング王国に逃げる。

 この組も150頭の家畜を連れて行くが、家畜にはこだわらす、臨機応変に扱い、家族4人の安全と命を優先する事になった。

 なったはずだった、3日前に両親組が冬家を出て行き、昨日サラ組が冬家を出て行ったはずなのだが……

「エッへへへへ、残っちゃった」

 夏家で残った家畜の世話をしている僕の所に、サラがやって来た!
 出て行ったふりをして1度冬家までおりてから夏家に戻ってきたのだ。

「残ったって、何をしているんだ?!」

「家族全員を助けてくれた、命の恩人を1人残せないよ。
 ああ、大丈夫、夜中にこっそり帰って来たから、村の人たちにはバレてないよ。
 谷に残っている人たちは、昨日出て行ったと思っているよ」

「谷に残っているお年寄りや幼い子供たちは騙せても、山に来ている大人たちは騙せない、姿を見られたら直ぐに教会に通報されるぞ!」

「大丈夫、その時はユウジが守ってくれるんでしょう?
 お爺さんが、自分たちと一緒に行くよりも、ユウジと一緒にいた方が安全だと言っていたよ」

「……違うと言い切れない所が辛いな、だが、本当に良いのか?
 若い男と女が、他に誰もいない家で暮らすんだ、覚悟はできているのか?」

「えええええ、ユウジてそんな人間だったの?
 天与儀式も受けていない子供に手を出すような人間だったの?!」

「からかうのは止めろ、分かった、分かりました、好きにすればいい」

「えへへへへ、そう言ってくれると思っていたよ」

 確かに、お爺さんたちと錬金術師の伝手を使って逃げるよりも、僕と一緒にいた方が安全だろう。

 これから現れるのは、地方の教会が送ってくる連中だ。
 6人で失敗したから、10人以上30人までの腐れ外道を送って来るはずだ。
 単なる暴力自慢なら、30人でも僕1人で殺せる。

 ただ、次の30人を皆殺しにしたら、3度目は腕の立つ聖堂騎士か傭兵を送り込んで来るはずだ。

 教会領を中心に、周辺を支配しようとしているのなら、見せしめとして、逆らう人間は徹底的に潰さないといけないからな。

 50人から100人の聖堂騎士や傭兵が相手だと、盗賊王スキルを使わないと皆殺しにはできない。

 そえに、受け身でいたら、不利な場所で迎撃しなければいけない。
 確実に勝つためには、こちらが有利な場所で戦うようにしないといけない。
 100人まではここでも良いが、何時でも逃げられるようにしておこう。

「サラ、もし家畜を隠すとしたら、どこが良い?
 厳しい冬の間、家畜だけで生き延びられる場所があれば教えてくれ」

「う~ん、そんな都合の良い場所はないよ、あったら村で使っているよ」

「そうか、おかしな事を聞いたな、忘れてくれ」

「家畜を残して逃げるのなら、村の人に預けて行けば良いんじゃない?」

「貴方たちを売った村の連中を信じるのか?」

「売られたのは哀しいけれど、教会には逆らえないからね。
 私だって両親やノアたちを守るためなら、他人を売ったかもしれないもん」

「サラなら絶対にそんな事はないと断言するが、一時的に家畜を村人に預けるのは賛成だ、無事に戻れたら返してもらえるし、売ろうとしても買ってくれないからな」

「何で買ってくれないの?」

「僕たちから買った家畜だと、教会から難癖をつけられるからだ。
 まず間違いなく没収されて、買ったお金を丸損する」

「ああ、そっか、確かに、教会ならやりそうだね」

 本当に教会は堕落しているな、早めに教皇を殺して、フロスティア帝国の枢機卿を中心に立て直した方が良いか? 
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