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第一章

第15話:応急措置

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 昏倒した腐れ外道から1番下の子を助け出してしっかりと抱きしめた。
 僕の心音が聞こえるようの、頭が左胸に来るように抱きしめた。
 母親の心音とは違うので、効果の確証はないが、やれる事は何でもやる。

「うっわぁ~ん」

 空いている脚で昏倒している腐れ外道の頭を蹴る。
 確実に首の骨が折れる強さと角度で蹴る。
 ひと見ただけで、首の骨が折れたと分かる角度に曲がっている。

「うっわぁ~ん」
「大丈夫、もう大丈夫、悪い奴は兄ちゃんが退治してやったぞ」

 子供をなだめながら、お婆さんの状態を確認する。
 左手で子供を抱いているから、右手で頚動脈に触れる。
 弱々しくて浅いが、まだ脈がある!

 だが、正常ではない、何か問題があるのは間違いない。
 子供を放り出す訳にはいかないが、お婆さんも一刻一秒を争う。

 気を失っているお婆さんから症状は聞けない。
 無理矢理起こしたら一気に状態が悪くなる可能性がある。
 声で診断する聞診も、患者さんから直接症状を聞く問診は諦める。

 見た目の状態を自分の目で確かめる望診と触って確かめる切診だけで何とかする。
 子供を左手で抱いた状態、右手だけで素早くお婆さんの状態を確かめる。

 くっ、痣が有るかだけでも確認できたら分かりやすいのだが!
 裸にできないから、打撲部分の発赤すら確認できない。
 頭蓋骨に陥没がないのだけは確認できた。
 
 だが、浮腫、たんこぶが出来かけているから、頭を打たれたのだけは確実だ。
 問題は頭蓋骨内の出血、脳内出血があるかどうかだ!
 後は……もし胸部や腹部を強打されていて、大動脈瘤が破裂していないかだ。

 レントゲンも超音波もないのに、体の内部をどうやって確認する?
 魔力を流してお婆さんの身体を診察できないだろうか?
 病気は分からなくてもいい、内出血している場所が分かればいい。

 もし分かったら、その部分の血を盗賊王スキルで盗めばいい。
 盗んだ血を返せればいいのだが、そこまで望むのは欲張り過ぎだな。
 スリに盗まれた財布を持ち主に返す元スリなんて、小説の中にしかいない。

 多くの事を考えながら、同時にやれる事もやっている。
 他人の身体から欲しいモノを奪えるのだから、僕の魔力が他人の身体の中に入り込んでいるのは間違いない。

 それをスキルを使わずに普通にできるか心配だったが、できてしまった。
 結構抵抗があって、ある意味力尽くで押し込む形になったが、やれてしまった。
 他人の身体に自分の魔力を押し込めるなら、やりたい放題だな。

 片手だけでも脈診できればと思って、倒れているお婆さんの左側に立ち、右手でお婆さん左手首を確認していた。

 そのまま強引に動脈に魔力を流して、何となくだけど、お婆さんの血の流れが確認できるのが不思議だ。

 うろ覚えだが、人間の動脈と静脈の位置は分かっている。
 血栓ができている場合は、血管が狭くなっているかどうかもわかりそうだ。

 まあ、この時代の平民に贅沢ができるはずもなく、飽食による血栓はない。
 だが、塩分摂取過多による動脈硬化からの動脈瘤はありえる。

 うろ覚えでは心配なので、自分の血管の流れを確かめて比較する。
 食べたエネルギーを魔力に変換したり、逆に魔力をエネルギーに変換したり、色々確かめた時に、魔力を流す事で自分を知れるのは分かっていた。

 何となくだけど、絶対とは言い切れないが、お婆さんの血が頭の一部に溜まっている気がする。

 脳内出血、被殻出血、視床出血、脳幹出血、小脳出血、皮質下出血だと命に係わるし、助かったとしても後遺症が酷い。

 脳の中ではなく外側、脳を守る硬膜の外側に出血する硬膜外出血と、脳を守る硬膜と脳の間に出血する硬膜下出血なら、直ぐに命にはかかわらない。

 脳自体が傷つけられてしまった脳挫傷だと、僕にはどうしようもない。
 盗賊王スキルで盗める盗めないの問題ではなくなる。

 後は、くも膜下出血だな、頭部を強く叩かれた場合、脳の外側、硬膜の内側にあるくも膜の中に出血する場合がある。

 硬膜外出血、硬膜下出血、くも膜下出血なら、出血さえ盗めれば大丈夫だ。
 魔力の感じでは、脳と髄膜の間の出血だと思う。

 三層構造の髄膜で、硬膜なのか、くも膜なのか、軟膜なのかまでは分からないが、今のところ脳内には出血がないと思う。

 じわじわ出血してしまうケースもあるから、しばらくは注意深く見守らないといけないが、今は脳と髄膜の間に溜まっている血を盗めばいい。

 残る問題は、出血が止まるまで盗み続けたら、血液が不足してしまう事だ。
 髄膜内だから、脳を外側から圧迫する心配はあるが、大量出血の心配は少ない。
 血管が修復されてから血を盗んだ方が良いのかな?

「お婆さんのケガをもっとよく見たいから、ちょっと下りてね」

「うっわぁ~ん」

「僕の脚に抱き着いていてね」

 可哀想だが、子供を下ろして脚に抱きつかせる。
 放り出す事はできないが、左手が使えないと確かめられない。
 左手でお婆さんの右手首に触れる。

 大丈夫、少なくとも僕が出会った事のある死脈ではない。
 弱くて浅いが、あの嫌な脈とは違う!

 僕が確かめたいのは、右手で盗んだ血液をそのまま左手で返せるかどうかだ。
 現実のスリなら絶対にやらない、小説のスリ技を再現できるかだ。

 僕の記憶が確かなら、盗賊の神はヘルメースだけだった。
 ヘルメースは多才で、錬金術や医学、液体の神でもあった。
 医学と液体の神で、狡知と詐術と計略の神なら、血を盗んで返す事くらいやってみせろや!
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