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「タルボット伯爵家を謀反の罪は明らかだ。
 許すことも減刑することもできん。
 だがどうしても無罪を主張する以上、真意を確かめなければならない。
 よって鳥刑とする。
 婚約者だったジューリアも同罪だ。
 情けはいらぬ、断じて行え!」

「はっ!」

 突然でした。
 こんなことになるとは思ってもいませんでした。
 決して自分から望んだ婚約ではありませんでしたが、神託で選ばれた以上、ジュセッペ王太子殿下に相応しい妻になろうと努力してきました。
 それがこんな裏切りにあうとは……

 最初は根も葉もない噂だと思っていました。
 王太子殿下が、いえ、王家が神託を蔑ろにするはずがないと思っていましたから。
 でも、あの時に噂の真意を確かめ、的確に対応していれば、ここまで最悪の状況にはならなかったのでしょう。
 私やタルボット伯爵家が王太子殿下との婚約を辞退していれば、極刑に処せられることはなかったのかもしれません。

 王太子殿下とヘイスティング侯爵家令嬢アンナ様の不義密通の噂は、日増しに強くなりました。
 しかし直ぐにそれを打ち消すように、我がタルボット伯爵家が謀反を企んでいるという噂が流れだし、不義密通の噂を覆い隠してしまいました。

 この時点で私やタルボット伯爵家が婚約を辞退していれば、もしかしたら助かっていたかもしれません。
 ですがタルボット伯爵家は教会とも関係が深く、神託を蔑ろにできなかったですし、王太子殿下や王家も神託を蔑ろにはしないと信じてしまっていました。

 いえ、蔑ろにはしなかったのですね。
 愛する女性が現れたからと神託の婚約を破棄すれば、神を蔑ろにすると考えたのかもしれません。
 いえ、そんな殊勝な考えではないですね。
 神や教会を信じる貴族や庶民を統治するうえで弊害になるから、タルボット伯爵家を陥れて私を殺そうとしたのでしょう。

 卑怯です。
 あまりにも悪辣非道です。
 正直に好きな女性が現れたから婚約を破棄するといえばいいのです。
 それを冤罪で処分しようなんて、人の道に反します。

 ヘイスティング侯爵が絵図を書いたのかもしれません。
 冷酷非情で欲深いと評判の方ですから。
 アンナ様も父親に似て冷酷非情で欲深い方で、アンナ様に睨まれて社交界で虐められ、精神を病んだ男爵令嬢や子爵令嬢が思い出されます。

 それにしても、鳥刑とは酷過ぎます。
 無罪なら鳥は襲わないという建前ですが、そんなはずがないのです。
 普段死者を鳥に食べさせている場所に縛り付けられたら、鳥に喰い殺されるのは当然ではありませんか。
 それを神意だといって刑罰に取り入れるなんて、神様を貶めるにもほどがあります!
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