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第二章
第56話:天秤
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皇紀2220年・王歴222年・初冬・皇居・12歳
「シャーロット、わたくしが何か手を打った方がいいのですか」
「いいえ、ミア皇女殿下に危険な事をしていただく必要はありません。
ハリー様が全ての手筈を整えてくださいます」
「まあ、ハリー様が直々にやってくださるのですか、どのような事をしてくださるのか、教えてくれませんか」
「皇帝陛下に何かしようというわけではありません。
臣下の分際で、皇帝陛下のなさりたい事の邪魔する事はありません。
ただ、代々の皇帝陛下が護ってこられた書物や宝物を、野蛮な者共の略奪させるわけにも、戦火で焼失させるわけにもいかないのです。
そうハリー様は申しておられました」
「それでは、ハリー様が皇居を護ってくださるのですね」
「はい、皇帝陛下の家臣ではなく、ミア皇女殿下やベンジャミン皇子殿下の兵士として、最後まで皇居を御守りすると言われておられました」
「ですがそれでは、皇族同士が戦う事になるのではありませんか」
「最悪の場合はそのような事態に陥るかもしれません。
しかしながら、ハリー様はそのような事にならないように、策を講じられておられますから、ご安心ください」
「その策を話してはくれませんか。
ハリー様を信じていない訳ではありません、皇帝の方を信じられないのです。
今まで自分が口にした事、やってきた事を棚に上げて、わたくしの言動を逆恨みして、この国に戦火を広げるのかもしれないと不安なのです」
「分かりました、そう言う事でしたら、お教えさせていただきます。
ハリー様は皇帝陛下に幾つかの選択肢を与えられました。
その一つが、ミア皇女殿下に謝罪して離宮にやって来る道でございます」
「え、ここですか、ここに主上が逃げて来るのですか」
「はい、皇帝陛下の事ですから、自分の言動を直ぐに忘れられて、ミア皇女殿下に頭を下げて逃げて来る可能性は高いと思われます」
「そうですね、主上の事ですから、あり得る話ですね」
「もう一つの方法は、ヴィンセント子爵邸に逃げ込む事でございます」
「え、伯父上の所に逃げ込むのですか。
先ほどシャーロット自身が、ヴィンセント子爵家から皇家への支援は無くなったと聞いたはずですが」
「はい、確かに申しました。
しかしそれはヴィンセント子爵家から皇家への支援でございます。
皇帝陛下がヴィンセント子爵家に逃げ込むのとは全く意味が違います」
なるほど、そう言う事ですか。
ヴィンセント子爵家が内々に皇帝に支援するのではなく、皇帝がヴィンセント子爵家に逃げ込む事で、皇帝の情けなさを天下に明らかにするのですね。
「もう一つが、ハリー様の所に行幸される事でございます」
追い込まれた皇帝が首都を放棄して他領に逃げ出す事を、言葉を飾って行幸と言っているのでしょうが、これも天下にハリー様の実力を明らかにできますね。
わたくしとしては、ハリー様の領地に行幸されるのが一番なのですが、流石に皇帝もハリー様の領地には行幸しないでしょうね。
「万が一、カンリフが無理矢理行幸をさせようとするなら、天下分け目の戦が勃発する事になるでしょうが、既に首都の民の大半は離宮に避難しております。
ハリー様も民の事を気にされることなく決戦を挑む事ができます」
ハリー様の実力が天下に轟くのですね。
ハリー様が本気になられたら、天下の天秤はハリー様に傾く事でしょう。
「シャーロット、わたくしが何か手を打った方がいいのですか」
「いいえ、ミア皇女殿下に危険な事をしていただく必要はありません。
ハリー様が全ての手筈を整えてくださいます」
「まあ、ハリー様が直々にやってくださるのですか、どのような事をしてくださるのか、教えてくれませんか」
「皇帝陛下に何かしようというわけではありません。
臣下の分際で、皇帝陛下のなさりたい事の邪魔する事はありません。
ただ、代々の皇帝陛下が護ってこられた書物や宝物を、野蛮な者共の略奪させるわけにも、戦火で焼失させるわけにもいかないのです。
そうハリー様は申しておられました」
「それでは、ハリー様が皇居を護ってくださるのですね」
「はい、皇帝陛下の家臣ではなく、ミア皇女殿下やベンジャミン皇子殿下の兵士として、最後まで皇居を御守りすると言われておられました」
「ですがそれでは、皇族同士が戦う事になるのではありませんか」
「最悪の場合はそのような事態に陥るかもしれません。
しかしながら、ハリー様はそのような事にならないように、策を講じられておられますから、ご安心ください」
「その策を話してはくれませんか。
ハリー様を信じていない訳ではありません、皇帝の方を信じられないのです。
今まで自分が口にした事、やってきた事を棚に上げて、わたくしの言動を逆恨みして、この国に戦火を広げるのかもしれないと不安なのです」
「分かりました、そう言う事でしたら、お教えさせていただきます。
ハリー様は皇帝陛下に幾つかの選択肢を与えられました。
その一つが、ミア皇女殿下に謝罪して離宮にやって来る道でございます」
「え、ここですか、ここに主上が逃げて来るのですか」
「はい、皇帝陛下の事ですから、自分の言動を直ぐに忘れられて、ミア皇女殿下に頭を下げて逃げて来る可能性は高いと思われます」
「そうですね、主上の事ですから、あり得る話ですね」
「もう一つの方法は、ヴィンセント子爵邸に逃げ込む事でございます」
「え、伯父上の所に逃げ込むのですか。
先ほどシャーロット自身が、ヴィンセント子爵家から皇家への支援は無くなったと聞いたはずですが」
「はい、確かに申しました。
しかしそれはヴィンセント子爵家から皇家への支援でございます。
皇帝陛下がヴィンセント子爵家に逃げ込むのとは全く意味が違います」
なるほど、そう言う事ですか。
ヴィンセント子爵家が内々に皇帝に支援するのではなく、皇帝がヴィンセント子爵家に逃げ込む事で、皇帝の情けなさを天下に明らかにするのですね。
「もう一つが、ハリー様の所に行幸される事でございます」
追い込まれた皇帝が首都を放棄して他領に逃げ出す事を、言葉を飾って行幸と言っているのでしょうが、これも天下にハリー様の実力を明らかにできますね。
わたくしとしては、ハリー様の領地に行幸されるのが一番なのですが、流石に皇帝もハリー様の領地には行幸しないでしょうね。
「万が一、カンリフが無理矢理行幸をさせようとするなら、天下分け目の戦が勃発する事になるでしょうが、既に首都の民の大半は離宮に避難しております。
ハリー様も民の事を気にされることなく決戦を挑む事ができます」
ハリー様の実力が天下に轟くのですね。
ハリー様が本気になられたら、天下の天秤はハリー様に傾く事でしょう。
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