皇女激愛戦記

第二章

第48話：第二王子

　皇紀２２１９年・王歴２２１年・初冬・皇居・１１歳

「オンギャア、オンギャア、オンギャア、オンギャア」

「まあ、おめでとうございます、ミア皇女殿下、ソフィア様。
　ご立派な男の子でございますよ」

　母上様は男の子をお産みになられました。
　皇族としては、皇帝の跡を継げる男子が二人になったのは、とても喜ばしい事なのですが、新たに生まれた同母弟と異母弟のベンジャミンの間で、皇位継承争いが勃発しないかとても心配です。
　皇家や王家がこれだけ没落したのも、兄弟や叔父甥間で激しい後継者争いがあったからなのです。

　一番嫌なのが、わたくしやハリー様に阿る者が先走って、ベンジャミンを亡き者にしようとする事です。
　ベンジャミンを傀儡にして、権力も財力もない皇家や皇国の実権を手に入れようとする愚か者は、同じように同母弟を亡き者にしようとする事です。
　まだ八歳でしかないベンジャミンには実感はないのでしょうが、それでも周りの雰囲気が変わった事を本能的に察しているのか、不安そうな表情をする事があります。

「ミア皇女殿下、何の心配もいりません、ご安心ください。
　ハリー様は親兄弟で争うような不幸を極端に嫌われます。
　どれほど愚かで臆病な方であると、尊き方を弑い奉るような事はございません。
　幾ら血の繋がった方であろうと、兄を押しのけて尊き位に押し上げはしません。
　新たな公爵家を立てるお手伝いをされるだけでございます」

　シャーロットが断言してくれたことで、ようやく安心する事ができました。
　母上様も弟に乳をあげながら安堵の表情浮かべておられます。
　母上様には野心などなく、弟が無事に育ってくれる事だけを願っているのです。
　図書宮と宝物宮で手に入れた知識と魔術があるので、弟が今までのように簡単に夭折するような事はないでしょうが、毒殺や呪殺は別です。
　皇位継承争いなど起こってしまったら、何が起こるか分からないのです。

「ミア皇女殿下、ベンジャミン王子殿下を皇子に立てられて、支える事を公に見せつけるようにいたしましょう。
　そうすれば、親兄弟に亀裂を生み、利を得ようとする者を排除する事ができます。
　特にカンリフに奸計を仕掛ける隙を与えてはいけません。
　天下にミア皇女殿下とソフィア様の信義を知らしめるのです。
　それが新たな力となり、ア皇女殿下の御料地を護る事にもつながるのです」

「それがハリー様の願いなのですね」

「はい、これがハリー様の願いでございます」

　ありがたい事です、これで歴史に悪名を残さずにすみます。
　憶病で無情で恩知らずで、殺してやろうかと思った事も度々ありましたが、それでも本当に皇帝である父を殺してしまったら、後世で悪女と罵られた事でしょう。
　異母弟のベンジャミンも同じで、殺しても廃嫡にしても、後世で悪女と罵られる事になったでしょう。

　ですが父と異母弟を立てて、同母弟を公爵にすれば、わたくしも母上様も、後世で信義を護った母子と褒め称えられます。
　わたくしと母上様を信じてベンジャミンを預けてくれた、アメリア殿を裏切らずにすみます。
　本当にハリー様には助けられてばかりです。
　ハリー様には欲というか、野望はないのでしょうか。