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第二章
第38話:開戦
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皇紀2218年・王歴220年・初冬・皇居・10歳
「ミア、ミア、何所だミア、何所にいるのだミア」
また臆病な皇帝が騒いでいます、情けない。
ハリー様が私のために派遣してくださった侍女達が呆れているではありませんか。
全く表情を変える事はありませんが、わたくしには分かります。
皇帝の余りにも情けない本性に、呆れるどころか見切ってしまっている事を。
ハリー様の指示を受けてくれていますから、わたくしや母上を見捨てる事はありませんが、皇帝は危機に陥っても助けたりはしないでしょう。
わたくしも助けて欲しいとは思っていません。
「何事でございますか、皇帝陛下。
余りに情けなく騒がれますと、皇帝の威厳を損なってしまいますわ」
「うっ、くっ、そのよう事、言われなくても分かっておるわ。
だが、今回は騒がずにはおられない大事を、そなたがしでかしたのではないか」
「はて、わたくしが何かしたと申されるのですか。
とんと覚えがないのですが、お教えいただけますでしょうか」
「えええええい、とぼけるでない。
そなた、全国の貴族や騎士に、カンリフ討伐命令を送ったではないか」
「ああ、その事でございますか、それなら確かに覚えがございます」
「そなた、皇家を滅ぼす心算か。
王家を首都から追い出した、この国一番の権力者を敵に回したのだぞ。
カンリフが家臣の首を刎ねて詫びを申してきたのを無碍にしたのだぞ」
「はて、何時カンリフが皇家に詫びを申してきたと言われるのですか。
血塗れの家臣の首を持って皇居に押し入ろうとして、余りの恐ろしさに、皇帝陛下が震えて泣き言をいうほど脅かしてきたではありませんか。
その事を正確に全国の貴族と騎士に伝え、以前出したカンリフ討伐命令に従わない者は、カンリフ同様わたくしに対する謀叛人だと言って、再度討伐を命じただけ。
震えて泣き言を言っておられた皇帝陛下に非難されるいわれはありませんわ」
「ミア、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか。
お前の身勝手な命令の所為で、皇家が滅ぶかもしれないのだぞ。
カンリフが軍勢を率いて皇居に攻め込んで来たらどうするのだ」
「簡単な事ではありませんか、迎え討ってカンリフの首を斬り飛ばすだけですわ。
十八頭もの竜を狩ったわたくしから見れば、カンリフの軍勢など羽虫も同然。
幾万の軍が押し寄せようと、恐れる必要などありません。
それに、全ての領地を四方から襲われたカンリフに、皇居に軍勢を派遣する余裕などありませんわ」
「……ミア、何故お前がそのような事を知っているのだ」
「皇帝陛下と違って、わたくしには命を懸けて仕えてくれる者達が沢山おりますの。
この程度の情報、直ぐに手に入るのです」
「……本当に大丈夫なのだな、皇居が攻撃されることはないのだな、皇家が滅ぶことはないのだな」
わたくしと母上様は大丈夫ですが、皇帝陛下がどうなるは分かりません。
皇居が攻撃されないとも言い切れませんわ。
全てはハリー様のお気持ち次第なのですから。
でも、そのような事を御姉様を地獄に突き落とした皇帝に教える気はありません。
「ご安心くださいませ、皇帝陛下、皇家が滅ぶ事はありません。
それに、首都地方にいる三千程度の老弱兵など、わたくしの手勢やペットの手を借りなくても、ヴィンセント子爵家の手勢だけで全滅させられますわ」
「ミア、ミア、何所だミア、何所にいるのだミア」
また臆病な皇帝が騒いでいます、情けない。
ハリー様が私のために派遣してくださった侍女達が呆れているではありませんか。
全く表情を変える事はありませんが、わたくしには分かります。
皇帝の余りにも情けない本性に、呆れるどころか見切ってしまっている事を。
ハリー様の指示を受けてくれていますから、わたくしや母上を見捨てる事はありませんが、皇帝は危機に陥っても助けたりはしないでしょう。
わたくしも助けて欲しいとは思っていません。
「何事でございますか、皇帝陛下。
余りに情けなく騒がれますと、皇帝の威厳を損なってしまいますわ」
「うっ、くっ、そのよう事、言われなくても分かっておるわ。
だが、今回は騒がずにはおられない大事を、そなたがしでかしたのではないか」
「はて、わたくしが何かしたと申されるのですか。
とんと覚えがないのですが、お教えいただけますでしょうか」
「えええええい、とぼけるでない。
そなた、全国の貴族や騎士に、カンリフ討伐命令を送ったではないか」
「ああ、その事でございますか、それなら確かに覚えがございます」
「そなた、皇家を滅ぼす心算か。
王家を首都から追い出した、この国一番の権力者を敵に回したのだぞ。
カンリフが家臣の首を刎ねて詫びを申してきたのを無碍にしたのだぞ」
「はて、何時カンリフが皇家に詫びを申してきたと言われるのですか。
血塗れの家臣の首を持って皇居に押し入ろうとして、余りの恐ろしさに、皇帝陛下が震えて泣き言をいうほど脅かしてきたではありませんか。
その事を正確に全国の貴族と騎士に伝え、以前出したカンリフ討伐命令に従わない者は、カンリフ同様わたくしに対する謀叛人だと言って、再度討伐を命じただけ。
震えて泣き言を言っておられた皇帝陛下に非難されるいわれはありませんわ」
「ミア、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか。
お前の身勝手な命令の所為で、皇家が滅ぶかもしれないのだぞ。
カンリフが軍勢を率いて皇居に攻め込んで来たらどうするのだ」
「簡単な事ではありませんか、迎え討ってカンリフの首を斬り飛ばすだけですわ。
十八頭もの竜を狩ったわたくしから見れば、カンリフの軍勢など羽虫も同然。
幾万の軍が押し寄せようと、恐れる必要などありません。
それに、全ての領地を四方から襲われたカンリフに、皇居に軍勢を派遣する余裕などありませんわ」
「……ミア、何故お前がそのような事を知っているのだ」
「皇帝陛下と違って、わたくしには命を懸けて仕えてくれる者達が沢山おりますの。
この程度の情報、直ぐに手に入るのです」
「……本当に大丈夫なのだな、皇居が攻撃されることはないのだな、皇家が滅ぶことはないのだな」
わたくしと母上様は大丈夫ですが、皇帝陛下がどうなるは分かりません。
皇居が攻撃されないとも言い切れませんわ。
全てはハリー様のお気持ち次第なのですから。
でも、そのような事を御姉様を地獄に突き落とした皇帝に教える気はありません。
「ご安心くださいませ、皇帝陛下、皇家が滅ぶ事はありません。
それに、首都地方にいる三千程度の老弱兵など、わたくしの手勢やペットの手を借りなくても、ヴィンセント子爵家の手勢だけで全滅させられますわ」
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