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第二章
第31話:魔狼
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皇紀2218年・王歴220年・秋・北山奥地の魔境・10歳
「「「「「ウギャァアアアアオ」」」」」
「「「「「ソイルボール」」」」」
「「「「「ぐっ」」」」」
「きやがれ、蜥蜴野郎」
「王女殿下の御前に行きたけりゃ、先に俺達を喰って行きやがれ」
襲い掛かって来る鉤竜達に向かって、戦闘侍女達が魔力切れで昏倒する事も厭はずに、最後の魔力を振り絞ってくれました。
ですがその代償はとても大きく、戦闘侍女達は次々と倒れ伏してしまいました。
その戦闘侍女達を庇うように、兵士達が身を挺して盾をなってくれます。
情けない事に、わたくしには、その忠誠心に報いる力がありません。
「「「「「ウォオオオオオン」」」」」
死を覚悟していたわたくしたちの前に、狼の群れが現れました。
狼の群れなのですよね、別の動物ではないですよね。
わたくしの知っている狼は、灰色か茶色い毛並みなのです。
ですが今目の前にいる狼に見える獣は、赤や青、緑や黄といった鮮やかな毛並みをしていて、体もとても大きいのです。
「「「「「ウギャァフ」」」」」
「「「「「ウォオン」」」」」
たかだか狼でしかない獣が、恐れも見せずに鉤竜達に向かっていきます。
わたくしや戦闘侍女達の魔術が全く通用しなかった鉤竜達に対して、果敢な攻撃を繰り返しているのですから、とても信じられません。
しかも、多少なりとも攻撃に効果が表れているのですから、驚きです。
あの強靭だった鉤竜の鱗を牙で突き破り、流血させているのです。
鉤竜達が一方的に攻撃され、苦痛の声をあげています。
一方の狼達は、勇ましい声をあげながら攻撃を続けています。
「クオン」
全く気配を感じさせることなく、ひと際大きく、引き込まれそうになるくらい美しい漆黒の毛並みをした狼が、シャーロットに話しかけています。
おかしなことを言っているのは自分でも分かっているのです。
見た事も聞いた事もない野生の狼の群れが、人間を助けてくれただけでなく、倒れている人間を襲うことなく話しかけていると言っているのですから。
「味方です、援軍が来てくれました」
「この狼は味方です、ハリー様の使い魔なのです」
「もう大丈夫です、鉤竜などには負けません」
何とかその場に立っていた戦闘侍女達が、歓喜の表情を浮かべて説明してくれましたが、なかなか言っている意味が腑に落ちません。
何故、急に、ハリー殿の応援がここに現れるのですか。
どうやってわたくし達の危機を知ったというのですか。
危機を知ったとしても、直ぐこの場に使い魔を送って来られるとは思えません。
もしかしたら、ハリー殿は常にわたくしの側にいるのでしょうか。
「まだだ、まだ安心するのは早いぞ。
キッチリと鉤竜共を斃して、天下に我らの武勇を示すのだ。
ハリー様から新たな魔宝石と魔法陣をいただいた。
それをもってすれば、鉤竜共など恐れるに足りない。
お前達には私が狩った鉤竜共を担いで皇都に凱旋してもらう。
気合を入れて立ち上がれ」
「「「「「おう」」」」」
「「「「「ウギャァアアアアオ」」」」」
「「「「「ソイルボール」」」」」
「「「「「ぐっ」」」」」
「きやがれ、蜥蜴野郎」
「王女殿下の御前に行きたけりゃ、先に俺達を喰って行きやがれ」
襲い掛かって来る鉤竜達に向かって、戦闘侍女達が魔力切れで昏倒する事も厭はずに、最後の魔力を振り絞ってくれました。
ですがその代償はとても大きく、戦闘侍女達は次々と倒れ伏してしまいました。
その戦闘侍女達を庇うように、兵士達が身を挺して盾をなってくれます。
情けない事に、わたくしには、その忠誠心に報いる力がありません。
「「「「「ウォオオオオオン」」」」」
死を覚悟していたわたくしたちの前に、狼の群れが現れました。
狼の群れなのですよね、別の動物ではないですよね。
わたくしの知っている狼は、灰色か茶色い毛並みなのです。
ですが今目の前にいる狼に見える獣は、赤や青、緑や黄といった鮮やかな毛並みをしていて、体もとても大きいのです。
「「「「「ウギャァフ」」」」」
「「「「「ウォオン」」」」」
たかだか狼でしかない獣が、恐れも見せずに鉤竜達に向かっていきます。
わたくしや戦闘侍女達の魔術が全く通用しなかった鉤竜達に対して、果敢な攻撃を繰り返しているのですから、とても信じられません。
しかも、多少なりとも攻撃に効果が表れているのですから、驚きです。
あの強靭だった鉤竜の鱗を牙で突き破り、流血させているのです。
鉤竜達が一方的に攻撃され、苦痛の声をあげています。
一方の狼達は、勇ましい声をあげながら攻撃を続けています。
「クオン」
全く気配を感じさせることなく、ひと際大きく、引き込まれそうになるくらい美しい漆黒の毛並みをした狼が、シャーロットに話しかけています。
おかしなことを言っているのは自分でも分かっているのです。
見た事も聞いた事もない野生の狼の群れが、人間を助けてくれただけでなく、倒れている人間を襲うことなく話しかけていると言っているのですから。
「味方です、援軍が来てくれました」
「この狼は味方です、ハリー様の使い魔なのです」
「もう大丈夫です、鉤竜などには負けません」
何とかその場に立っていた戦闘侍女達が、歓喜の表情を浮かべて説明してくれましたが、なかなか言っている意味が腑に落ちません。
何故、急に、ハリー殿の応援がここに現れるのですか。
どうやってわたくし達の危機を知ったというのですか。
危機を知ったとしても、直ぐこの場に使い魔を送って来られるとは思えません。
もしかしたら、ハリー殿は常にわたくしの側にいるのでしょうか。
「まだだ、まだ安心するのは早いぞ。
キッチリと鉤竜共を斃して、天下に我らの武勇を示すのだ。
ハリー様から新たな魔宝石と魔法陣をいただいた。
それをもってすれば、鉤竜共など恐れるに足りない。
お前達には私が狩った鉤竜共を担いで皇都に凱旋してもらう。
気合を入れて立ち上がれ」
「「「「「おう」」」」」
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