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鬼子母神の夏
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「旦那、災難でしたね」
昨日まで取り巻きだった遊び人達から散々殴られ蹴られ、地面に這いつくばっていた峯次郎を、とても素人とは思えない色っぽい中年増の姉御が助け起こしてくれた。
「糞、糞、糞!
今迄散々世話してやっていたのに、俺が勘当された途端この仕打ち。
仕返ししてやる。
必ず仕返ししてやる!」
「まあ、まあ、まあ。
勘当させてしまったんですか?
それは御可愛そうに。
ですが旦那。
親子でございましょう?
真面目にしていれば、勘当も解いてくれますよ」
「いいや、そんな事はない。
糞親父はそん甘い人間じゃない。
散々旗本御家人の生き血を吸ってきた糞親父だ。
俺の事など眉ひとつ動かさずに殺すよ」
「まあ、そんなお父さんの所で暮らしておられたのですか。
それは大変だったでしょう。
それで、これからどうされるのですか?
勘当されてしまったら、今日寝るところもないのではありませんか?」
「くぅ!
糞親父もあいつらも絶対に許さねぇ。
必ず復讐してやる。
殺してやる!」
「まあ、まあ、まあ。
ここは落ち着いてください。
何なら家に来られますか?」
「なに?
いいのか?」
「ええ、こんな色男を野宿なんかさせられませんよ」
峯次郎は最初驚いた顔をしていたが、徐々に厭らしい顔になった。
散々遊びたおしてきた峯次郎は、本気で自分を色男だと思っていた。
全ては金の力、父親の力だったことに未だに気がついていない。
女は内心虫唾が走る思いだった。
だがこれも御役目だと、顔には満面の笑顔を浮かべていた。
女の名前は鬼子母神の夏といった。
地獄の鬼太郎配下の女盗賊だ。
男を誑し込んで情報を引きだしたり、引き込みとして押し込み先の中から戸を開けたるするのが役目だ。
今迄も嫌な男に何十何百と抱かれてきた。
今更峯次郎に抱かれるくらいなんともなかった。
夏は慌てなかった。
じっくり時間をかけて、疑われないようにしながら情報を引き出した。
大和屋の間取り。
用心棒の人数と腕前。
引き込みを入れる事が可能なのかどうか。
事細かに押し込みに必要と思われる情報を、峯次郎の主観を排除して、盗賊として正確な情報を手に入れようとした。
いずれは殺す相手だが、本人も気がついていない重大な情報を持っているかもしれないので、押し込みが成功するまでは生かしておかないといけない。
夏は内心の嫌悪感を押し殺して峯次郎を養っていた。
それでも四六時中一緒はさすがに辛い。
仕事だと言って、日中は出歩くようになった。
そして小頭の壬生の捨弥と毎日会って、峯次郎から得た情報を伝えていた。
だがその峯次郎と夏を見張る者がいた。
昨日まで取り巻きだった遊び人達から散々殴られ蹴られ、地面に這いつくばっていた峯次郎を、とても素人とは思えない色っぽい中年増の姉御が助け起こしてくれた。
「糞、糞、糞!
今迄散々世話してやっていたのに、俺が勘当された途端この仕打ち。
仕返ししてやる。
必ず仕返ししてやる!」
「まあ、まあ、まあ。
勘当させてしまったんですか?
それは御可愛そうに。
ですが旦那。
親子でございましょう?
真面目にしていれば、勘当も解いてくれますよ」
「いいや、そんな事はない。
糞親父はそん甘い人間じゃない。
散々旗本御家人の生き血を吸ってきた糞親父だ。
俺の事など眉ひとつ動かさずに殺すよ」
「まあ、そんなお父さんの所で暮らしておられたのですか。
それは大変だったでしょう。
それで、これからどうされるのですか?
勘当されてしまったら、今日寝るところもないのではありませんか?」
「くぅ!
糞親父もあいつらも絶対に許さねぇ。
必ず復讐してやる。
殺してやる!」
「まあ、まあ、まあ。
ここは落ち着いてください。
何なら家に来られますか?」
「なに?
いいのか?」
「ええ、こんな色男を野宿なんかさせられませんよ」
峯次郎は最初驚いた顔をしていたが、徐々に厭らしい顔になった。
散々遊びたおしてきた峯次郎は、本気で自分を色男だと思っていた。
全ては金の力、父親の力だったことに未だに気がついていない。
女は内心虫唾が走る思いだった。
だがこれも御役目だと、顔には満面の笑顔を浮かべていた。
女の名前は鬼子母神の夏といった。
地獄の鬼太郎配下の女盗賊だ。
男を誑し込んで情報を引きだしたり、引き込みとして押し込み先の中から戸を開けたるするのが役目だ。
今迄も嫌な男に何十何百と抱かれてきた。
今更峯次郎に抱かれるくらいなんともなかった。
夏は慌てなかった。
じっくり時間をかけて、疑われないようにしながら情報を引き出した。
大和屋の間取り。
用心棒の人数と腕前。
引き込みを入れる事が可能なのかどうか。
事細かに押し込みに必要と思われる情報を、峯次郎の主観を排除して、盗賊として正確な情報を手に入れようとした。
いずれは殺す相手だが、本人も気がついていない重大な情報を持っているかもしれないので、押し込みが成功するまでは生かしておかないといけない。
夏は内心の嫌悪感を押し殺して峯次郎を養っていた。
それでも四六時中一緒はさすがに辛い。
仕事だと言って、日中は出歩くようになった。
そして小頭の壬生の捨弥と毎日会って、峯次郎から得た情報を伝えていた。
だがその峯次郎と夏を見張る者がいた。
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