26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全

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第一章

第43話:後方戦略

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神暦2493年、王国暦230年3月23日:王都・ジェネシス視点

「大陸の海軍が壊滅したのか……」

「はい、全く相手にならなかったと言う情報が集まっております」

 国中を飛び回り、魔法袋に蓄えてある食糧と塩を貸し与えてきた。
 無償で与えるのは簡単だが、そんなことしたら家臣も民も堕落しまう。
 あくまでもいつか返してもらう貸与だ。

 俺がこんな事をしなければいけなくなったのも、全て戦争の所為だ。
 紅毛人の国が大陸に攻め込んだせいで、穀物価格が暴騰した。
 噴火と津波のせいで我が国の穀物生産量は半減している。

 我が国の人口は3500万人。
 普段なら酒を造ったり北の部族に輸出したりできる程度の余剰がある。

 だが今では、火属性竜が起こしたスタンピードと噴火の影響で、多く見積もっても2000万人分の穀物しか収穫できない。

 災害当初に莫大な量の穀物を緊急輸入した。
 だから今年と来年の穀物は十分確保してある。

 だが、大陸と紅毛人との戦争が人々の不安にさせてしまった。
 強欲な商人達が買い占めと売り惜しみを始めた。
 人々が穀物の買い置きしようと争って買いだした

 民心を落ち着かせるために備蓄穀物を売りに出しても、大商人が買い占める。
 今の状況では、2年分の備蓄穀物全てを売りに出しても買い占めてしまうだろう。
 
 だから、穀物の消費量を減らさせるためにタンパク質を供給したのだ。
 ただ、肉や魚は穀物と違って長期間の備蓄ができない。
 亜空間や魔法袋を持つ俺と多くの人々は違うのだ。

 幸いなことに、俺の亜空間と魔法袋には膨大な量のタンパク質備蓄がある。
 属性竜を斃した時に、ついでに狩った低レベル魔獣や魔魚が嫌ほどある。
 多少日持ちさせるための塩も一緒に渡せば、1カ月間隔で供与すればいい。
 
 海から遠い山間部では海の魔獣や魔魚がとても喜ばれた。
 沿岸部の漁村には、魔境の魔獣肉を貸し与えた。
 そんな生活を3カ月ほど続けている間に、多くの情報がもたらされていた。

「大陸には4億の民がいると聞く。
 我が国の10倍以上の民がいると言う事は、10倍の魔術士がいるという事だ。
 それに、いくら大陸が騎士団を重視して海軍をおろそかにしていると言っても、全く何もしていなかったわけではない」

「そうですね、海軍を軽視していたと言うのなら、我が国も同じです。
 大陸海軍が沿岸海軍だと言うのなら、沖合に出て艦隊決戦などしません。
 集まった情報でも、港の砦と連携して湾内で戦ったとあります。
 地の利を生かして騎士団とも連携したにもかかわらず、完敗したのです。
 我が国も教訓として取り入れなければなりません」

「そうだな、今はまだ船に慣れるだけで精一杯に連中を、一人前の海兵に鍛え上げなければいけない」

「そうですね、先ずは人を鍛えなければ話になりません。
 しかしながら、どれほど人を鍛えようと、魔術の才能と魔道具の差はどうしようもありませんが、その点はどうなさるのですか?」

「大陸の島を拠点にしている各貴族家の魔術士を鍛え直す。
 同時に、俺が狩った高レベル魔獣や亜竜から作った魔道具を貸与する。
 今集まっている紅毛人の魔道具なら、高レベル魔道具で互角。
 亜竜素材の魔道具ならこちらの方が有利だ」

「そうですね、今分かっている魔道具ならこちらの方が有利でしょう。
 ですが、もし彼らが2線級の部隊で、もっと性能の良い魔道具を持つ1線級の部隊がいたとしたら、どうなされるのですか?
 貴族軍に属性竜素材の魔道具を貸し与えられるのですか?」

「その時は、属性竜素材魔道具を貸し与えた王国軍を送る」

「王太子が造られた艦隊が訓練を終える前にですか?」

「あの艦隊が、指揮官を含めて最高の状態に仕上がるのは10年以上先だ。
 それまで待つ事などできない。
 沿岸船の王国海軍で戦ってみて、敵の本当に力を確かめる」

「反対です!
 貴族連合艦隊が負けるような相手なら、地の利を生かして戦うべきです。
 王太子と海軍と騎士団が協力できるこの国で戦うべきです」

「セバスチャンの言う事は正しい。
 だがそれは俺の隠し玉を知らないからだ。
 前にも言ったが、俺にはまだまだ隠している力がある」

「それは存じておりますが、だからと言って簡単に賛成などできません。
 王太子が大切にされている民を護るためだけなら、大陸にまで行って戦う必要などありません。
 大陸の海軍は負けましたが、最強の騎士団が無傷で残っています。
 海軍と連動して負けた騎士団は、2線級3線級だと聞いています。
 紅毛人が上陸を企てたら、簡単に壊滅させられるかもしれません」

「そうだな、そういう結果もあり得る。
 だが同時に、大陸最強と言われる騎士団が壊滅させられる可能性もある。
 父王を後宮に押し込んで実権を握った以上、俺には民を護る責任がある。
 この国で紅毛人を迎え討つという事は、民に被害が及ぶという事だ。
 攻め込んでくる紅毛人は好きな場所を攻撃できるのだ。
 戦うのなら、一歩でも国の外で戦う。
 できるだけこの国から離れた場所で戦う。
 それが俺の戦い方だ!」

「申し訳ありませんでした。
 私が愚かでございました。
 もう二度と国土に敵を上陸させるような作戦は口にしません。
 しかしながら、それは王太子が生き残るという条件付きです。
 王太子が死ぬような作戦なら、断固として反対させていただきます」

「俺も死にたいわけではない。
 俺が死んだら、民の事など全く考えない者が王になるのは分かっている。
 確実に生き延びられる作戦がない場合は、敵を国内で迎え討つ。
 だがその時は、敵をこちらが準備した場所に誘い込むような策を立てる。
 セバスチャンもそのような策を考えていてくれ」
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