26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全

文字の大きさ
上 下
56 / 60
第一章

第41話:侵略

しおりを挟む
神暦2492年、王国暦229年12月21日:王都・ジェネシス視点

「落ち着け、ゆっくりと話せばいい」

 取次役があまりにも慌てているので、落ち着かせる言葉をかけた。
 同じ言葉でも、話す調子や表情一つで、相手を怯えさせ更に慌てさせることもできれば、逆に落ち着かせる事もできるのだ。

「はい、恐れ入ります、王太子」

「慌てる事はない、お前からだけでなく、知らせをくれた使者からも話を聞く。
 だから慌てずゆっくりと正確に話すのだ」

「はい、慌てずゆっくりと正確に話させていただきます」

 何度も復唱するように言って聞かせた効果がここに現れている。

「大陸が紅毛人の国に攻撃されています」

「戦争が始まったと言うのだな?」

「易都からの報告ではそのようでございます」

「情報はどれくらい届いているのだ?」

「易都から来た急使の話しでは、戦争が始まったという事だけでございます。
 大陸から来た交易船の船員から伝えられた情報です。
 もっと詳しい情報があるのでしたら、後続の伝令が届けると思います」

「分かった、念のため急使からも話を聞く。
 ここに連れて来てくれ」

 易都から早馬を乗り継いで重要情報を伝えてくれた急使。
 彼からも直接話を聞いたが、取次役の話しと同じだった。
 労い褒美を与え休息室で休むように命じた。

「セバスチャン、どうするべきだと思う」

「王太子に胸には既に案があるとは思いますが、念のために申し上げます。
 まずはできるだけ多くの情報を手に入れなければいけません。
 ですが、我が国が国外と繋がっているのは五カ所だけです。
 王家王国が外国の情報と交易を独占する為の易都。
 属国を通じて大陸との交易が認められている南のドロヘダ辺境伯家。
 半島国との歴史的関係から交易が認められている西のクランモリス辺境伯家。
 北の種族との関係から交易を認められているアシュタウン男爵家。
 建国王陛下への忠義で交易が認められているリチャードソン騎士家。
 その全てに命じて情報を集めるのが最初の方法です」

「その通りだが、リチャードソン騎士家以外は心から信用できない。
 ドロヘダ辺境伯家とクランモリス辺境伯家との関係は改善できた。
 それでも過去の事が全てなくなるわけではない」

「そうですね、彼らを心から信用する事はできません。
 易都も、交易相手を待つだけでこちらから交易に出向く訳ではありません。
 アシュタウン男爵家は、北も種族を搾取して嫌われていると聞いています。
 まともに情報を得る事は不可能でしょう」

「頼れるのはリチャードソン騎士家だけだが、王家や王国に目をつけられにように、船の数を増やしていない。
 船がない以上、経験豊富な船員の数も限られている。
 急いで船を大量に造っても操る人間がいない」

「それでも何もしないよりは船を建造した方が良いでしょう。
 船が完成するまでの2年間、できる限り人を育てるしかありません。
 王太子には50万もの領民がいます。
 彼らを船員として鍛えればいいのです」

 セバスチャンは普通の船大工に建造させる計算をしているな。

「そうだな、大陸の皇帝が強欲で馬鹿でも国自体は大国だ。
 紅毛人の国は勝つ気だろうが、必ず勝てるとは限らない。
 勝てたとしても広大な大陸全てを支配下に置くまでには時間がかかる。
 その間に艦隊を作って紅毛人の国を迎え討つ体制を整える」

「それが宜しいと思われます」

「だがそれまで待つだけでは芸がなさ過ぎる」

「積極的に討って出るおつもりですか?
 建国王の政策により、異国にまで行けるような船の建造は禁止されていました。
 国内の貴族で異国に行ける船を持っているのは、リチャードソン騎士家とドロヘダ辺境伯家の属国だけです。
 王国海軍も沿岸を護る船しかありません。
 それでも大陸に船を派遣されるつもりですか?」

「俺が魔力を惜しみなく使えば、リチャードソン騎士家の船と同じ物は幾らでも建造できる。
 建造した後で俺の領民に船の操り方を学ばせる。
 王国海軍の兵士には、今ある沿岸船で行ける場所まで行ってもらう。
 できるだけ沿岸を進んでクランモリス辺境伯領まで行ければ、半島国には行ける。
 ドロヘダ辺境伯家の属国まで行けば、島伝いに大陸まで行けるだろう。
 国中の船が両家の港に停泊すれば、多くの金が落ちて財政的に助かるだろう」

「両家共に財政的には助かるでしょうが、領内は混乱しますよ」

「金儲けに苦労は付き物だ」

「それはそうでしょうが、ドロヘダ辺境伯家から大陸に渡るなら、夏から秋にかけては嵐が何度もやってきます。
 最悪貴族の船が全滅してしまいます。
 クランモリス辺境伯家から半島に渡るのも同じです。
 冬のあの海域は、波がとても激しく、船を簡単に転覆させてしまいます」

「貴族の船乗りも両家もバカではないぞ。
 危険な季節に船を出したりはしない。
 誰だって死ぬのは嫌なのだから、両家から海に詳しい水先案内人を雇うさ」

「両家はもちろん、全ての貴族にそう命じられてください。
 貴族の中には信じられないくらい愚かな者がおります。
 貴族の重臣も同じです。
 特に派閥争いや出世争いがからむと、身分の低い者の命も主家の利益も関係なく、他人を殺してでも自分の利益を手に入れようとするのが人間と言う者です。
 王太子も分かっておられるでしょうが、念のために申し上げておきます」

「そうだな、その点は厳しく命じておかなければいけないな」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...