26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全

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第一章

第37話:六度目の凱旋パレード

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神暦2492年、王国暦229年11月15日:王都・ジェネシス視点

「王太子、凱旋パレードをやってください!」

 側近達を残して転移魔術で王都に戻ってきた俺にセバスチャンが言う。

「こう立て続けに凱旋パレードをしても、王侯貴族も民も畏怖しないぞ。
 対して効果のない凱旋パレードどなど時間のムダだ」

 俺はわずかな希望に賭けて否定してみた。

「王太子、確かにこう何度も属性竜を狩っては属性竜の価値も下がります。
 ですが全く何の効果もないわけではありません。
 国内外の王侯貴族はもちろん、民にもある程度の効果はあります。
 何より、王太子が4頭もの属性竜を狩ったと正確に伝えられます。
 いえ、上手く行けば、2度の凱旋パレードも属性竜を狩ったと誤解させられます」

「3頭も4頭も6頭も同じだ」

「いいえ、全く違います!
 手に入る素材の分量から、我が国が保有する属性竜素材の武器や防具の数が想定され、敵が攻める気にならなくなります」

「この前話したバカ皇帝のように、実力差をわきまえずに攻めて来る奴もいる。
 恥ずかしい想いをしてまで凱旋パレードをする必要はない」

「いえ、そんなバカな国の軍は良いカモです。
 王侯貴族は人質にして身代金を奪えばいいのです。
 兵士は奴隷にして労働力にできます。
 特別質の良い武器や防具は国宝にできます。
 良い武器や農具は手柄を立てた者への下賜品にできます
 それなりの武器や防具は、騎士や冒険者が喜んで買い取ります。
 質の悪い武器や防具でも、平民に払い下げれば良い素材になります」

 セバスチャンの言う通りだが、最後まで諦める気はない。
 これまでは絶対にやらなければいけなかったが、今回はそうじゃない。

「敵の事はその時に考えればいい。
 実際にどうなるかは分からない。
 それよりも王都の民に呆れられる方が問題だ」

「短期間に6度も凱旋パレードをするのです。
 少しは飽きる者も呆れる者もいるでしょうが、大半は畏怖します。
 それに、王太子が少し魔力を使われるだけで、全員が心から感謝します」

「……俺に何をやらせようと言うのだ?」

「王太子にはあり余る魔力があるのですよね?」

「確かに沢山の魔力はあるが、無尽蔵と言う訳ではないぞ」

 この世界の基準で言えばほぼ無尽蔵だが、そんな事は口にしない。
 純血種竜が俺と戦うのを諦めて、眷属になって生き延びようとするくらい膨大な魔力量だが、そんな事は口にしない。

「食事をすれば、魔力を創り出せるのですよね?
 食べれば食べるほど、魔力を創り出せるのですよね?」

「だからと言って1日中食べていられるわけではないぞ」

「魔力を効率よく使えるので、どのような魔術でも他人の1/10の魔力しか消費されないのですよね!」

「……俺に何をさせようと言うのだ?」

「なにも民に延命の秘薬と秘術を使えと言っている訳ではありません。
 病気で苦しんでいる者に治癒魔術を使ってやればいいのです。
 凱旋パレードをすると同時に、慈悲を与えるのです」

「強大な竜を狩る事ができたから、何かに感謝して民に慈悲を与えるか。
 悪い考えではないが、神に感謝するのは絶対に嫌だぞ!」

「分かっております。
 王太子が神の名をかたって私利私欲を満たす神官を忌み嫌っておられる事は。
 王太子が感謝されるのは、建国王陛下です。
 建国王陛下に感謝されるのなら、なんの問題もないでしょう?」

「何の問題もない、なんの問題もないが……」

「王太子が嫌っておられる凱旋パレード自体は、後宮に居られる国王陛下や女性の方々にお願いすればいいのです。
 王太子は、慈悲を与える為の会場で治癒魔術を使ってくださればいいのです。
 できることなら民を治療したいと思っておられたのでしょう。
 1度前例を作っておけば、多少強引な言い訳を使ってでも、民を治療できます」

 セバスチャンに論破されて6度目の凱旋パレードをする事になった。
 まあ、最初から凱旋パレードは拒否できないと思っていた。
 うれしかったのは、セバスチャンが俺の心を見抜いてくれていた事だ。

 念願の民に対する広範囲高レベル治癒魔術ができるのだ。
 万全の準備をして、救い漏れの無いようにしなければいけない。
 同時に準備期間中に亡くなる人の無いようにもしなければいけない。

 莫大な量の回復薬や治療薬を見廻騎士団に渡して、凱旋パレードをするまでの間に死人がでないようにした。 

 見廻騎士団なら王都の隅々まで知ってくれている。
 俺が設立した先鋒騎士団や魔境騎士団なら見廻騎士団の指示に従う。
 人数が足らなくて見落とす事がないようにした。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
「おかあちゃん、おかあちゃん、おかあちゃん」
「父ちゃん、よかった、本当に良かった」
「すげえ、すげえ、すげえ、俺も治癒魔術師になる!」
「ありがとうございます、ジェネシス王太子」
「「「「「ありがとうございます、ジェネシス王太子」」」」」

 王都に住む全病人怪我人に対する治癒魔術大会は無事に終了した。
 見廻騎士団団長のマディソンは、たった5日で全て準備を整えてくれた。

 俺が嫌っている教会の神殿を使わず、平民街の区長や町長の家を使ってくれた。
 貴族街や騎士街に住む平民の為に、貴族や騎士の屋敷まで確保してくれた。

 セバスチャン達も協力していたのは知っている。
 だがそれはあくまで協力で、どの屋敷を借りれば悪用されないか等は、日頃から役目に励んでいる見廻騎士団にしかできないことだった。

 王都の城壁外に住んでいた流民や難民50万人は俺が賄領に引き取った。
 だが、その後でも王都の中には平民が60万人も住んでいる。
 貴族や騎士、彼らに仕える者が30万人も住んでいる。

 表向きその全てを把握して犯罪を未然に防ぐのが王都代官だが、父王時代には権限を使って私利私欲を貪るだけだった。

 俺が権力を握ってまともな者に代えたが。
 まだまだ王都の治安を守り民の生活を満たせるほど政治はできていない。
 実質的には見廻騎士団の指導で平民が自治を行っている。

「マディソン、よくやってくれた。
 マディソンさえよければ、王都代官を兼任してもらいたいのだが、どうだろう?」

「先鋒騎士団でもある見廻騎士団の団長と、王都騎士団の総司令官でもある王都代官の兼任は、色々と問題が起きてしまうと思います。
 引継ぎ期間は必要ですが、直卒の王都騎士団を任せていただけるなら、専任の方が良いと思います」

「引継ぎ期間はどれくらいあればいい?」

「長くて2年、短くて1年という所でしょうか」

「分かった、心の中で2年と思っておくが、表向きは兼任としておく。
 引き継ぎ期間はマディソンが決めてくれればいい。
 後を任せられる者が育ったら、そいつが徒士の次男三男でも団長に任命しよう」
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