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第一章

第31話:リーズ魔山火属性竜

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 今回のリーズ魔山火属性竜討伐軍の編成は俺に一任された。
 属性竜殺しの英雄となり、王太子の地位についた俺には絶大な権力がある。
 俺にできない事はない、などとは言わないが、討伐軍の編成程度なら全権がある。

 まして今回の獲物は火属性竜である。
 多くの民の命を奪い、国の根源である食糧生産力を激減させる災厄だ。
 よほど身勝手で邪悪な人間でなければ討伐のジャマはしない。

 もしそんな人間で、俺を超える権力者がいたとしても、今回はジャマしない。
 普通の人間は本能的に死を恐れる。
 現状が幸せであればあるほど死を恐れるから、権力者は俺のジャマをしない。

 俺以外の誰にもできない延命の秘術だが、表向き延命の秘術には属性竜以上に強い竜族素材が必要だと言ってあるから。

 まあ、現実には俺を超える権力者は存在しない。
 父王はいるが、人望など全くない。
 今も後宮にこもって酒池肉林の時を過ごしているだろう。

 俺が今回の討伐に動員したのは、側近10人と家臣8300人だ。
 家臣の内300人は見廻騎士団、5000人は王国騎士家の縁者だ。
 残り3000人がドロヘダ辺境伯家から召し抱えた最精鋭騎士だ。

 ここに王家王国の騎士団が8個部隊8000人加わる。
 彼らが強固な陣を組んで魔境の奥に進む。
 大量の携帯食と回復薬と治療薬を活用して奥に進む。

「先鋒騎士団はここまでだ。
 これ以上奥に進もうとすれば死傷者ができる。
 極力この砦を護って欲しいが、想定外の魔獣が現れたら撤退しろ。
 今は逃げるしかなくても、諦めずに鍛え続ければ必ず勝てる時が来る!
 無駄死にする事は断じて許さん!」

 俺は8000人の先鋒騎士団にリーズ魔境砦を護らせて奥に進んだ。
 単に火属性竜を狩るだけなら俺独りでいいが、騎士団を鍛え直し、王家王国を立て直すには必要な手間暇だ。

 先鋒騎士団を魔境の森の中に築いた砦に残して進んだ。
 彼らは俺の直臣ではなく王家王国の騎士で、指揮下に入っただけだ。

 俺は直臣の8300だけを率いて魔境を進む。
 道のない魔境に騎馬で進める道を造りながら少しずつ進む。

 森の緑はとても濃くむせ返るほど濃い緑の香りが立ち込めているが、湿度がない。
 木本体だけでなく枝やツタがジャマだが、湿度がない分体力が削られない。
 緑が濃い分だけ魔蟲や魔獣が多いが、一騎当千の家臣達なら戦える。

 楽勝とまでは行かないが、連携に気をつければ斃せない事はない。
 家臣の練度を高めるために、できるだけ手出ししないようにしている。
 俺が魔力で木々を伐採さえすれば、魔獣を斃しながら道を造ってくれる。

「魔境騎士団と近衛騎士団はここまでだ。
 セバスチャンとアンゲリカ、マッケンジー以外はここを護ってくれ。
 先日先鋒騎士団にも言ったが、今は逃げるしかなくても、諦めずに鍛え続ければ必ず勝てる時が来る!
 無駄死にする事は断じて許さん!」

「「「「「はっ!」」」」」
「極力砦を守らせていただきますが、王子に無用な心配をおかけするような事はしません、ご安心ください!」

 ドロヘダ辺境伯家出身の魔境騎士団は、十分な補給物資と予備部隊がいれば、中レベル魔獣を楽々と狩る事できた。

 高レベル魔獣でも高品質の回復薬と治療薬をふんだんに与えれば、何とか死者なしに狩る事ができた。

 リーズ魔山の中腹にある戦術的要地を堅固な砦を築けば、何とか死守できるほどの高練度騎士団だった。

 彼らが更なる高みに登れるように、主力騎士に俺が創り出した高レベル武器や防具を貸与し、騎士団員全員に高品質の回復薬と治療薬を与えた。

「ジェネシス王子、どうせ私達は属性竜と戦う時には後方に下がらせるのでしょう。
 それなら連れて行く必要などないでしょう」

 セバスチャンは俺が何を言うのか分かっていて文句を言う。
 セバスチャンにもプライドがあるから、言わずにはおられないのだろう。
 こういう時には若い頃のやんちゃな性格が頭をもたげるのだろう。

「俺が完全に独りで狩った事になってしまったら、単に王国が独裁政権になるだけでなく、誰にも政務や軍事を委任できなくなる。
 属性竜を討伐した時に、サポートや補給をしてくれたパーティーメンバーがいたとなったら、誰にも文句を言わせない代理人が生まれる。
 3人にはそんな代理人になってもらう」

「分かっていた事ではありますが、そんな重い役目は返上したいです」

「そうはいかない、属性竜狩りのパーティーメンバーにならなくても、傅役のセバスチャンは筆頭大臣になるのだ。
 どうせやらなければいけないのなら、少しでもやり易いように、箔をつけておけ」

「しかたありませんね」

「王子、私は敵と戦う以外できません」

「アンゲリカには俺の護衛以外頼まないから安心してくれていいよ」

「王子、私は魔術と魔道具の研究に専念したいのですが?」

「マッケンジー、大臣を兼任してくれるのなら、俺が狩った魔獣素材を自由に使って研究してくれていいよ」

「そういう事でしたらしかたありませんね。
 研究の片手間に大臣をさせていただきます」

「安全圏に行ってもらおう。
 属性竜がお出迎えしてくれるようだ」

 俺は3人を防御魔法陣で守りつつ遠くへ送った。
 3人なら自力で中腹の砦に戻れる位置。
 砦にいる騎士団員からは見つけられない場所だ。

 ギャアアアアアオン!

 リーズ魔山の火属性竜は、コービー港魔海水属性竜よりは賢かった。
 亜竜が俺にやられた術を知っていたのか、咆哮と同時にブレスを放ってきた。
 灼熱のブレスには、近寄っただけで人体発火しそうな熱がこもっていた。
 
 だが相手が火属性竜なのは最初から分かっていた。
 防御も攻撃も準備は整えている。
 ブレスに近づく気はないが、喰らっても大丈夫なだけの防御魔術は準備してある。

 圧縮強化攻撃水魔術弾を大量に用意してある。
 コービー港に行った時に莫大な海水を亜空間に蓄えておいた。
 純水に精製した上に氷結魔術で絶対零度にまで冷やしてある。

 ブレスを放った直後で、灼熱地獄となっている火属性竜の口に叩き込んだ。
 そのまま真直ぐ進ませて後頚部から飛び出させた。

 咽喉の奥から脛骨と頚椎神経を断ち切る。
 いや、正確には首を内部から破裂させて首と胴体を泣き別れにさせた。
 とても生命力の強い属性竜であろう、首が胴から離れたら絶命する。

 俺は火属性竜が劣化しないように亜空化に放り込んで保存した。
 自分の経穴に創った亜空間は700個以上ある。

 前世でWHOに認められた正穴は361穴だが、左右2つある経穴もあれば、WHOに認められていない奇穴が250以上もある。
 
 その経穴全てに、魔力を創り蓄える魔力器官か何でも保管できる亜空間を創り出しているので、一緒に入れておきたくないモノは違う亜空間に保管できるのだ。

 水属性は火属性に対して相克の関係なので、内部で干渉しないようのできるとはいえ、同じ亜空間には入れたくなかった。
 だから属性別に魔獣や魔力弾を保管してある。
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