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第一章

第10話:戦果報告

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神暦2492年、王国暦229年2月5日:王都・ジェネシス視点

「おおおおお、よく戻った、よく無事に戻ったな、ジェネシス」

 父王が本当にうれしそうに迎えてくれる。
 俺個人の無事を喜んでくれるのは、子供としてはうれしい事なのだろう。
 だが俺から見れば、スタンピードに襲われた多くの民も心配して欲しい。

「お陰をもちまして、無事に戻ることができました。
 いえ、正直な気持ちを申しますと、良い狩りができました。
 1番良い獲物を持ち帰りましたので、献上させていただきます」

 事前に打ち合わせしていた通り、謁見の間に茶魔熊が運び込まれる。
 体重3000kgを超える、茶魔熊の中でも巨大な個体だ。

「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「すごい、凄すぎる」
「これほど巨大な茶魔熊は、今まで誰にも狩られた事がないのではないか?」
「茶魔熊自体は、数年に1度B級冒険者が狩ると聞くが、もっと小さい個体だぞ」
「貴族や騎士が狩ったと言う話はここ数十年聞いた事がないぞ!」

 猿芝居と言っては父王の愛情を否定し過ぎだな。
 俺が単独で茶魔熊を狩ったと聞いた父王は、その手柄を王都にいる全ての貴族と騎士に自慢したくて、急に総登城を命じたのだ。

「おおおおお、このような見事な茶魔熊をくれると言うのか?
 ジェネシスの余に対する愛情と忠誠心の大きさがよく分かる」

 俺が父王の最側近を排除したからな。
 父子の仲が悪いと言う噂が流れるのはしかたがない。
 俺達の仲が良い所を全ての貴族や騎士に見せつけたいのだろう。

「茶魔熊の熊胆は万病に効くと聞いております。
 父王陛下が病になられないように、予防薬として御使いください。
 兄上達や姉上達、甥や姪達も身体が弱いと聞いております。
 この熊胆があれば少しは身体が丈夫になるかと思い、持ち帰りました」

 兄や姉の健康状態を直接知らないと言うのは、民が聞けば不思議に思うかもしれないが、王位継承で殺し合う事もある王族では、異母兄弟姉妹に交流はない。

「おお、余のためにそこまで考えていてくれたのか。
 ジェネシスは孝行息子だな。
 孝行息子にこれほどの魔獣を贈られたなら、余も何か褒美を与えなければな。
 何か欲しいモノはあるか?」

「ずうずうしい事は承知しておりますが、どうしても欲しいモノがあります」

「ほう、なんじゃ、何が欲しいのだ?
 これほどの魔獣を献上してくれたのだ、遠慮なく申すがいい」

「実は、狩った魔獣はこの茶魔熊1匹だけではないのです。
 もう少し小さな個体なのですが、あと6匹いるのです。
 残念ながら手が足らず、メニフィーの砦に残すしかありませんでした。
 このままでは腐らしてしまうか、現地の冒険者ギルドに売るしかありません」

 真っ赤な嘘である。
 本当は俺が創り出した亜空間に保管してある。
 他にも俗に魔法袋と呼ばれている魔道具も創ってある。

「なんだと、他にも茶魔熊を狩っていると言うのか!?」
「嘘だろう、いくら何でもありえないぞ」
「そうですわよね、いくらなんでもありえませんわ」
「嘘か、そう考えると、この茶魔熊も王子が狩ったものではないかもしれない」
「そうですわね、普通に考えれば王子の護衛が狩ったのでしょう」

「じゃかましいわ!」

 あ、セバスチャンが切れた。
 貴族や騎士の俺をおとしめる陰口に我を忘れている。
 俺の傅役に選ばれてから温厚になったが、若い頃は暴れん坊だったと聞く。

「この茶魔熊の首を見てみろ!
 圧縮した火魔術で正確に神経を断ち切って絶命させている。
 傅役の儂はもちろん、殿下の護衛に選ばれた者達は剣が得意な者が多い。
 魔術の師であるマッケンジーでもこれほどの事はできぬわ!」

「怒るな、セバスチャン。
 その方がジェネシスの事を大切に思ってくれている事はよく分かった。
 余はとてもうれしいぞ」

 父王が直ぐに止めてくれたから、高位貴族も何も言えなくなった。
 俺の傅役とはいえ、セバスチャンは騎士でしかない。
 貴族の、それも高位の貴族が相手だと、王城では分が悪い。

「ジェネシスが余や兄弟姉妹に為に狩った茶魔熊を腐らせるわけにはいかぬ。
 これほど貴重な素材を平民に渡す訳にはいかぬ。
 何より余に貴重な熊胆を献上してくれたジェネシスに褒美を与えねばならぬ。
 ジェネシスには宝物殿にある魔法袋を与える。
 数ある魔法袋の中でも最も多くの物を入れられる魔法袋を下賜する」

「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「王家門外不出の魔法袋を下賜されるとは!」
「それも1番たくさん物の入る魔法袋だぞ!」
「商人に売ったら小金貨100万枚、いや、1000万枚はするぞ」
「バカ言え、国王陛下の下賜品を売ったりしたら処刑だぞ」

「ありがたき幸せでございます。
 生涯大切に使わせていただきます。
 いえ、代々家宝として伝えさせていただきます」

「よい、よい、気にするな。
 ジェネシスが王位を継げば王家に伝わるだけの事。
 そのように気にする事はない」

「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「国王陛下が王位継承について言及されたぞ!」
「国王陛下はジェネシス王子に王位を継がせる気なのか?」
「他の王子達は知っておられるのか?」
「最年長のジェームズ王子はどう思われるのだろう」
「ジェームズ王子に取り入っていた者達はどうするのだろう?」

 おい、おら、何を考えているのだ!
 そんな事をお前が公言したら、俺が命を狙われるだろうが!
 もうちょっと考えてから話せ!

「恐れながら国王陛下、王子にもう1つ褒美を与えてくだい」

 セバスチャン、これ以上何かを望むのは多くの人の嫉妬を買う。
 それでなくても王位争いで兄達から狙われているのだ。
 その事はセバスチャンの方が嫌というほど知っているのではないのか?

「ほう、普段とても謙虚で物欲のないセバスチャンが褒美を欲しがるか。
 よほどジェネシスのためになるモノの様だな? 
 何が欲しいのだ、言ってみろ」

「ありがとうございます。
 臣がジェネシス王子にお与え願いたいのは、指揮権でございます」

「指揮権だと?」

「はい、国王陛下もお聞きになられたように、王子の手柄を妬み、その手柄と孝心を疑う卑小な貴族や騎士が数多くいます」

「セバスチャンの申す通りじゃ!
 腹立たしい愚か者どもが多過ぎる!」

「「「「「ヒィイイイイ!」」」」」
「まずいぞ、このままでは厳しく処罰されるぞ」
「だが今更ジェネシス王子の味方になれないぞ」
「ここは何とかやり過ごさなければならない」

「そのような者達に王子の実力を見せつけると同時に、これ以上魔境から魔獣が出てこないようにするためにも、魔獣討伐軍の指揮権をお与えください!」

「よくぞ申したセバスチャン。
 愚か者共にジェネシスの実力を思い知らせるのに、指揮権は何よりじゃ。
 セバスチャンの事だ、ジェネシスの事を悪く言った者共の事は覚えていよう。
 ジェネシスが侯爵や伯爵に命令する所を思いえがくと痛快じゃ。
 ジェネシスに指揮権を与えよう。
 よく聞け、ジェネシスは今この時より魔境討伐軍の総指揮官じゃ!」
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