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第7話: 暗雲立つ国王の公女

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「困ったな、優秀なのは分かっていたけれど、想像以上に優秀だね。
 もう少しゆっくりと来て欲しかったな」

 近衛騎士のフルアーマープレートを返り血で真っ赤にしたフェリックスが、嬉しそうに、でもわずかに困ったような表情を浮かべています。

 自分を殺しに来たわたくし達を迎え討つ表情ではありません。
 何故このような表情を浮かべるのでしょうか?

「どう言う意味ですか?
 いえ、今はそんなことはどうでもいいのです。
 もうこれ以上の凶行は止めなさい。
 王太子やロビンソン辺境伯を誅してくれた事には感謝しています。
 ですがその後の、罪のない人々を殺した凶行は許せません。
 大人しく縛につきなさい」

「罪が無い訳ではありませんよ。
 王太子やロビンソン辺境伯の悪事に加担協力していた者や黙認していた者達です。
 それ相応の罰は必要です」

「それは貴男やわたくしの役目ではありません」

「その役目に付いている者が、王太子やロビンソン辺境伯の一味です。
 罪を隠蔽してしまいますよ」

「しかるべき手続きをして、公明正大な人に変わってもらえばいいのです」

「そのような人は、コーンウォリス公爵と共にドラモンド王国に送られました。
 ドラモンド王国が王太子達と共謀していたら、生きて戻る事はありません。
 今断行しなければ、この国の民は生き地獄を落ちる事になるのです。
 悪の根は断たねばなりません」

「……病床の国王陛下には申し訳ない事ですが、王命を下して頂きましょう。
 私の感じた範囲では、まだ見込みのある貴族士族もいました。
 恥を知る貴族士族もいるはずです」

「残念ですが、そのようなあやふやな感覚に頼る訳にはいきません。
 王国に住む全ての人々の、命と生活がかかっているのです。
 この国の舵取りは、ルイーザ様に御任せするしかありません」

「はぁ、何を言っているのですか?
 何故私がこの国の舵取りをするのですか?
 国王陛下や王族の方々がおられるではありませんか?!」

「もう誰も生き残っていませんよ。
 私の知る王族の方々は皆殺しにしました。
 もちろん国王陛下にも死んで頂きました」

「なんですって!」

「今この国を統治できるのは、王族であるコーンウォリス公爵家の公女であり、王太子殿下の婚約者だったルイーザ様だけです。
 もう少し待っていただけたら、邪魔な有力貴族と重臣も皆殺しにしてみせます。
 ここは見逃して下さいませんか?」

「黙りなさい、国王陛下を弑逆したこの者を許すな!
 捕えなさい、捕えるのが難しければ、この場で斬って捨てなさい!」

「御嬢様、危険でございます、我々だけでは手に余ります!
 この場は一旦引きましょう、撤退します!」

「ええい、なりません!
 謀叛人を前にして逃げるなど、コーンウォリス公爵家の恥です!
 戻りなさい、何をしているのですか、戻るのです!」
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