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出会いの章
怪しいI共和国人
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「これが預かっていた鞄です」
「確認させてもらう」
男は陳の命令で、いかにもな倉庫街に来ていた。
誰一人いない倉庫街は、映画やテレビで麻薬の受け取りに出てくるような場所だった
受け取りに現れたのは、一人のI共和国人だった。
ターバンを巻き、手首に鉄の装身具を付けている。
日本では装備出来ないはずの短剣を腰に差している。
I共和国の反社だろうか。
いや、こんな取引に来るのだから、反社に間違いないだろう。
「確認させてもらった」
「こちらも確認させてもらった」
I共和国人がスマホに何か話しかけている。
取引相手に間違いないと返事をしているようだ。
相手が陳なのか他の者なのかは分からないが、もう一つの場所で、I共和国人が対価を渡しているようだ。
映画やテレビでは、双方同じ場所で品物と金を交換する。
だが今回は、双方の本当の取引相手は現場に来ないで、男とI共和国人のような使い走りが送り込まれていた。
しかも場所を二カ所にして、品物と金が同時に摘発されないように工夫している。
それに例え両方の現場を摘発されても、真犯人は現場にはいない。
いるのは哀れな使い走りだけだ。
「これを持って帰ったらいいのだな」
「そうだ。先ずは大阪に向かう電車に乗れ。後の事はまた連絡する」
「分かった」
I共和国人は苦々しく返事をした。
I共和国人は男よりは取引に慣れているようだ。
既に何度も使い走りをさせられているのかもしれない。
「おい、あんた」
「俺かい」
I共和国人は急に男に話しかけた。
「そうだ。名前は何という」
「……言いたくない」
「はやく足を洗った方がいいぞ」
「そんな事は言われなくても分かっている。だが命が惜しい」
「あんたも脅かされているのか」
「あんたもか」
「ああ。家族を人質に取られているから、何度もやらされている」
「だったら、一回の取引の後で、口封じに殺されることはないんだな」
「それは分からん」
「何故だ」
「俺を脅している組織と、あんたを脅している組織は別だからだ」
「くそ。俺が愚かだったばかりに」
「俺はシンと言う。また出会う事があったら、互いの情報を交換して、逃げ出せるようにしたい」
「分かった。だがまだ信じることが出来ない。信じることが出来るようになるまでは、何も話せない」
「分かった。それでいい。これ以上ここにいると、組織に疑われるからもう行く」
I共和国人は男にそう言うと、急いで駅の方に向かって行った。
スマホに位置情報の共有アプリが仕込まれているのだろう。
男は自分がガラケーしか持っていない事を心底喜んだ。
もし持っていたら、自分も位置情報を知られていたと思ったからだ。
「確認させてもらう」
男は陳の命令で、いかにもな倉庫街に来ていた。
誰一人いない倉庫街は、映画やテレビで麻薬の受け取りに出てくるような場所だった
受け取りに現れたのは、一人のI共和国人だった。
ターバンを巻き、手首に鉄の装身具を付けている。
日本では装備出来ないはずの短剣を腰に差している。
I共和国の反社だろうか。
いや、こんな取引に来るのだから、反社に間違いないだろう。
「確認させてもらった」
「こちらも確認させてもらった」
I共和国人がスマホに何か話しかけている。
取引相手に間違いないと返事をしているようだ。
相手が陳なのか他の者なのかは分からないが、もう一つの場所で、I共和国人が対価を渡しているようだ。
映画やテレビでは、双方同じ場所で品物と金を交換する。
だが今回は、双方の本当の取引相手は現場に来ないで、男とI共和国人のような使い走りが送り込まれていた。
しかも場所を二カ所にして、品物と金が同時に摘発されないように工夫している。
それに例え両方の現場を摘発されても、真犯人は現場にはいない。
いるのは哀れな使い走りだけだ。
「これを持って帰ったらいいのだな」
「そうだ。先ずは大阪に向かう電車に乗れ。後の事はまた連絡する」
「分かった」
I共和国人は苦々しく返事をした。
I共和国人は男よりは取引に慣れているようだ。
既に何度も使い走りをさせられているのかもしれない。
「おい、あんた」
「俺かい」
I共和国人は急に男に話しかけた。
「そうだ。名前は何という」
「……言いたくない」
「はやく足を洗った方がいいぞ」
「そんな事は言われなくても分かっている。だが命が惜しい」
「あんたも脅かされているのか」
「あんたもか」
「ああ。家族を人質に取られているから、何度もやらされている」
「だったら、一回の取引の後で、口封じに殺されることはないんだな」
「それは分からん」
「何故だ」
「俺を脅している組織と、あんたを脅している組織は別だからだ」
「くそ。俺が愚かだったばかりに」
「俺はシンと言う。また出会う事があったら、互いの情報を交換して、逃げ出せるようにしたい」
「分かった。だがまだ信じることが出来ない。信じることが出来るようになるまでは、何も話せない」
「分かった。それでいい。これ以上ここにいると、組織に疑われるからもう行く」
I共和国人は男にそう言うと、急いで駅の方に向かって行った。
スマホに位置情報の共有アプリが仕込まれているのだろう。
男は自分がガラケーしか持っていない事を心底喜んだ。
もし持っていたら、自分も位置情報を知られていたと思ったからだ。
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