土魔法で富国強兵?

克全

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出会いの章

我儘

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「小判でも落ちていればいいのだが」
「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」
 男にとったら、何気ない一言だった。
 不用品の中に、何か売れる物はないかと、探している時に思わず出ただけの言葉だった。
 故郷を捨てる時に、多くの家財道具を持ってきてしまっていた。
 普通の人間なら、親戚と絶縁して家を出る時には、ほとんどの家財を捨てていくだろう。
 だが男には、二万冊の蔵書があった。
 男は本好きだったから、本を捨てることが出来なかった。
 だからこそ、無駄に広い古民家を借り、図書室を作ったのだ。
 その引っ越しの時に、多くの家財道具も一緒に運んできたのだった。
 引っ越し代は高価だったが、その御陰で家財道具が不足する事はなかった。
 ユーチューブで使う小道具に困る事もなかった。
 だが基本ものぐさな男は、蔵書以外の荷物は、段ボールの中にいれたままだった。
 使わないなら、持ってこなければいいのに、もったいないと思って引っ越し費用が高くなる馬鹿だった。
 だが桃と緑を預かり育てることになり、何か使える物はないかと、ようやく段ボールを開いて確認していたのだ。
 その時に偶然、母方の祖父からもらった小判を発見したのだった。
 本物の小判ではなく、模造品ではあったが、二十四金の小判だった。
 模造品と言うのは言葉が悪く、レプリカと言った方が正しいだろう。
 初孫の男の為に、母方の祖父が買ってくれた小判だ。
 気持ちの価値はともかく、二十四金で四・五匁(約十六・八グラム)だから、八万七二七六円の価値があった。
 小判を手に取った事で、思わずつぶやいてしまったのだ。
「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」
「どうしたんだい。御腹が空いたのかい」
「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」
 桃と緑は、男のズボンのすそを咥えて、外に出ようとするのだ。
 今迄は男の言う事をよく聞いて、自分達から外に出ようとしなかった桃と緑が、男を外に誘うのだ。
「駄目だよ。桃と緑を狙っている奴がいるかもしれないから、絶対に外に出てはいけないのだよ」
「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」
「本当にどうしたんだい。何か心配な事でもあるのかい」
「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」
 余りにも桃と緑が泣くし外に出たがるので、男は少し心配になった。
「絶対にここから動いては駄目だよ」
 男は家の奥に緑と桜を抱いて移動させ、厳重に戸締りをした。
 そうしないと、桃と緑が逃げ出してしまいそうな気がしたのだ。
 桃と緑の安全を確保してから、男は桃と桜が見ていた庭を確認するための出て行った。
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