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第一章

第14話:閑話・教科書・セバスチャン視点

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 イーライ様も無茶振りをしてくれる。
 孤児たちに教科書を与えつつ、借金にしない方法などほとんどない。
 全くないわけではないが、わたくしが考えた理想通りにはいかないだろう。
 全ての孤児が性根のよい子ではないのだ。
 必ず他人の教科書を盗んで売ってしまおうとする者がでてくる。
 よくある苛めで、他人の教科書を破り焼いてしまう者も出てくるだろう。

 そんな事件が起こったら、イーライ様が心を痛められる。
 前世の事を思い出して、その時の苦痛を再び感じてしまわれる。
 できるならそのような思いをさせたくないのだ。
 それを防ぐ方法は、買わせた教科書を授業が終わったら教師が預かる事だ。
 だがそうすると、孤児たちが予習復習できなくなる。
 まあ、教科書なしに予習復習するのは今と同じだな。

 だが必ず貴重な教科書を、教師の隙をついて盗もうとする者が現れるだろう。
 孤児たちの間での盗みや暴行は防げるが、これは防ぎようがない。
 毎回教師に全ての教科書を孤児院から持ち出し、再びもってこいとは言えない。
 この世界には自動車などなく、ほとんどの人間は歩いて移動するのだから。
 そうなると、教科書などを保管している部屋を警備する人手が必要になる。
 こんどは、教科書などの貴重品を警備する人件費が孤児たちにのしかかってくる。

 いや、それよりも考えておかなければいけないのは、教科書を盗もうとした孤児を捕まえた場合に、どのような罰を与えるかだ。
 いや、いや、その前に教科書泥棒があった事をイーライ様にお話しするかだな。
 自分が教科書を与えると決めたせいで、孤児たちを盗みに走らせてしまったのではないかと、心を痛められる事だろう。
 イーライ様にそのような思いをさせてまで孤児たちに教科書を与えるべきなのか。

「何を悩んでいるのだ、セバスチャン」

「これは、お見苦しい姿をお見せしてしまいました」

「いや、とても貴重な姿を見せてもらえたと喜んでいるよ。
 正直、セバスチャンがこのように懊悩するのを始めて見たよ。
 すべてはイーライの我儘のためであろう。
 イーライをあのような理想の囚われる子にしてしまったのは、私のせいだ。
 私は自分の理想を追い求めるために、セバスチャンに無理を言い続けた。
 その姿を見て育ったイーライが、同じようにセバスチャンに無理を言ってしまう」

 公爵閣下は全て自分の性格に責任があるように言われるが、私にも責任がある。
 もっと厳しくお育てしていれば、このような事にはならなかった。
 ご成長に合わせて適度な試練をお与えするようにしていれば、もっと強く育たられたかもしれないのに、あの時の私にはそこまでの覚悟がなかった。
 養母にもっと厳しくお育てするように言われても、できなかった。

 あの養母の事だから、私が厳しくできないのを知っていて、公爵閣下の養育をさせたのかもしれない。
 イーライ様をお育てする時の訓練として、公爵閣下の養育係をやらせたのかもしれないと思うと、更に公爵閣下に申し訳なく思ってしまう。

「そんなことはありません、公爵閣下。
 イーライ様は決して無理など申されていません」

「いや、分かっているよ、セバスチャン。
 私だってセバスチャンから教えを受けた身なのだよ。
 セバスチャンが何を思い苦しんでいるかくらいは分かるよ。
 だからこそ、私にも協力させて欲しい。
 教科書の件は、私がセバスチャンに命じた事にするのだ。
 イーライの頼みでセバスチャンが孤児たちに貸し与えるのではない事にする。
 そうすれば、イーライの事だ、何かあった時には私やセバスチャンが愛してくれていて、そのような方法をとたっのだと思ってくれるだろう。
 孤児たちに厳罰を与えるのも、公爵からの貸与品を傷つけたり盗んだりしたという事で、イーライの心を痛める事なく厳罰を与えられるのではないか。
 いや、心は痛めるだろうが、少しは救いになるのではないか」

「公爵閣下ご配慮ありがたくお受けさせていただきます。
 ただ、公爵閣下様だけから孤児たちに貸し与えるのではなく、奥方様も加わられた、公爵ご夫婦からの貸与にさせていただければ、ご両親に愛情を感じられます」

「やれ、やれ、どうも私は最後の詰めが甘いようだな」
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