上 下
10 / 70
第一章

第10話:断罪

しおりを挟む
 俺たちの目の前に礼をとった家臣たちが沢山いる。
 だがその礼が形だけのモノであることは、家臣たちの目を見れば分かる。
 彼らが佞臣や君側の奸と罵るセバスチャンだけならともかく、父上や母上にまで憎しみの目を向けているのだから、彼らが言っている事は嘘なのだろう。
 セバスチャンを排除して力を失った父上と母上も害するつもりだ。
 俺を心から愛してくれている父上と母上を害そうとする者は絶対に許さない。

「この度の謀叛の件、絶対に許すわけにはいかぬ。
 特に我が愛しいイーライを偽物と言い張って、殺そうとした事は許し難い」

「お待ちくださいませ、公爵閣下。
 我が息子も家臣もそのような事をするような男ではありません。
 これも公爵閣下を騙して、公爵家の家政を私利私欲で独占しているセバスチャンの悪巧み、嘘偽りでございます、どうか騙されないでいただきたい。
 この件に関しましては、王家もとても関心を寄せられておりますから」

「お前は、私が、セバスチャンに騙され操られるような愚者だと言うのだな。
 そして、公爵家の家政に王家が口出しできる前例を作れと言っているのだな」

 珍しい事に、父上が本気で怒っておられる。
 自分を馬鹿だと言われた事も腹が立つようだが、心から信用信頼しているセバスチャンを佞臣と言われた事が、なによりも腹が立つのだろう。
 それに、どの貴族家でも王家が家政に口出しする事を嫌っているのに、家臣のくせに王家に尻尾を振って、主家を売って利益を得ようとするのが腹立たしいのだろう。
 まあ、その貴族や家臣の常識は、全部セバスチャンに教わった事だけどな。

「いえ、いえ、公爵閣下が愚かなのではなく、セバスチャンが狡猾すぎるのです。
 王家が家政に口を出すと申されますが、我が家は王家の分家ではありませんか。
 王家が分家の事を心配するのは、肉親の情として当然の事でござます」

 本当に口の上手い奴だが、その口も王家という後ろ盾があるから回るのだろうな。
 王家に見捨てられたらどのような反応をするのだろう。
 セバスチャンに王家とこいつらの関係を断つ方法を聞いてみようか。
 俺の魔力でどうにかなる事なら、協力は惜しまないのだが。

「おい、自白した連中を連行しろ」

 普段は家臣相手でも優しい言葉遣いの父上がもの凄く苛立った口調になっている。
 父上をここまで怒らせるような家臣なんていらない。
 人間相手に暴力は振るわないと誓ったけれど、ここは誓いを破るべきかな。
 それとも前回のように全員眠らせて、後はセバスチャンに任せようか。

「全て私がやりました、イーライだと分かっていて捕らえようとしました。
 父上の命じられた通り、イーライを薬物漬けにして傀儡にする予定でした。
 オードリーが大人になったら俺の子を産ませて、公爵家を乗っ取る心算でした」

「嘘でございます、セバスチャンが違法な魔術で偽りを言わせているのです。
 王家の、王家の調査を受け入れていただきたい。
 そうすれば、セバスチャンの悪事が証明されます」
 
 亡くなられた祖父に不正を見つけられ、強制隠居させられたくせに、その事を棚に上げて勝手な事を言っている。
 お前の息子や家臣は、俺が正規の自白魔術をかけて白状させたのだ。
 王家が調べようと覆ることはないが、王家は違法な魔術を使えば別だ。

 こいつらの言っている事を考えれば、王家は絶対に正しい裁きをしないだろうな。
 それにしても、俺を薬漬けにする事を考えていたのか。
 俺の事はまだいいが、妹に子供を産ませて公爵家を乗っ取るだと、もう許さん!
 誓いを破ってぶち殺してやる、と直ぐにでも攻撃魔術を放ちたいが、誓い以前に、俺に人間を攻撃する事ができるのだろうか。

「イーライ様、全員眠らせてくださりさえすれば、全てわたくしがいたします。
 イーライ様の手を汚させるような事はりませんから、ご安心ください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。 ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。 犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。 世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。 彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。 世界は瀕死だったーー。 世界は終わりかけていたーー。 世界は彼を憎んだーー。 まるで『鬼』のように残虐で、 まるで『神』のように強くて、 まるで『鬼神』のような彼に、 人々は恐れることしか出来なかった。 抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。 世界はもう終わりだと、誰もが思った。 ーー英雄は、そんな時に現れた。 勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。 彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。 しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...