6 / 7
第一章
第6話:魔獣
しおりを挟む
「気を抜くな、敵は狡猾だぞ!」
不意を突かれてしまった、油断大敵とは正にこの事だ。
最下級の男爵であろうと、領主として責任があるのだ。
ここで殺されてしまったら、残された領民が大いに困ることになる。
それに、ここで魔獣を防ぎ止めなければ、城壁修理が終わっていない古い小城でしかない領都は、簡単に魔獣に蹂躙されてしまうだろう。
それにしても、魔獣とは思えない狡猾な攻撃をする。
こちらが攻撃に出て形勢を逆転させようとすると、直ぐに後退してしまう。
こちらが体制を整えようとすれば、無理押ししてでも邪魔をする。
その駆け引きは、とても本能だけで動いている魔獣とは思えない。
まりで人間が指揮しているようだが、そんな事があり得るのだろうか?
「男爵閣下、このままでは背後に回られてしまいます。
私が攻め込んで時間を稼ぎますから、閣下は兵を纏めて後退してください」
騎士の一人が決死の覚悟で突撃してくれようとしています。
もしこれが成功すれば、わずかな時間を稼ぐことができるでしょう。
ですが、人間の言葉を理解できる魔獣がいたり、人間が指揮していたりするなら、この言葉を理解していったん後退するはずです。
言葉で指揮するのは危険かもしれません
「おい、次からサインで指揮するから、おいと言ったらこちらを見ろ」
私はそう言うと同時にサインによる指示をしました。
戦闘の最中にいちいち後方を振り返ってサインを確認するなど、無駄で危険な事なのですが、敵の裏をかかなければいけない時に必要な事です。
普通の貴族が持つ領軍では、ここまでの訓練はしていませんが、父上が大将軍を務めるゴルドン伯爵家の騎士は、王家騎士団を上回る練度を保っています。
ゴルドン伯爵家から私に付けられた騎士も徒士も、同じように高い練度です。
そうでなければ、魔獣たちに不意を打たれた時に全滅していました。
「閣下もおかしいと感じておられたようですね、こいつらはずる賢過ぎます。
どう考えても普通の魔獣じゃない、誰かに指揮されています。
そうでなければ、魔獣が連携を取って攻撃するはずがない」
騎士の一人が確信をもって言い切ります。
他の騎士も徒士もうなずいています。
誰ひとり無傷の者はいませんが、致命傷を負った者もいません。
彼らの獅子奮迅の戦いぶりは、当主として誇らしく思います。
まあ、彼らを鍛えたのは父上ではありますが、愚かな領主なら、わずかな期間であっても、彼らの忠誠心を失う事もあるのです。
少なくとも私は、彼らの忠誠心を維持できる領主です。
「おい、やるぞ」
私は彼らに呼び掛けて、次の作戦を命じました。
ハンドサインですから、言葉が理解できる魔獣がいても、指揮する人間がいても、もう私の作戦を知る事はできません。
次こそ魔獣どもに思い知らせてやります!
不意を突かれてしまった、油断大敵とは正にこの事だ。
最下級の男爵であろうと、領主として責任があるのだ。
ここで殺されてしまったら、残された領民が大いに困ることになる。
それに、ここで魔獣を防ぎ止めなければ、城壁修理が終わっていない古い小城でしかない領都は、簡単に魔獣に蹂躙されてしまうだろう。
それにしても、魔獣とは思えない狡猾な攻撃をする。
こちらが攻撃に出て形勢を逆転させようとすると、直ぐに後退してしまう。
こちらが体制を整えようとすれば、無理押ししてでも邪魔をする。
その駆け引きは、とても本能だけで動いている魔獣とは思えない。
まりで人間が指揮しているようだが、そんな事があり得るのだろうか?
「男爵閣下、このままでは背後に回られてしまいます。
私が攻め込んで時間を稼ぎますから、閣下は兵を纏めて後退してください」
騎士の一人が決死の覚悟で突撃してくれようとしています。
もしこれが成功すれば、わずかな時間を稼ぐことができるでしょう。
ですが、人間の言葉を理解できる魔獣がいたり、人間が指揮していたりするなら、この言葉を理解していったん後退するはずです。
言葉で指揮するのは危険かもしれません
「おい、次からサインで指揮するから、おいと言ったらこちらを見ろ」
私はそう言うと同時にサインによる指示をしました。
戦闘の最中にいちいち後方を振り返ってサインを確認するなど、無駄で危険な事なのですが、敵の裏をかかなければいけない時に必要な事です。
普通の貴族が持つ領軍では、ここまでの訓練はしていませんが、父上が大将軍を務めるゴルドン伯爵家の騎士は、王家騎士団を上回る練度を保っています。
ゴルドン伯爵家から私に付けられた騎士も徒士も、同じように高い練度です。
そうでなければ、魔獣たちに不意を打たれた時に全滅していました。
「閣下もおかしいと感じておられたようですね、こいつらはずる賢過ぎます。
どう考えても普通の魔獣じゃない、誰かに指揮されています。
そうでなければ、魔獣が連携を取って攻撃するはずがない」
騎士の一人が確信をもって言い切ります。
他の騎士も徒士もうなずいています。
誰ひとり無傷の者はいませんが、致命傷を負った者もいません。
彼らの獅子奮迅の戦いぶりは、当主として誇らしく思います。
まあ、彼らを鍛えたのは父上ではありますが、愚かな領主なら、わずかな期間であっても、彼らの忠誠心を失う事もあるのです。
少なくとも私は、彼らの忠誠心を維持できる領主です。
「おい、やるぞ」
私は彼らに呼び掛けて、次の作戦を命じました。
ハンドサインですから、言葉が理解できる魔獣がいても、指揮する人間がいても、もう私の作戦を知る事はできません。
次こそ魔獣どもに思い知らせてやります!
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】真実の愛はおいしいですか?
ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。
稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。
王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。
お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。
でも、今は大きくなったので見えません。
―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語
※童話として書いています。
※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。


身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!
ジャン・幸田
恋愛
私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!
でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。

条件は飼い犬と一緒に嫁ぐこと
有木珠乃
恋愛
ダリヤ・ブベーニン伯爵令嬢は、姉のベリンダに虐げられる日々を送っていた。血の繋がらない、元平民のダリヤが父親に気に入られていたのが気に食わなかったからだ。その父親も、ベリンダによって、考えを変えてしまい、今では同じようにダリヤを虐げるように。
そんなある日、ベリンダの使いで宝石商へ荷物を受け取りに行くと、路地裏で蹲る大型犬を見つける。ダリヤは伯爵邸に連れて帰るのだが、ベリンダは大の犬嫌い。
さらに立場が悪くなるのだが、ダリヤはその犬を保護し、大事にする。けれど今度は婚姻で、犬と離れ離れにされそうになり……。
※この作品はベリーズカフェ、テラーノベルにも投稿しています。

モラハラ王子の真実を知った時
こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。
父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。
王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。
王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。
いえ……幸せでした。
王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。
「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる