浮気夫に怒りの鉄拳

克全

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第一章

第1話:浮気現場

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「愛しているよ、ギネビア、君こそ真の女だ」

「ああ、愛しているわ、スルト、貴男こそ真の男よ」

 またです、また屋敷に女を連れ込んで浮気です。
 結婚してわずか一カ月、毎日公爵邸に愛人を連れ込んでいます。
 まあ、政略結婚させられる貴族は、夫婦それぞれ愛人を持つのが当たり前なのですが、でもそれは跡継ぎを設けてからというのが常識です。
 とはいえ、結婚初日二日目と、他の女の移り香を身にまとって寝室に来た夫に我慢できず、顔の形が変わるほどの鉄拳制裁をしたのは私ですが……

「この嫋やかな身体、筋肉女とは全く違うよ」

「まあ、ふっふっふっふっ、筋肉女とは誰の事かしら」

 本当に嫌な女です。
 鍛え上げた私の身体を揶揄する事で、自分の女らしさを自慢しています。
 夫のスルトも、私を罵る事で愛人の歓心を買おうとしています。
 そんな方法でしか女を喜ばせられない無能な男です。
 いえ、他にもお金がある事と公爵家の跡継ぎという自慢もありましたね。
 全て先祖から引き継いだだけで、自分で手に入れた物など何一つありません。

「ノヴァだよ、戦う事しかできない、頭が空っぽな馬鹿女さ」

「まあ、馬鹿女ですって、ふっふっふっふっ。
 馬鹿で戦争好きだなんて、なんて野蛮なのかしら」

 胸が、むか、むか、してきました。
 四大公爵家は、いざとなれば、王家王国を守る盾にも剣にもならなければいけないのに、ろくに剣も持てない軟弱者が何を言っている!
 板金鎧を着たら立ち上がる事もできないなんて、それで公爵家の跡継ぎとは笑止!
 しかし、今まで気にもしていませんでしたが、相手の女は誰です?

「そうだ、そうなのだよ、社交界に必要な優美さもなければ、政敵をあしらう賢さの欠片もない、まさに野蛮人さ。
 ギネビアのような賢明で優美な貴婦人とは、天と地、雲泥の差だよ」

「ああ、もっと、もっとよ、もっと愛して。
 ジリドのような老人とは硬さも強さもぜんぜん違うわ」

 ジリドとギネビア!
 これでようやく分かりました、相手はリャノン公爵家の若い後妻ですね!
 ジリド公は跡継ぎに恵まれないので、仕方なく若い愛人を正妻に直したと聞いていましたが、跡継ぎが生まれたとは聞いていません。
 愛人を持つ事自体は貴族の嗜みですが、跡継ぎが生まれる前の貴族家正妻と浮気をするのは、貴族社会では絶対のタブーです。
 これは、離婚する好機!

「動くな!
 スルト!
 この大馬鹿者が!
 四大公爵家で戦争を始めたいのか!
 跡継ぎが生まれる前の貴族家夫人との不義は、社交界最大のタブーだぞ」

「う、あ、いや、これは、違う、違うのだ」

「キャアアアアア!
 いや、いや、いや、いや!
 私は騙されたの。
 私は襲われて、そう、無理矢理襲われたのよ!」

「う、う、う、抜けん、抜けんぞ」

 この、破廉恥が!
 私は、この浮気の証拠を残す意味で、二人の顔を殴ってやりました。
 ちゃんと手加減しましたから、顎の骨が砕けた程度です。
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