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第一章
第5話:生存本能
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人間の心と頭と身体は別物なのだ。
身体は生きたいと思っていても、心が人間を死なせてしまう事がある。
心が死にたいと思っていても、身体が本能的に生かしてしまう事がある。
今は、食欲という生物の根源的な本能が、皇太子の心を上回った。
飢餓状態の極限で、回復魔法で無理矢理生き続けさせられている身体が、皇太子の心を捻じ伏せたのだろう。
「もう止められないわよ、皇太子殿下。
完全絶食はできても、眼の前の美味しい料理をひと口だけ食べさせられて、眼の前に御馳走を並べられたら、絶対に我慢はできないモノよ」
召喚聖女ミネルバの言葉通りだった。
ひと口、今まで一度も食べた事がない、途轍もなく美味しい親鶏のつくねを食べた皇太子は、貪るように眼の前の焼き鳥の喰らいついていた。
日頃の行儀がいい皇太子とは思えない、マナーなど全く気にしていな、本能のままに喰らう、貪るような食べ方だった。
だがその姿が、父親である皇帝や母親である皇后、常に側近くに仕えていた近衛騎士達を心から安堵させ、涙さえ流させていた。
「まあ、一カ月も絶食した後でこんな量をこんな食べ方したら、胃腸がとんでもないことになって、上げ下しの大忙しになるでしょうが、それが生きている証拠よ。
頭や心で考えることが人間には大切な事だけど、時には本能のまま、感情の赴くままに生きるのも大切よ」
召喚聖女ミネルバの言葉通り、食後の皇太子は便所と洗面から動けないくなった。
時に粗相する事さえあったが、それが皇太子を吹っ切らせたのかもしれない。
それとも、ミネルバの叱咤激励に奮起したのかもしれない。
「あんたねぇ、親友と婚約者に裏切られて落ち込んでいたそうだけど、それって半分はあんたの責任だけど、半分は国の責任だからね。
親友を本性を見抜けなかったのはあんたの責任、だけど政略で選ばれた婚約者が糞女だったのは、国の責任だからね。
だけど皇太子の間にそれが分かってよかったのよ。
そのまま腐った性根の自称親友が国の中枢に入っていたら、国民が迷惑したわよ。
婚約者もそう、下手したら親友の子供が次の皇帝に成っていたかもしれないのよ。
アンタは運がいいの、この国も運がよかったの。
それに見てみなさい、ここにいるアンタの友達を、みんな心からアンタの事を心配してくれて、涙さえ流してくれているじゃない。
こんなに親友がいて、なに死のうとしてんのよ、この大馬鹿が!」
召喚聖女ミネルバの言葉の叱咤激励に、皇太子の目から鱗が落ちた。
皇太子の前には、泣き笑いしながらも、ミネルバの言葉に恐縮している近衛騎士や侍従がいた。
皇太子の目の前が光り輝いていた。
身体は生きたいと思っていても、心が人間を死なせてしまう事がある。
心が死にたいと思っていても、身体が本能的に生かしてしまう事がある。
今は、食欲という生物の根源的な本能が、皇太子の心を上回った。
飢餓状態の極限で、回復魔法で無理矢理生き続けさせられている身体が、皇太子の心を捻じ伏せたのだろう。
「もう止められないわよ、皇太子殿下。
完全絶食はできても、眼の前の美味しい料理をひと口だけ食べさせられて、眼の前に御馳走を並べられたら、絶対に我慢はできないモノよ」
召喚聖女ミネルバの言葉通りだった。
ひと口、今まで一度も食べた事がない、途轍もなく美味しい親鶏のつくねを食べた皇太子は、貪るように眼の前の焼き鳥の喰らいついていた。
日頃の行儀がいい皇太子とは思えない、マナーなど全く気にしていな、本能のままに喰らう、貪るような食べ方だった。
だがその姿が、父親である皇帝や母親である皇后、常に側近くに仕えていた近衛騎士達を心から安堵させ、涙さえ流させていた。
「まあ、一カ月も絶食した後でこんな量をこんな食べ方したら、胃腸がとんでもないことになって、上げ下しの大忙しになるでしょうが、それが生きている証拠よ。
頭や心で考えることが人間には大切な事だけど、時には本能のまま、感情の赴くままに生きるのも大切よ」
召喚聖女ミネルバの言葉通り、食後の皇太子は便所と洗面から動けないくなった。
時に粗相する事さえあったが、それが皇太子を吹っ切らせたのかもしれない。
それとも、ミネルバの叱咤激励に奮起したのかもしれない。
「あんたねぇ、親友と婚約者に裏切られて落ち込んでいたそうだけど、それって半分はあんたの責任だけど、半分は国の責任だからね。
親友を本性を見抜けなかったのはあんたの責任、だけど政略で選ばれた婚約者が糞女だったのは、国の責任だからね。
だけど皇太子の間にそれが分かってよかったのよ。
そのまま腐った性根の自称親友が国の中枢に入っていたら、国民が迷惑したわよ。
婚約者もそう、下手したら親友の子供が次の皇帝に成っていたかもしれないのよ。
アンタは運がいいの、この国も運がよかったの。
それに見てみなさい、ここにいるアンタの友達を、みんな心からアンタの事を心配してくれて、涙さえ流してくれているじゃない。
こんなに親友がいて、なに死のうとしてんのよ、この大馬鹿が!」
召喚聖女ミネルバの言葉の叱咤激励に、皇太子の目から鱗が落ちた。
皇太子の前には、泣き笑いしながらも、ミネルバの言葉に恐縮している近衛騎士や侍従がいた。
皇太子の目の前が光り輝いていた。
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