2 / 26
第一章
第2話:遠征・皇太子視点
しおりを挟む
「よくぞ我が国に来てくださいました、ジリアス皇太子殿下。
精一杯歓待させていただきます」
苛立ちと恐怖を抑えて、ミルガン国王が歓迎の言葉を口にしてくる。
本心は罵りの言葉を吐きたいのだろうが、皇国軍に王都を囲まれた状況では、本心を口にする事も表情に現す事もできない。
とても下劣な方法だと分かっているが、今の皇国はなりふり構っていられない。
どのように悪しざまに罵られようとも、聖女を見つけなければいけない。
「脅すような事までして、急に来てしまって申し訳ありません、ミルガン国王陛下。
我が国とっては存亡の危機ですから、どうぞお許しください」
それでも体裁は整えなければいけないので、形だけは詫びておく。
ミルガン国王にとっては、この言葉や態度が更にプライドを傷つけるだろう。
むしろ高圧的に振舞われた方が、遠慮なく心の中で罵ることができるからな。
いや、私がどんな態度をとっても、軍事力で脅されている事実は変わらないから、心の中で思いっきり悪口は言っているだろうな。
「いえ、お詫びの言葉など必要ありません。
事前に聖女様を探し出し、皇太子殿下の正妃に迎えるためという事はお聞きしておりますから、我が国の令嬢達は心待ちにしておりました」
時間が切迫しているから、もう聖女を探している事を隠す事はできない。
私の正妃として聖女を迎えるとなれば、聖女を殺して皇国を滅ぼそうとする者が現れると同時に、聖女との縁を利用して、自家自国の利益にしようとする者も現れる。
聖女が王侯貴族の家の生まれていたら、殺すよりも利用しようとするはずだ。
だが問題は聖女が平民に生まれていた場合だ。
「ミルガン国王陛下、貴族士族の令嬢だけでは困ります。
私が伝えた年の前後二年に生まれた女性は、平民を含めて全員集めてください。
平民であった場合は、その土地の領主の養女としてくだされば、その領主を私の義父として遇しますから、令嬢に限らないでください」
これだけはきちっと理解してもらわなければいけない。
平民が聖女では利が得られないと、隠されては困るのだ。
血のつながらない平民を養女にするのは、貴族のプライドが許さないかもしれないが、皇太子、次期皇帝の外戚となり、皇国で権力を手に入れられると理解できれば、そのプライドも捨ててくれるかもしれない。
それに、どうしようもなくなって、非情の手段をとってから、そちらで成果が出てくれても構わないと、皇帝陛下は思われている……
居所の分からない次代聖女が生きているから、皇国は困っているのだ。
行方不明の次期聖女が殺されてしまったら、新たな次期聖女が神々に選定される。
その兆候は、聖女ルミナスなら感じ取れる。
こんな方法を使ったら、皇国が神々に見捨てられる可能性もあるが、このまま時間切れで聖女ルミナスが亡くなってしまうよりは、まだわずかに皇国が生き延びられる可能性がある。
外道な方法を取った事には、内心忸怩たる想いがあるが、民を見殺しにはできないから、こればかりは仕方がない。
だが、できる事なら、正妃選びで次期聖女が見つけられるのが一番なのだが……
精一杯歓待させていただきます」
苛立ちと恐怖を抑えて、ミルガン国王が歓迎の言葉を口にしてくる。
本心は罵りの言葉を吐きたいのだろうが、皇国軍に王都を囲まれた状況では、本心を口にする事も表情に現す事もできない。
とても下劣な方法だと分かっているが、今の皇国はなりふり構っていられない。
どのように悪しざまに罵られようとも、聖女を見つけなければいけない。
「脅すような事までして、急に来てしまって申し訳ありません、ミルガン国王陛下。
我が国とっては存亡の危機ですから、どうぞお許しください」
それでも体裁は整えなければいけないので、形だけは詫びておく。
ミルガン国王にとっては、この言葉や態度が更にプライドを傷つけるだろう。
むしろ高圧的に振舞われた方が、遠慮なく心の中で罵ることができるからな。
いや、私がどんな態度をとっても、軍事力で脅されている事実は変わらないから、心の中で思いっきり悪口は言っているだろうな。
「いえ、お詫びの言葉など必要ありません。
事前に聖女様を探し出し、皇太子殿下の正妃に迎えるためという事はお聞きしておりますから、我が国の令嬢達は心待ちにしておりました」
時間が切迫しているから、もう聖女を探している事を隠す事はできない。
私の正妃として聖女を迎えるとなれば、聖女を殺して皇国を滅ぼそうとする者が現れると同時に、聖女との縁を利用して、自家自国の利益にしようとする者も現れる。
聖女が王侯貴族の家の生まれていたら、殺すよりも利用しようとするはずだ。
だが問題は聖女が平民に生まれていた場合だ。
「ミルガン国王陛下、貴族士族の令嬢だけでは困ります。
私が伝えた年の前後二年に生まれた女性は、平民を含めて全員集めてください。
平民であった場合は、その土地の領主の養女としてくだされば、その領主を私の義父として遇しますから、令嬢に限らないでください」
これだけはきちっと理解してもらわなければいけない。
平民が聖女では利が得られないと、隠されては困るのだ。
血のつながらない平民を養女にするのは、貴族のプライドが許さないかもしれないが、皇太子、次期皇帝の外戚となり、皇国で権力を手に入れられると理解できれば、そのプライドも捨ててくれるかもしれない。
それに、どうしようもなくなって、非情の手段をとってから、そちらで成果が出てくれても構わないと、皇帝陛下は思われている……
居所の分からない次代聖女が生きているから、皇国は困っているのだ。
行方不明の次期聖女が殺されてしまったら、新たな次期聖女が神々に選定される。
その兆候は、聖女ルミナスなら感じ取れる。
こんな方法を使ったら、皇国が神々に見捨てられる可能性もあるが、このまま時間切れで聖女ルミナスが亡くなってしまうよりは、まだわずかに皇国が生き延びられる可能性がある。
外道な方法を取った事には、内心忸怩たる想いがあるが、民を見殺しにはできないから、こればかりは仕方がない。
だが、できる事なら、正妃選びで次期聖女が見つけられるのが一番なのだが……
15
お気に入りに追加
1,594
あなたにおすすめの小説
わがまま妹、自爆する
四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。
そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
〖完結〗私は誰からも愛されないと思っていました…
藍川みいな
恋愛
クーバー公爵の一人娘として生まれたティナは、母を亡くした後に父セルドアと後妻ロザリア、その連れ子のイライザに使用人のように扱われていた。
唯一の味方は使用人のミルダだけ。
そんなある日、いきなり嫁ぐように言われたティナ。相手は年の離れた男爵。
それでもこの邸を離れられるならと、ティナはボーメン男爵に嫁いだ。
ティナを急いで嫁がせたのには理由があった。だが、ティナを嫁がせた事により、クーバー家は破滅する。
設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。
11話で完結になります。
※8話は残酷な表現があるので、R15になってます。
きっとやり直せる。双子の妹に幸せを奪われた私は別の場所で幸せになる。
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、問題児である双子の妹が妊娠をしたと知らされる。
しかも、相手は私の婚約者らしい……。
すると、妹を溺愛する家族は容姿が似ている妹と私を交換しようと言いだしたのだ。
そして問題児の妹になった私は家族の縁を切られ追い出されてしまったのだった。
タイトルが全く思いつかず一時間悩みました(笑)
※8話ホラー要素あり。飛ばしても大丈夫です。
さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます
夜桜
恋愛
令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。
アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる