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第一章

第2話:遠征・皇太子視点

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「よくぞ我が国に来てくださいました、ジリアス皇太子殿下。
 精一杯歓待させていただきます」

 苛立ちと恐怖を抑えて、ミルガン国王が歓迎の言葉を口にしてくる。
 本心は罵りの言葉を吐きたいのだろうが、皇国軍に王都を囲まれた状況では、本心を口にする事も表情に現す事もできない。
 とても下劣な方法だと分かっているが、今の皇国はなりふり構っていられない。
 どのように悪しざまに罵られようとも、聖女を見つけなければいけない。

「脅すような事までして、急に来てしまって申し訳ありません、ミルガン国王陛下。
 我が国とっては存亡の危機ですから、どうぞお許しください」

 それでも体裁は整えなければいけないので、形だけは詫びておく。
 ミルガン国王にとっては、この言葉や態度が更にプライドを傷つけるだろう。
 むしろ高圧的に振舞われた方が、遠慮なく心の中で罵ることができるからな。
 いや、私がどんな態度をとっても、軍事力で脅されている事実は変わらないから、心の中で思いっきり悪口は言っているだろうな。

「いえ、お詫びの言葉など必要ありません。
 事前に聖女様を探し出し、皇太子殿下の正妃に迎えるためという事はお聞きしておりますから、我が国の令嬢達は心待ちにしておりました」

 時間が切迫しているから、もう聖女を探している事を隠す事はできない。
 私の正妃として聖女を迎えるとなれば、聖女を殺して皇国を滅ぼそうとする者が現れると同時に、聖女との縁を利用して、自家自国の利益にしようとする者も現れる。
 聖女が王侯貴族の家の生まれていたら、殺すよりも利用しようとするはずだ。
 だが問題は聖女が平民に生まれていた場合だ。

「ミルガン国王陛下、貴族士族の令嬢だけでは困ります。
 私が伝えた年の前後二年に生まれた女性は、平民を含めて全員集めてください。
 平民であった場合は、その土地の領主の養女としてくだされば、その領主を私の義父として遇しますから、令嬢に限らないでください」

 これだけはきちっと理解してもらわなければいけない。
 平民が聖女では利が得られないと、隠されては困るのだ。
 血のつながらない平民を養女にするのは、貴族のプライドが許さないかもしれないが、皇太子、次期皇帝の外戚となり、皇国で権力を手に入れられると理解できれば、そのプライドも捨ててくれるかもしれない。

 それに、どうしようもなくなって、非情の手段をとってから、そちらで成果が出てくれても構わないと、皇帝陛下は思われている……
 居所の分からない次代聖女が生きているから、皇国は困っているのだ。
 行方不明の次期聖女が殺されてしまったら、新たな次期聖女が神々に選定される。
 その兆候は、聖女ルミナスなら感じ取れる。

 こんな方法を使ったら、皇国が神々に見捨てられる可能性もあるが、このまま時間切れで聖女ルミナスが亡くなってしまうよりは、まだわずかに皇国が生き延びられる可能性がある。
 外道な方法を取った事には、内心忸怩たる想いがあるが、民を見殺しにはできないから、こればかりは仕方がない。
 だが、できる事なら、正妃選びで次期聖女が見つけられるのが一番なのだが……
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