運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全

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第1章

第57話:国王の面目

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 国王との交渉はまとまったが、直ぐに決まったわけではない。
 当然だが、国王には面目があり、行商人代表と対等に交渉するのを嫌がった。
 
 僕たちが守らなければいけないのは面目ではなく行商仲間の命だ。
 別に交渉する相手が国王自身でなくてもかまわない。
 それに、こちらもロック鶏の主人である僕ではなく行商人代表が交渉している。

「分かった、そちらの要望通り、人質は王家が責任をもって取り返す。
 愚かな貴族は王家が必ず滅ぼす。
 だから領地の割譲も賠償金の支払いもなしにいしていただく。

「領地も賠償金も必要ないが、人質の命は絶対に保証していただく。
 もし、1人でも殺されていたら、王都の封鎖を続ける。
 1人の人間も出入りさせず、全ての人間が餓死するまで続ける」

「待ってくれ、流石に1人の人質も死なさないと言うのは厳しい。
 既に何人か殺されているかもしれない」

「行商人は全て血のつながった一族だ。
 それが不当に拘束され殺されたとあれば、報復するのが当然だろう。
 そのような愚かな貴族を家臣に加えていた責任は、王に取ってもらう。
 一族が1人殺されていたら、王から順に10人ずつ殺す」

「何を勝手な事を言っている、王族の命を行商人ごときと同列に、ギャッ!」

「ウッゲエエエエ」

 目の前で人が殺されてしまった。
 行商人を見下す発言をした貴族を。ジョセフ代表が斬り殺してしまった。
 とっさに国王を守ろうと騎士たちが動いたが、ロック鶏に邪魔された。
 
 王家との交渉をするのに、前もって準備をしていた。
 卑怯な王家が奇襲を仕掛けてくる可能性が有ったから。
 そんな時のために、王族や騎士が動いたらロック鶏が邪魔する事になっていた。

 国王や騎士を殺したわけではない。
 僕たちが巻き込まれるような羽ばたきをした訳でもない。
 羽を使って少しはたいただけだ。

 強大なロック鶏が軽くはたいただけでもとんでもない破壊力がある。
 護衛騎士は全員吹き飛ばされて気を失った。
 それを目の前で見た国王は恐怖のあまりおしっこをちびった。

 お忍びで身分を隠していたとはいえ、王が恐怖のあまりおしっこをちびったのだ。
 とんでもない大恥をかいた事になる。
 直接の原因を作った愚かな貴族が恨まれるのは当然だった。

 僕は人が殺される光景を見て吐いているので、ロック鶏に命令はできない。
 でも、前もって指示していた事はちゃんとやってくれる。

 だから吐いている僕がロック鶏の主人だとは、王家側の誰も思わない。
 ジョセフ代表がロック鶏を操っていると勘違いしてくれる。

 王家側は国王を人質に取られた形で交渉する事になった。
 ここぞとばかりにジョセフ代表が強気の交渉をする。
 ジョセフ代表の言い分がほぼ全て通った。

 王家は全貴族に使者を出して愚かな貴族を討伐する。
 人質は極力全員無事に救出する。
 もし王侯貴族の責任で人質が殺されたら、その貴族と家族を皆殺しにする。

 既に殺されてしまっている人質がいたら、その賠償金を支払う。
 その金額は過去に王子が人質になった時と同額とする。

 行商人と王子を同格とする非常識な金額だが、王が人質になっているから、王家側は逆らう事ができなかった。

 王家が国内全貴族に派遣する使者は、僕のロック鶏に運ばれて行く。
 王家の命令だけでなく、ロック鶏が国内全貴族を脅かすのだ。

 王家の使者が交渉する時間だけだが、その貴族の領都もロック鶏に封鎖される。
 王家の命令を受けなければ領都を封鎖され続ける。

 形だけ受けて出陣しなければ、再びロック鶏に領都を封鎖されるのだ。
 命令と脅迫を受けた全貴族が領主軍を出陣させた。
 行商人たちを人質にした愚かな貴族は、国内全貴族に領都を囲まれた。

「直ぐに人質を解放しろ、解放しなければ攻め滅ぼすぞ!」
「お前のせいで王都が封鎖されたままだ、このままでは隣国に攻め込まれる!」
「お前の愚行で商人が何所にも行けない、辺境の村が放棄されてしまったぞ!」

 愚かな貴族のせいで、お金のかかる出陣をさせられた王侯貴族は激怒している。
 国王が恥をかかされたのを怒る忠誠心豊かな者もいれば、国の将来を案じて怒る先の見る者もいる。

 1番多いのは、商人が行き来しなくなった事で多くの村が放棄され、税を取れなくなって怒る王侯貴族だった。
 
 単に税が集められなくなっただけでなく、村を捨てた人々が大きな都市に流れ込み、治安が極端に悪くなっているのだ。

 このままでは、餓死したくなくて犯罪に走る者が数多く現れ、下手をすれば領主一族が殺される事態にもなりかねない。

 全貴族が、そんな事態を引き起こした愚かな領主を殺したくて仕方がないのだ。
 だが、下手な攻撃をして人質が殺されたら、自分がロック鶏に殺されると思っているので、攻撃したくてもできないのだ。

「これが最後の交渉だからよく聞け!
 捕らえている行商人たちを全て解放して賠償金を支払え。
 そうしたらロック鶏の領都封鎖を止めてやる」

 ここまで言ったジョセフ代表は1度言葉を止めて、自分の話が相手の心に沁み込むのを待って続きを話しだした。

「だが、人質を解放しない、賠償金を支払わないと言うのなら、ここに集まった全軍で領都と領城を攻め滅ぼす。
 城門や城壁が何の役にも立たない事を見せてやる」

 ジョセフ代表が話し終わると同時にロック鶏が動いた。
 鋭く大きな爪で城門と城壁を粉々に破壊したのだ!
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