勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

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第一章

第23話:馬上槍試合の代表

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 聖歴1216年2月8日:エドゥアル視点

「ぼく、やります」
「わたしも、わたしもやります」
「エドゥアル様、私にやらせてください。
 こんな幼い子供たちに、危険な馬上槍試合なんてさせられません」
「いえ、俺にやらせてください、男娼をさせられていたとはいえ、俺も男です。
 女子供に危険な馬上槍試合なんてやらせられません」

 俺が馬上槍試合に参加した者はいないか聞くと、ほぼ全員が参加すると言った。
 あまりにも幼過ぎる者や、戦えそうに見える男は除外したのだが、女子供には危険な事はやらせられないと、除外者の中からも代表を望む者が出てきた。
 とてもうれしい誤算で、代表にしてやりたい気持ちもわいてきたのだが、弱弱しい女子供に偽勇者や屈強な騎士を倒させたいので、認める訳にはいかない。

「みんなの気持ちはよく分かったが、全員を馬上槍試合に参加させる事はできない。
 だから、これから行う訓練の結果を見て代表を選ぶ。
 アリエノールとペトロニーユもそのつもりで訓練してくれ。
 幼い子供に負けるようでは、口で何を言うおうと本気だとは思えない。
 本気で戦う気のない者を、真剣に練習した者を押しのけて代表にする事はない」

「「「「「はい」」」」」

 アリエノールとペトロニーユは真剣に訓練する気になっているようだ。
 幼い子供たちも自分が言った事に責任を持とうとしている。
 それは子供たちの世話をしている大人たちも同じだ。
 代表に選ぶ気のない男も訓練には参加させる。
 子供たちが騎士にも勝てると分かったら、無理に代表になろうとはしないだろう。

「では、何より大切なパートナーを選び育てるところから始める。
 1番大切なパートナーとは、馬上槍試合に一緒にでる騎獣だ。
 普通は特別な訓練をした軍用馬に乗って馬上槍試合に出るのだが、今回は軍用馬だけでなく、大型の狼や野牛、人が手懐けられる竜も用意した。
 竜をパートナーにできれば、それだけで圧倒的に有利だぞ、頑張れ」
 
 俺がそう口にすると、元奴隷だった者たちが笑顔を浮かべた。
 彼女たちはすでに騎竜をパートナーにしているから、圧倒的に有利だ。
 長い首と尻尾は戦いはで強力な武器になる。
 軍馬のように鎧を着させなくても、強固な鱗に護られている。
 真っ青になっているのは、騎竜をもたない2人の公爵令嬢だ。

「真の勇者エドゥアル様、私たち姉妹にも騎竜をお貸しください」

 妹のペトロニーユが決意の籠った表情で頼んでくる。
 元奴隷の女達から騎竜は俺から貸し与えられていると聞いているのだろう。
 真の勇者、真の勇者とお世辞を言う必要などない。
 竜が認めるのなら、いくらでも貸してやる。

「真の勇者エドゥアル様、エドゥアル様はアキテーヌ公爵位も私たち姉妹も、面倒なだけだから不要だと申されました。
 だから何を代償にお願いすれば騎竜を貸し与えてもらえるか分かりません。
 私がお渡しできるものなら何でも差し上げます。
 ですから私に騎竜を貸し与えてください」

 姉のアリエノールが決意のうかがえる表情で訴えてきた。
 何としてでも馬上槍試合の代表になろうとする気概が感じられる。
 名誉と誇りを失う事が怖いと言っていた以前の姿とは一変している。
 幼く小さな子供が代表なると言った姿を見ていたからな。
 子供たちの決意に自分の卑小な恐れを恥じたのかもしれない。

「それは構わないが、最低限の能力は示さないといけない。
 俺とラファエルの力で、どの竜も人に従うようにはしている。
 野生の竜や人が飼いならしている竜よりは従順だ。
 だが、余りに卑怯な人間や無能な人間には従わない。
 竜の力を使って民を襲うような事になってはいけないから、ある程度の人格を備えている人間しか竜の主人にはなれない」

「分かりました、私の決意を竜に示します」

 アリエノールが必死の表情で竜に近づいて行く。
 俺に調教した後だと言われても、普通は竜に近づく事なんてできない。
 いつ竜に頭を食い千切られるのか分からないのだから。

「私も竜をパートナーにしてみせます」

 今度は妹のペトロニーユが決死の表情で竜に近づいて行く。
 死の恐怖に耐えて竜に近づけるのなら大丈夫だ。
 俺とラファエルが魅了し調教した竜は人間の本質を見抜く。
 今の2人が竜に喰い殺される事はない。
 将来性根が腐ったらどうなるかは保証できないけれどな。

「さて、次は君たちにパートナーを選んでもらうのだが、無理にこの中から選ばなくても、ずっと一緒にいてくれた愛玩竜をパートナーに選んでもいいよ。
 ただ愛玩竜をパートナーに選んだときは、もう今のように抱く事ができなくなる。
 君たちを背中に乗せて戦えるくらい強く大きくなる。
 それでも好いのなら、愛玩竜を進化させてあげよう、どうする?」

 俺が何を言っているのか分からないのか、子供たちは直ぐに返事をしない。
 理解していたとしても、直ぐに返事をする事は難しいだろう。
 愛玩竜を与えられてからは、ずっと抱きしめて眠っていたのだ。
 親兄妹を失った小さな子供たちが、そんなかわいい愛玩竜が強く大きくなる事を、嫌だと思うのは当然かもしれない。

「このこがおおきくつよくなったら、もういっしょにねられないの」

 幼い女の子が泣きそうな表情で小さく聞いてきた。

「そんな事はないよ、大きく強くなっても一緒に眠れるよ。
 今は君がその子を抱きしめて眠っているけれど、その子が大きく強くなったら、その子が君を抱きしめてくれるよ」

「いたいことない、このこがいたいことない?」

 自分が傷つけられ痛い思いをした事を思い出しているのだろうか?
 愛玩竜が同じように痛い思いをしないか心配しているのだろう。
 こんな優しい子を傷つけ痛い思いをさせるような外道は絶対に許さん。
 もう1度徹底的に調べて、殺し損ねているのなら、必ず殺してやる。

「ああ、大丈夫だ、ぜんぜん痛くないよ」

「このこにきいてくれる、おおきくなりたいかきいてくれる?」

「ああ、いいよ、この子に聞いてあげるよ。
 君に抱きしめられる方がいいのか、君を護れるほど大きく強くなって、君を抱きしめられるようになりたいのか、ちゃんと聞いてあげるからね」

 キュルルルル!

「この子は、大きく強くなって君を護れるようになりたいそうだよ。
 この子を大きい強くしてもいいかい?」

「うん」

「『十三穴成長進化』」

 俺は愛玩竜の経穴13カ所を突いて魔力をたっぷりと流した。
 内臓、チャクラ、経絡に俺の魔力を流してむりやり成長進化させる。
 普通なら、強制的に短時間で成長進化させると激烈な痛みがある。
 だが、痛覚を遮断しているから、愛玩竜が痛みを感じる事はない。
 問題があるとすれば、成長進化に必要な栄養を補給させなければいけない事だ。

 キュルルルル!

 愛玩竜の望みを無視するわけにはいかない、絶対に。
 子供を抱きしめた時にケガをさせないように、細やかな力加減ができる事。
 子供が寒くないように、腹部にはとても柔らかくて清潔な毛を生やさせる。
 敵が子供に近づく前に排除できるような長く強力な触手を両肩に与える。
 当然だが、長くて強力な首と尻尾の先には、敵を殺せる角と棘を創る。

 キュルルルル、キュルルルル、キュルルルル! 

 それでいて、子供を怖がらせない愛らしい姿にする事。
 優しくてつぶらな瞳に優しい笑顔を浮かべられる表情筋。
 子供が飢えた時に乳を与えられる乳房も創っておいた方がいいだろう。
 強力な四肢では子供優しく抱きしめられないので、両肩に創った触手は自由に大きさも固さも変えられるようにしておこう。

 キュルルルル、キュルルルル、キュルルルル。

 愛玩竜は満足してくれたようだが、これでは俺が満足できない。
 子供のために創りだした毛と乳房がある腹部が弱すぎる。
 腹部を攻撃された時に愛玩竜が殺されるような事があると、子供が哀しむ。
 だが愛玩竜の望みをかなえるためには腹部表面を強化する事はできない。
 大切な内臓を守る鱗を表皮と皮下脂肪の下、内臓のうえに創ろう。

 キュルルルル、キュルルルル、キュルルルル! 

 愛玩竜も満足してくれたようだが、肝心の子供は満足してくれたのだろう?

「きゅるるちゃん、きゅるるちゃん、きゅるるちゃん」

 大きく強くなったキュルルちゃんを恐れる事なく、幼い女の子が抱きついていく。
 成長進化したばかりのキュルルちゃんが、触手を使ってお腹に抱きついてきた子供を優しく包み込む、舌で舐めている。
 これはいけない、唾液が臭くないか確認して、臭いようなら、いい香りがする物質を作り出す器官を口の中に創ろう。
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