勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全

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第一章

第22話:馬上槍試合の日程

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 聖歴1216年2月7日:エドゥアル視点

「真の勇者エドゥアル、お願いがあります」

 馬上槍試合、ジョストに誰を送り込むのか。
 大陸中に、俺と偽者の勇者の実力差だけではなく、王家や貴族が誇る騎士や戦士との実力差も思知らせるには、まだ幼い孤児や弱弱しい女性を選ぶべきだった。
 だが、嫌がる人をむりやり馬上槍試合に出す気はない。
 だから、立候補する者の中から選ぼうと思っていたのだが……

「なんだい、かしこまって。
 よほど無理なお願いでないかぎり、聞いてあげるよ、ペトロニーユ」

「私とお姉様を馬上槍試合の代表にしてください」

 話しかけてきた時の表情と声の調子で、そう言うと思っていた。
 問題は、代表になりたいと言うのが、前に出て来て話しかける勇気のあるペトロニーユだけではない事だ。

「ふむ、前に出てきて直接願いを口にしたペトロニーユならば、どれほど厳しい修行でも耐えるだろうが、妹の後ろに隠れるようなアリエノールには無理だろう」

「いえ、妹の私がアキテーヌ公爵位を継ぐわけにはいきません。
 お姉様にも戦ってもらわなければいけません」

 妹にここまで言われても、妹のスカートの影から出られないのか。

「ペトロニーユ、人には持って生まれた向き不向きがある。
 自分に向かない事をやり続ける事はとても苦しく辛い。
 その辛く苦しい事をやり続けるにはよほどの覚悟がいる。
 アリエノールには無理だ、姉を愛しているのなら代わってあげなさい」

「確かに、私がお姉様と代わって差し上げる事ができるのなら、それが1番です。
 ですが、残念ながら、代わって差し上げることはできません。
 私が代わって差し上げようとしたら、必ず私たち姉妹の仲を裂こうとする者が現れます」

 確かに、この世界の家督は男子優先なだけでなく年長者優先でもある。
 人格や能力によほどの欠点がない限り、男性の年長者が家督を継ぐ。
 アリエノールは少々気弱なところはあるが、無能とは言えない。
 気弱と言う事は、普段から家臣や家人に優しかったという事だ。
 そんなアリエノールを慕う忠臣が、ペトロニーユを敵視し狙う可能性もあるな。

「私たち姉妹がずっと独身でいられるのならば、何とかなるかもしれません。
 ですが、家と血を残すためには、婿をとらなければなりません。
 それぞれの婿が、アキテーヌ公爵家を我が物にしようとして、私たち姉妹の仲を裂こうとするのは確実です。
 私がお姉様よりも目立つ事は許されないのです」

 黙っている俺を説得しようと、切々を訴えてくるが、俺よりも姉を説得しろ。
 ペトロニーユの不安は当たっているだろう。
 目立たないようにペトロニーユが馬上槍試合に出ない選択肢があればいのだが、それでは婿や婿の実家に舐められてしまう。
 女性でもアキテーヌ公爵家継げるだけの実力がある事を証明しなければいけない。

「……真の勇者エドゥアル様、私は怖いのです。
 馬上槍試合で無様に負けて、やはり女などにはアキテーヌ公爵家は継げないと言われるのが、夜も眠れないほど恐ろしいのです」

 やっと口を開いたアリエノールが震えながら話しだした。
 本当に誇りと名誉を失う事が怖いのかもしれないが、もしかしたら、単に馬上槍試合に出る事や俺の訓練が怖いだけかもしれない。
 だが、真実を口にせず、誇りと名誉の問題だと嘘をついているのなら、嘘に合わせて行動するしかない。

「お姉様……」

「本気で、命がけで訓練すると言うのなら、偽者の勇者ごときには負けませんよ。
 まして王家や貴族家の騎士や戦士には絶対に負けません。
 2人が負けるとすれば、我が家の代表だけでしょう。
 ですが、なんの心配もありません。
 勝ち残って我が家の代表と戦う事になった時は、師匠である私が戦う事を禁止しますから安心してください。
 同門同士の戦いは禁止していると言えばいいだけです。
 それでアキテーヌ公爵家の名誉は守られます。
 それでも馬上槍試合に出るのは怖いですか?」

「……でます、ださせてください。
 その代わり、絶対に勝たせると約束してください」

 これでいい、これで訓練が辛い嫌だと逃げだすようなら、ペトロニーユも姉を馬上槍試合に出すのをあきらめるだろう。

「安心してください、私の弟子以外には絶対負けないよう育ててあげます。
 休む事も逃げる事も絶対に許さずに、徹底的に鍛えてあげます」

 別に逃げたければ逃げればいい、俺の知った事ではない。

 聖歴1216年2月8日:エドゥアル視点

「くっくっくっくっ、国王の臆病にもほどがあるな。
 あの無様な姿、思い出しても笑いが止まらんのじゃ」

 今朝早く、俺は王城に乗り込んで馬上槍試合に弟子を参加させると宣言した。
 入城を邪魔しようとした騎士や兵士は、半殺しにしてやった。
 曲がりくねった罠だらけの通路など面倒なので、城壁や壁を粉砕して直進した。
 国王や王族、重臣連中は顔を真っ赤にして怒っていたが、知った事ではない。
 それに、少し殺気を放っただけで失禁脱糞するような奴に礼をとる必要はない。

「臆病なのは悪い事ではない。
 強者から逃げて生き延びるためには、とても大切な能力だ」

 ゴッドドラゴンのラファエルは生まれた瞬間からほぼ無敵だからな。
 弱者の本能や気持ちは理解できないだろう。

「くっくっくっくっ、確かにそうじゃな。
 だが、国王が真の勇者を恐れて失禁脱糞したと言う噂が広まれば、王の求心力が地に落ちて、教団や貴族たちの力が強くなるのじゃ。
 その点はどうするつもりなのじゃ、エドゥアル」

 いや、管理神にむりやり弱小な人間の従魔にさせられそうになったのだ。
 弱者の気持ちも多少は理解できるようになったのだな。

「別にどうもしないぞ。
 国王にこちらの決めた馬上槍試合の日程を伝えに行ったのと同じだ。
 今王家と敵対している教団や貴族には、俺が日程を知らせに行く。
 その時に、国王と同じように失禁脱糞したら、そいつらの求心力もなくなって、内戦を続ける事もできなくなるだろう。
 地に落ちた名誉を少しでも取り戻そうと思えば、馬上槍試合で俺の弟子に勝つしか方法がなくなるだろうな」
 
「くっくっくっくっ、そういう計算だったのじゃな。
 確かに、それほどの恥をかいたら、エドゥアルの決めた日程に反対すれば、戦うのが怖くて難癖をつけていると言われるのじゃ。
 何も分からないバカが難癖をつけたら、憶病で卑怯だと噂を流すのじゃな。
 エドゥアルお思い通りの日程と組み合わせでやれるのじゃ」

「王や貴族の好きにやらせたら、初戦から弟子同士が潰し合う組み合わせにされる事が目に見えていたからな。
 逃げたとか細工をしたと言われないようにするには、俺の提案した通りにするしかないのだよ」

「くっくっくっくっ、はっはっはっはっはっ、悪い奴じゃ」

「笑いすぎだぞ、ラファエル」

「すまんのじゃ、だがおかし過ぎるのじゃ。
 ……だが、本当にあの日程でよかったのか。
 ここまで有利のなったのじゃ。
 もっと引き延ばして訓練時間を確保した方がよかったのではないか」

「あまり長く引き伸ばしたら、度し難い策謀を巡らせようとするだろう。
 それこそ、孤児や元奴隷たちの家族や友人知人を人質に取るかもしれない。
 人質に取られても手先をぶち殺して助け出せばいいが、そのような人間の下劣さを見るのが我慢ならないのだよ。
 同じ人間として、情けなさ過ぎるだろう」

「わかったのじゃ、妾も同じ立場ならそう思ったのじゃ。
 自分と同じ種族が下劣で卑怯で憶病で無能だと見せつけられるのは嫌なのじゃ」

「……自分で言うのはいいが、ラファエルに人間の悪口を言われると腹がたってくるから、もう何も言わないでくれ」

「くっくっくっくっ、はっはっはっはっはっ、わかったのじゃ。
 それで、妾に頼みたい事というのはなんじゃ。
 食糧の確保や配達に忙しくて、エドゥアルと一緒にいられる時間が少ないのじゃ。
 寂しいから一緒に寝てくれと言うのなら、よろこんで寝てやるのじゃ」

「じゃかましいわ、誰がそんな事を口にするか。
 もっとやる事を押し付けて、ラファエルと一緒にいる時間を減らすだけだ。
 以前集めてくれた愛玩竜だけでは少なすぎる。
 それと、愛玩竜だけでは少々心もとない。
 走竜、駄竜、騎竜にできそうな野生種の竜を集めて来てくれ」
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