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第一章

第16話:不安と恐怖と対処法

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 聖歴1216年1月16日:エドゥアル視点

「ぜんぜん動揺しておらんな、エドゥアル。
 まだ村の者たちから噂を聞いていないのか」

「何を興奮しているのだ、ラファエル。
 神と比肩する強大なゴッドドラゴンの王女ともあろう者が、人間界の噂ごときに興奮してどうするのだ」

「うっおっほん、たかが人間の噂などに興奮などせぬのじゃ。
 エドゥアルの事が噂されているから興奮してしまっただけじゃ」

「やれ、やれ、どんな噂かは知らないが、どうせ国や教団が、勇者のやった事を利用して、俺を取り込むために流しているのだろう。
 国や教団が何をしようと興味はない、俺には関係ない事だよ。
 俺のやるべき事は、教団の悪事で傷ついた人たちを癒す事だけさ」

「つまらんのう。
 ここにいる人たちに代わって、国を利用して教団に報復しないのか」

「教団に好き勝手せるような無能で無責任な国と係わる気などまったくない。
 それと、直接悪事に手を染めた連中は、証拠もあるからぶちのめしてやったし、傷つけられた人たちが復讐するのも手助けした。
 だけど、証拠のない連中に罰を与える事はしない。
 そんな事をすれば、俺は力のままに好き勝手に振舞う神と同じになってしまう。
 あんな連中と同じ事をするのは俺の誇りが許さない」

「それではおもしろくないのじゃ。
 悪い事をした者には罰を与えるべきなのじゃ」

「ラファエルの言っている事は正しいが、正義を行うには面倒な準備が必要なのさ。
 黒幕が犯罪に加担している事を証明しなければいけない」

「エドゥアルが言っている事は分かるが、心がイライラとするのじゃ。
 それに、黒幕が大人しくしてしまったら、もう証拠が集まらんぞ」

「心配しなくても、あのような連中は、必ずまた悪事を働く。
 黒幕が動いたら証拠をつかめるように手を打ってあるから心配するな。
 それよりも、ここにいる人たちを幸せにする事が先だ」

「エドゥアルがそこまで言うのなら、しかたがないのじゃ。
 妾もここにいる人たちを幸せにする手伝いをするのじゃ」

「ラファエルが手伝ってくれると言うのなら、神以外が近づけないようにしてくれ。
 ラファエルがこの都市の周りに縄張りを主張してくれたら、純血種のドラゴンであろうと近づかなくなる。
 この都市の中で飼う家畜も、絶対に逃げ出さなくなる」

「分かったのじゃ、どこからどこまでに気配をすり込めばいいのじゃ」

「俺が築いた城塞都市の周囲20kmを囲むようにしてくれ。
 ただし、ラファエル個人の魔力や命力は絶対に漏らさないでくれ。
 ゴッドドラゴン共通の気配で縄張りを主張してくれ。
 何度も言って悪いが、まだ管理神に見つかるわけにはいかないのだ。
 今の倍、俺と出会った頃と比べて100倍の魔力になるまで我慢してくれ」

「妾を救うだけでなく、これほど強くしてくれたエドゥアルにそう言われたら、もう何も言えないのじゃ。
 今の倍の強さになるのは大変じゃが、頑張るのじゃ。
 絶対にエドゥアルの手助けになれるようになるのじゃ」

 聖歴1216年1月17日:エドゥアル視点

「エドゥアル様、水牛のタンを燻製にしました、食べてみてください」

 満面の笑みを浮かべて俺の所に駆けてくる女性。
 思っていたよりも早く笑顔を浮かべてくれるようになった。
 俺のいない所では、1人の時には、涙を浮かべているのかもしれない。
 苦しい時を思い出して、死にたい気持ちになっているのかもしれない。
 でも、少なくとも俺の前だけは、幸せそうに笑ってくれるようになった。

「ああ、よろこんで食べさせてもらうよ。
 だが、1人で食べても美味しくないから、一緒に食べよう」

「ずるい、ずるい、ずるいわよ。
 わたしも猪でハムを作ったのよ。
 エドゥアル様に試食していただきたいわ」

「いいぞ、いくらでも試食してあげるぞ。
 だがやっぱり試食をみられるだけでは愉しくない。
 お前も一緒に食べようじゃないか」

「ちくしょう、男はのけものですか、エドゥアル様。
 男だってエドゥアル様と一緒に食べたいですよ。
 燻製やハムは作っていませんが……」

「だったら野牛を狩ってバーべーキューでもするか?
 誰かをえこひいきする気も差別する気もないから、俺と一緒に食べたい者は全員集まればいい。
 それと、誰かが仕事で来られないと言うのは嫌だから、今日の仕事や当番はラファエルにやってもらうから、安心しろ。
 それに、俺と一緒に食べるのが嫌な者は無理に来なくてもいいぞ」

「何を言っているのですか、エドゥアル様」
「そうですよ、エドゥアル様」
「エドゥアル様と一緒に食事がしたくない者なんて、この村には1人もいません」

「わかった、わかった、わかったから落ち着け。
 バーベキューをするのに異議がないのなら、俺が野牛をさばいて焼いてやる。
 だから、せっかく作った保存食は大切にとっておけ」

「エドゥアル様は何も分かっておられません」
「そうです、エドゥアル様は女心を分かっていないです」
「そうですよ、私たちは自分が作った物をエドゥアル様に食べていただきたいのですよ、わかっています? 分かっていませんよね?」
「そうですよ、エドゥアル様が作ってくださった料理も食べたいですが、自分たちが作った物も食べていただきたいのです」

「ごめん、ごめん、ごめん、ちゃんと食べるから。
 お前たちが作ってくれた料理はちゃんと食べるから、そう怒るな。
 だけど、俺がしばらくここに来られなくなる可能性もあるから、保存食はちゃんと確保しておくのだぞ」

「……何か危険な事でもあるのですか、エドゥアル様」
「私たちを見捨てたりはしないですよね、エドゥアル様」
「お願いです、エドゥアル様、私たちを見捨てないでください」

「ちがう、ちがう、ちがう、絶対に見捨てたりはしない。
 ただ、お前たちの時と同じように、不幸に見舞われた人を見つけたら、助けに行かなければいけないから、その時にはしばらく忙しくなる。
 その時の事を言っているだけだから、見捨てると言う話ではない」

「……絶対に見捨てないでください、エドゥアル様」
「他の不幸な人を見捨てろなんて言えないけれど、必ず戻ってきてください」
「エドゥアル様に見捨てられたら、私たちは生きていけません」
「……お手伝いできるようになったら、一緒に連れて行ってくださいますか」
「エドゥアル様、どんな厳しい修行もします、だから一緒に連れて行ってください」

「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だから。
 絶対にお前たちを見捨てるような事はないから安心しろ。
 残念だけど、少々鍛えた程度では一緒に連れて行けないから。
 勇者を騙るくらい強い敵もいるから、上級冒険者くらい強くならないと、足手まといになるから、一緒に連れて行けないから」

「では、他に何かエドゥアル様のお役に立てることはありませんか?」
「私も、私もエドゥアル様のお役に立ちたいです」
「エドゥアル様がおられなくて、何もする事がなかったら、嫌な事を思いだして頭がおかしくなってしまいます」
「私もです、私もエドゥアル様がおられないと不安でしかたがありません」

「分かった、だったら何か忙しく働かなければいけない役目を与えよう。
 いや、役目を与えるだけでは、不安や恐怖はなくならないな。
 お前たちの不安や恐怖を取り除けるくらい、強い護り手がいればいい。
 お前たちを護ってくれる従魔がいればいいのではないか。
 犬が好きな者は、狼の従魔と仲良くなれるようにしてやろう。
 猫が好きな者は、虎の従魔と仲良くなれるようにしてやろう。
 蛇や蜥蜴が怖くない者には、ドラゴンの従魔と仲良くなれるようにしてやろう」

「ドラゴンのような強力なモンスターを従魔にできれば、エドゥアル様と一緒に行けるのではありませんか?」
「だったら私もドラゴンを従魔にしたいです、お願いします、ドラゴンをください」
「ドラゴンでお願いします」
「私もドラゴンでお願いします」
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