上 下
65 / 212
本文

虎獣人村

しおりを挟む
「急いで奥山に人をやるのだ!」
「そうだ、身体能力のいい者を派遣しろ!」
「急がないと魔境から魔獣が出てきてしまうぞ!」
「そろそろ境界があいまいな時期になる。急がないと手遅れになるぞ」
 ルイが迷子になっていた女子供を連れて行った村では、村人たちが必死の形相で捜索の準備をしていた。
「迷子を連れてきました。元の村に戻れるように手配してください」
「なんだと?! 今はそれどころじゃないのだ」
「おじさん!」
「おお、ジークじゃないか?! よく無事で戻ったな」
「私はまだ迷子の捜索をしなければいけないので、後は頼みましたよ」
「待ってくれ! あんたが助っ人に来てくれた人間だな? 失礼な言い方をしてしまったが、ジークを探し出してくれたこと、心から感謝する。だが感謝はしているが、この村以外の迷子は他の村に連れて行ってくれないか?」
「それはあまりに薄情ではありませんか? それに私はまだ迷子の捜索をしなければいけないのです」
「あんたがこれからも迷子の捜索をしてくれるのは、心から感謝している。だが我々も、魔境から溢れ出る魔物を防ぐのに手一杯なのだ」
「魔境から魔物があふれるのですか? ボスを倒してスタンピードでも起こるのですか?」
「いや、そうではない。ここから更に山奥に入ったところに魔境があるのだが、その魔境は月の満ち欠けで境界が変わってしまうのだ」
「初めて聞く現象ですね」
「ああ、ここの魔境独特の状況なのだが、タイミングの悪いことに一番魔境が大きくなる日に人間族の襲撃があり、多くの獣人が奥山の方向に逃げたから、魔境の境界線に人を送らないといけないんだ。とてもよその村の人たちを預かれる状況じゃないのだ」
「ならば私が魔境との境界線に行きましょう」
「なんだって?!」
「私なら空を飛べるので、魔境まで一飛び。それに魔物が襲ってきても、緋緋色金級までなら撃退して見せますよ。安心してください」
「大きく出たな! だがあんたなら本当にやってくれそうだな。分かった、あんたに任そう」
「「「「「若頭!」」」」」
 ルイと虎獣人の若頭は馬が合ったのだろう。
 少し話をしただけで深く互いを信頼し合う事ができた。
 自警団の他の虎獣人は、ルイを信用しきれないようだったが、若頭の判断と指示を尊重して、魔境方面に全自警団員を送り込むのを止め、ルイが連れてきた迷子の出身村に連絡員を送るのであった。
 身体能力に秀でた獣人族の中でも、虎獣人は飛び抜けて戦闘力が高く、魔境のスタンピードに備えると同時に、魔境で狩りをして生計を立てていたのだ。

虎獣人村自警団
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処理中です...