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第一章

第5話オアシス

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 何の問題もなく、たった一度の奉納舞で、水が湧きだしました。
 貧民達は歓声を上げ、我先に水を貪り飲みました。
 私には特に何の感慨もありませんでしたが、彼らには重大な事でしょう。
 王都を捨てて大荒野についてきましたが、先行きが不安だった事でしょう。
 大荒野で生きて行けるのか、心底心配していたはずです。
 ですが、泉が湧いたことで、私が今も舞姫である事が証明されたのです。

 泉の水は尽きることなく滾々と湧き、結構大きなオアシスとなりました。
 手持ちの食糧がありますから、来年の収穫まで飢える心配はありません。
 問題は昼の日差しと夜の寒さを避けるための家ですが、今は狭くても馬車や天幕を利用してもらうしかありません。
 でも、今後の事を考えれば、それなりの家を建てる方が安心です。
 今作れる材料は、日干しレンガと牛糞になりますが、レンガですね。

 私の指示は寸刻の間を置くことなく直ぐに受け入れられました。
 神の加護を受けた聖なる舞姫の命令であり、日々の食糧を恵んでくれる主人でもあるのですから、普通に考えれば当然と言えば当然なのです。
 でも、神の加護がないと分かれば、私を襲う者も食糧を奪おうとする者もでます。
 それが弱肉強食の貧民街で生き残ってきた者の正義です。

 だから、私は日々力を見せつける事にしました。
 まあ、神々との交感が幸福感や快感を与えると事もその理由です。
 なんと言っても神々と交感を持つというのは、人間の常識を超えた事なのです。
 私が授かる力と知識は、今の人間が持っているモノとは比較になりません。
 私はその力を使って、オアシス周辺に農園を作る事にしました。

 大荒野に来る前から、こうなる事が分かっていましたから、オアシス周辺に植える植物の種は確保しています。
 ナツメヤシ、オリーブ、イチジク、ブドウ、リンゴ、オレンジ、コーヒー、キャッサバ、綿花、大麦、牧草などの種です。
 できれば人間の手入れが少なくてすむ物がいいのですが、広大な耕作地が確保できる以上、周辺部は貧民達に与えなければいけません。

 神々から与えられた力は、まさに奇跡の力で、本来なら実をつけるまでに何年何十年もかかる植物の成長が、ほんの一瞬で成し遂げられるのですから。
 オアシスに最も近く、私が直接支配する場所には、成長の遅い分樹齢の長い樹木が一気に育ち、たわわに実をつけました。
 その光景を見ていた貧民達は、地に伏して私を崇めています。
 当然の事で特に感慨はありませんが、この機に心を支配してしまいましょう。

「神々から授かった力を発揮しただけです、驚くにはあたりません。
 この実りはそなたたちに下げ渡しますから、存分に食べなさい」
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