2 / 8
第一章
第2話想定外
しおりを挟む
「え、あ、うむ、そうだな、えええっと、それがだな。
え、なに、そうか、そうだな、そうしよう。
うむ、舞姫の申す事、それがよかろう、よくぞ申した、殊勝である」
私の不意討ちを受けて、王太子が狼狽しています。
私を追い込むために、色々と策を弄して準備をしていたのでしょう。
ですが、私に機先を制されて、策を使うことができなくなったのでしょう。
私を殊勝だとほめて、穏やかに舞姫の座を明け渡す策の転じたようです。
でもそれは、側にいるジプシーの踊り子が耳元でささやいてようやく決断できたことで、王太子独りでは決断できなかったでしょう。
後は、私と踊り子がとっさに描いた筋書き通りになりました。
当初王太子が描いていた謀略とは全く違う、想定外の決着です。
でもそれが、私と踊り子、両方の望みを適える方法です。
ジプシーの踊り子は、新しい聖なる舞姫に選ばれました。
王宮と神殿の両方に部屋が与えられ、一座のジプシー達が側仕えとなります。
各地で迫害されてきたジプシーには、絶対に失う事の出来ない地位です。
そして私は、先代舞姫として、隠居領を与えられました。
果てが分からないほど広大な土地ではありますが、水源が全くなく、わずかに乾燥に強い植物があるだけの、耕作ができない不毛の大地です。
王太子との婚約は破棄され、神殿と王宮で与えられている部屋と地位を奪われ、見方を変えれば事実上の追放刑ですが、それが私の心からの望みなので、むしろありがたい話です。
ですがこの結果は、王家の滅亡を願う全ての貴族士族にとって想定外でした。
私を王太子が無理矢理還俗させる事で、守護神の加護が失われ、王家が滅亡する事を前提に、貴族士族は今後の方針を立てていたのです。
舞姫の地位を降り隠居したとはいえ、聖なる舞姫である私が無事なのです。
そして本当に神に選ばれたかは不明でも、新たな聖なる舞姫も無事に選定された。
この事で守護神の加護が続くのか失われるのかが、彼らには大問題なのです。
「舞姫様、この度の事、大変でございましたな。
それで、実際問題どうなのでございます、守護神様は本当に新しい舞姫を気にいられたのでしょうか?
いえ、なにも、王家や神殿を疑っているわけではないのです。
舞姫様が守護神様に気にいられるかどうかで、我が領の実りも左右されますので、領民の事を思うと、とても心配なのでございます」
白々しい嘘をつく、誠実さの欠片もない男です。
この男が領民を想うなど、聞いたこともありません。
王国法を超えた過酷な年貢を課し、払えない領民は情け容赦なく奴隷に落とす、冷酷無比で極悪非道な領主だと聞いています。
このような男は無視しするに限ります、どうせ新たな主として選んだ隣国の王に命じられて、情報収集しているのでしょう。
そうだ、ちょっと意地悪をしてやりましょう。
え、なに、そうか、そうだな、そうしよう。
うむ、舞姫の申す事、それがよかろう、よくぞ申した、殊勝である」
私の不意討ちを受けて、王太子が狼狽しています。
私を追い込むために、色々と策を弄して準備をしていたのでしょう。
ですが、私に機先を制されて、策を使うことができなくなったのでしょう。
私を殊勝だとほめて、穏やかに舞姫の座を明け渡す策の転じたようです。
でもそれは、側にいるジプシーの踊り子が耳元でささやいてようやく決断できたことで、王太子独りでは決断できなかったでしょう。
後は、私と踊り子がとっさに描いた筋書き通りになりました。
当初王太子が描いていた謀略とは全く違う、想定外の決着です。
でもそれが、私と踊り子、両方の望みを適える方法です。
ジプシーの踊り子は、新しい聖なる舞姫に選ばれました。
王宮と神殿の両方に部屋が与えられ、一座のジプシー達が側仕えとなります。
各地で迫害されてきたジプシーには、絶対に失う事の出来ない地位です。
そして私は、先代舞姫として、隠居領を与えられました。
果てが分からないほど広大な土地ではありますが、水源が全くなく、わずかに乾燥に強い植物があるだけの、耕作ができない不毛の大地です。
王太子との婚約は破棄され、神殿と王宮で与えられている部屋と地位を奪われ、見方を変えれば事実上の追放刑ですが、それが私の心からの望みなので、むしろありがたい話です。
ですがこの結果は、王家の滅亡を願う全ての貴族士族にとって想定外でした。
私を王太子が無理矢理還俗させる事で、守護神の加護が失われ、王家が滅亡する事を前提に、貴族士族は今後の方針を立てていたのです。
舞姫の地位を降り隠居したとはいえ、聖なる舞姫である私が無事なのです。
そして本当に神に選ばれたかは不明でも、新たな聖なる舞姫も無事に選定された。
この事で守護神の加護が続くのか失われるのかが、彼らには大問題なのです。
「舞姫様、この度の事、大変でございましたな。
それで、実際問題どうなのでございます、守護神様は本当に新しい舞姫を気にいられたのでしょうか?
いえ、なにも、王家や神殿を疑っているわけではないのです。
舞姫様が守護神様に気にいられるかどうかで、我が領の実りも左右されますので、領民の事を思うと、とても心配なのでございます」
白々しい嘘をつく、誠実さの欠片もない男です。
この男が領民を想うなど、聞いたこともありません。
王国法を超えた過酷な年貢を課し、払えない領民は情け容赦なく奴隷に落とす、冷酷無比で極悪非道な領主だと聞いています。
このような男は無視しするに限ります、どうせ新たな主として選んだ隣国の王に命じられて、情報収集しているのでしょう。
そうだ、ちょっと意地悪をしてやりましょう。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
遊び人の婚約者に愛想が尽きたので別れ話を切り出したら焦り始めました。
水垣するめ
恋愛
男爵令嬢のリーン・マルグルは男爵家の息子のクリス・シムズと婚約していた。
一年遅れて学園に入学すると、クリスは何人もの恋人を作って浮気していた。
すぐさまクリスの実家へ抗議の手紙を送ったが、全く相手にされなかった。
これに怒ったリーンは、婚約破棄をクリスへと切り出す。
最初は余裕だったクリスは、出した条件を聞くと突然慌てて始める……。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
体裁のために冤罪を着せられ婚約破棄されたので復讐した結果、泣いて「許してくれ!」と懇願されていますが、許すわけないでしょう?
水垣するめ
恋愛
パーティ会場、観衆が見守る中、婚約者のクリス・メリーズ第一王子はいきなり婚約破棄を宣言した。
「アリア・バートン! お前はニア・フリートを理由もなく平民だからと虐め、あまつさえこのように傷を負わせた! そんな女は俺の婚約者に相応しくない!」
クリスの隣に立つニアという名の少女はクリスにしがみついていた。
彼女の頬には誰かに叩かれたように赤く腫れており、ついさっき誰かに叩かれたように見えた。
もちろんアリアはやっていない。
馬車で着いてからすぐに会場に入り、それからずっとこの会場にいたのでそんなことを出来るわけが無いのだ。
「待って下さい! 私はそんなことをしていません! それに私はずっとこの会場にいて──」
「黙れ! お前の話は信用しない!」
「そんな無茶苦茶な……!」
アリアの言葉はクリスに全て遮られ、釈明をすることも出来ない。
「俺はこいつを犯罪者として学園から追放する! そして新しくこのニアと婚約することにした!」
アリアは全てを悟った。
クリスは体裁のためにアリアに冤罪を被せ、合法的に婚約を破棄しようとしているのだ。
「卑怯な……!」
アリアは悔しさに唇を噛み締める。
それを見てクリスの傍らに立つニアと呼ばれた少女がニヤリと笑った。
(あなたが入れ知恵をしたのね!)
アリアは全てニアの計画通りだったことを悟る。
「この犯罪者を会場から摘み出せ!」
王子の取り巻きがアリアを力づくで会場から追い出す。
この時、アリアは誓った。
クリスとニアに絶対に復讐をすると。
そしてアリアは公爵家としての力を使い、クリスとニアへ復讐を果たす。
二人が「許してくれ!」と泣いて懇願するが、もう遅い。
「仕掛けてきたのはあなた達でしょう?」
令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。
夢草 蝶
恋愛
公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。
そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
さようなら、たった一人の妹。私、あなたが本当に大嫌いだったわ
青葉めいこ
恋愛
おいしい?
よかったわ。あなたがこの世で飲む最後のお茶になるからね。
※番(つがい)を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる