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 私ローズ・ド・マルタンは公爵家の長女です。
 名門貴族の長女に生まれ、大きな責任を背負わされました。
 長年子供のできなかった父上は、生まれたばかりの私を、新生児にもかかわらず、早々に後継者指名したのです。
 ですがそれが間違いでした。
 翌年に妹のアンナが生まれたのです。

 私の母親はマルタン公爵家の平民出身です。
 本来なら妾として愛されることはあっても、生まれた子供が後継者に指名されることなど絶対にないのです。
 貴族の慣習として、絶対に許されない事なのです。
 今回のように父上の、父上の血を受け継ぐ後継者がいない場合にだけ、渋々認められるだけです。

 でも普通は、両親ともに貴族家出身の親族の子供を養子に迎えるのです。
 半分平民の血が流れている私を後継者に選ぶことは、貴族社会では嫌がられることなのです。
 ですが父上は断行してしまいました。
 どうしても自分の血を引き継いだ子供にマルタン公爵家を継がせたかったのです。
 そのために、容姿年齢など関係なく、経産婦を強権的に自分のベットに引き入れて、無理やりにでも子種をそそいだのです。

 しかも私が生まれて一年も経たない間に、妹のアンナが生まれてしまいまいた。
 アンナの母親も貴族ではありません。
 マルタン公爵家に仕える陪臣徒士家の出です。
 純粋な貴族からの評価では、母親が平民出身であろうと士族家出身であろうと同じで、紛い物の貴族なのです。

 ですがアンナの母親や実家にとって重大事です。
 いえ、マルタン公爵家に仕える陪臣士族には重大な事なのです。
 彼らから見れば、私が後継者になるのは許し難いことなのです。
 私は命を狙われました。
 父上個人に忠誠を誓う家臣が護ってくれなければ、確実に殺されていました。
 大陸有数の魔法戦士だったリュカがいてくれたから、私は生き残れました。
 でももう今は、そのリュカもいません。

 父上も自分の考えが私の命を危険にさらし、マルタン公爵家を大混乱させたことを反省されたのでしょう。
 なによりも、自分の血を引き継ぐ二人の娘を、二人とも無事に生き延びさせたいと考えたのでしょう。
 殺しあう事がなくても、二人とも無事に成人できるかなんて、誰にもわからないのですから。

 父上は当時存命だったリュカに相談して、起死回生の策を取られました。
 私を廃嫡して第一王子の婚約者にし、妹のアンナをマルタン公爵家の後継者に変更したのです。

 とても大胆な方針転換でした。
 アンナを後継者に変更することで、家臣団の望みを優先しました。
 これには家臣団も大喜びしました。

 同時に私を第一王子の婚約者にすることで、王家との絆を強くし、マルタン公爵家の影響力を今以上に王家に及ぼすことができます。
 利用できる駒である私を、家臣団が自ら壊すことはないと考えられたのです。
 当初はその通りになりました。
 ですが、アンナの野望は普通ではなかったのです。
 父上が病に倒れ病床につかれたとたん、アンナは欲望をむき出しにしたのです。
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